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第百十話 オーラ出してすいませんでした

「まったく…… なんだよ。今度から気をつけろよな。ちっ」急速に追及がトーンダウンしていった。

「はい。気をつけます」さわやかな表情を加納はした。


「ま、まあ成約とれたこと自体はいいんだしな」釈然としない表情だが黒崎もそれ以上は声を荒げない。

 今日はまだ被害が小さい。加納もたまには役に立つじゃないか。今度、トナーの交換があったらいつも通りしてやってもいいぞ。


「いやあ、実は僕も次長に報告しようかなって思ったんですけど、出河先輩が……」

「は?」

 なっ、なぜに俺の名が?


「実は、あの日、金曜日で人事課の女子に飲みに行きましょって誘われてたんです」加納はまるっきり関係あると思えない話題を語り出した。

 いやいや、なに言ってんだこいつ?


「それで…… 先輩が俺も連れてけというちょっとウザい感じのオーラを午後中ずっと出してて、それで、そっちが気になっちゃって、つい報告を……」


 なっ、なんだ、その理屈!?

「オ、オーラってなんだよっ?」俺は加納を問いただした。

 いやいやいや、それは違うだろ。だいいち、んなオーラなんか放ってねえしっ。


「いや言い訳でした。僕が悪いんです」加納が誤りを認めた。

「そうだよ。そんなバカな言い訳…… ねえ、次長、そんな理由認めるわけが…… あ、あれ?」

 予想を180度裏切って次長は俺を睨みつけていた。


 ダンッ!

 テーブルに黒崎の拳がぶつけられる。

「おーまーえーかー」

「ひいいっ」

「出河、やっぱり、てめえのしわざじゃねえかよっ!」

 やっぱりてなに? やっぱりて。


 一列に並んだ俺の両隣の唐須と加納がすーっと離れる。

「こんのボケがあああっ!!」

 うひい。首をすくめる。

「まただ。また後ろから撃ちやがった、こいつ!」

「ちっ、違っ……」


「謝れっ。おまえのせいで仲間が全員いやーな気分になっているんだ。この場にいる全員に謝れっ!」

「いや明らかに加納のせいじゃないかと思うん……」

「人のせいにするんじゃないっ!」

 だって俺がオーラ出したからって理由って? それに、次長がゴルフの時にうまくお礼を言っておけばよかった話で、それに、それに、金曜の午後遅くで次長早退してて報告しようにもどうしようもなかったし。


 だいたい、この人、前に発注ミスで時間外に携帯に連絡したらそんなこと明日でいいだろって怒られたのだ。酒が不味くなると…… 本来、トラブルこそ早く連絡しなければいけないと思うのだけど、それさえ怒っておいて、これは連絡しろって……


「ほ、ほら、出河君、変なオーラ出してすいませんでしたって謝ろう。なっ、なっ」課長もさもそれが当然であるかのように言った。

「えっ!?」課長、ち、違うでしょ。オーラ出してって、なにを謝るんだ!?


「こうするんだ。私からも謝罪します。出河君が変なオーラ出してすいませんでしたあああっ」

 ああっ!

 課長はその場で腰を九〇度折り曲げて謝罪した。


「僕にも謝らせてください。出河先輩がウザいオーラ出したためとはいえ、報告をしなかった僕にも責任の一端はあると思うんです。どうもすいませんでした」加納も課長にならって頭を下げた。

 僕にも責任の一端じゃねーよ。一〇〇%おまえの責任だよっ!


 全員の視線が俺に注がれる。理不尽だ。理不尽だ。でも、理不尽だけど俺が頭を下げない限り、このいや~な雰囲気が延々と続いていく。ああ……

「す、すいませんでした。ウザいオーラ出して……」

 仕方なく俺も頭を下げた。


 考えてみれば加納の飲み会をうらやましく思っていたことは事実。ウザいオーラが出ていたということもあるのかも…… って、あるかいっ!


 ノリで頭を下げてしまった。社会人になると自分が悪くなくて、謝らなければならないときがある。謝るかどうかは正しいとかどうかじゃなくて、客と営業や上司と部下という力関係だけで決まるんだ。


「とにかくこの件に関しては勝手に話を進めるんじゃない。今回の納入は見直させてもらう」

「えっ、しかし先方には?」課長が驚いた表情をする。うちの課では、たぶん今年一番くらい大きな契約額だったのだ。

「先方には俺が話をつける。分かったな」

「は、はい、承知いたしました」課長はそれ以上反論しなかった。


 なんで、そんなことになるのだろうか? いつも黒崎次長自身が言っている顧客第一主義はどうなったのだ?


「だいたい出河はだ……」それから結婚式のスピーチくらいの時間にわたって、黒崎は俺の過去の失敗(黒崎がそう思っている)について回想し、みなの前でこき下ろした。顔をしかめながらもどこか嬉嬉としているような雰囲気があった。


「ほんとにダメな先輩を持つと後輩も苦労するよな。加納もこんな社員になっちゃいかん。悪い見本だ」

「でも次長、どうかここは僕に免じて許してあげてください。こんなでも僕の大切な先輩なんです」しおらしそうな顔して加納が言う。


 な、なんか、間違ってねえか?

「ま、おまえがそう言うならな。俺は寛大な上司だから」

「はい、ありがとうございますっ」と加納。

 なんで、おまえがありがとうございますって言ってんだよ……


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