第百八話 またしても騙されたよっ
作戦はどうにかこうにか成功したのだ。俺には成功報酬を得る権利があった。
その場所はとあるネットカフェ。カップルとかグループ用の個室スペースになる。
どこでというのは本当に悩んだ。カラオケは監視カメラがついてるからダメだったし、ホテルとか俺の部屋なんて、そういう関係じゃないのだから、もちろんNGだ。
「お待たせ……」
個室の薄っぺらい扉を開けてとおんが来た。入店は一緒だったけどお手洗いに行くと言って個室を出てたんだ。
彼女はソファの俺の隣に腰掛けた。
「決して、いやらしい目的じゃないんだ。わかってると思うけど……」俺は真剣な表情を作った。いや、本当に真剣なんだ。一ミリだってにやけてなんかない。
「まあ、約束だしね……」
「じゃあ、お願いしますっ!」
とおんはシャツの裾をまくり上げた。
ごくり。ああ、そういう目的じゃないんだけど…… スパイをやってよかった。スパイ万歳だよ……
とおんの白くてくびれたおなかが露わになって、シャツは胸のところまでめくられた。そして小さな赤い布切れにつつまれたふくらみが二つ。
「おおおっ!」
手を伸ばせば届く距離におっぱいがある。
生きててよかった。
とおんのおっぱいを見せてもらうというのが、俺のスパイ活動の成功報酬だった。あの廃鉱山跡で目撃したUFOに乗っていたとおんが俺の幻覚だったのか、それとも本物のとおんを何らかの形で反映したものかどうか、とおんの裸の胸を見れば判るというのが俺の推論だった。もちろん俺はとおんの胸を見たことなどない。だから、とおんの実物の胸を見てあのUFOに乗ったとおんと同じだったならば、UFOのとおんは本物の実体を映したものだろうし、まったく違う胸だとしたら幻覚だということだ。
俺はあのUFOに乗ったとおんが本物か検証することで、UFOが真実だったのか、それとも幻だったのかということを確かめたかったのだ。何度も言うが決していやらしい目的なんかじゃない。
「はい、もういい?」
「え!?」
「約束どおり、おっぱい見せたでしょ」
「いやいやいやいや、な、なに言ってんの! 見せてもらってないし」
赤い布はふくらみに張りついたままだ。
「見せたじゃない」
「いや、そのブラをとってよ」
「はあ? 冗談。なんであたしがナマ乳を見せなきゃいけないのよ」
「いや、だってUFOに乗っていた君が本物か見極めるためには……」
「だっ、だいたい、私の見たって、そのとき見たのと同じかなんてわかんないんじゃない。遠目だったんでしょ」
「おっぱいを見分けることには自信があるっ! その手の画像で不断の勉強を重ねてるからな」
「最低!」
「最低じゃねーしっ」
「ふん、不断の勉強を重ねているなら、なおさら布一枚くらいあったって分かるはずでしょ」
「見せてよ」
「駄目」
「だ、騙されたっ。また騙されたよ…… ぐすっ……」
「だ、騙してなんかないわよ。おっぱいは見せたでしょ。わざわざ、ちゃんとビキニも用意したんだから」
えっ、ビキニ…… つまりそれはブラジャーでさえないのか…… くそおっ!
「そのおっぱいにはな、地球外文明の深遠なる謎が隠されているんだっ!」
「と、とにかく、どんなに電波系なこと言ったって、ナマ乳なんて絶対なしっ。水着の上からならどんだけでも見ていいけど……」
「くそおっ、ビキニに穴があくくらい見てやる」
記憶に残っているあのUFOの裸のとおんの胸の形と、目の前のビキニにつつまれたものの形を重ね合わせる。同じようで、でも、よく判らない。
検証しようとじっと見ていた。
とおんの頬からうなじにかけて赤くなっていた。
意外にあるんだよなと思う……
「ね、もういい?」
「もうちょっと。思い出せそうなんだ」
「もお……」
「動かないでっ!」
「へ、変な感じ……」
結局のところ、UFOに乗っていた裸のとおんと本物のとおんが同じかどうかはブラのせいで判らなかった。約束は反故にされたのだけど、それでも俺にとって悪くないひとときだったし、それなりの成功報酬となったことは事実だ。彼女の身体からするほのかに甘い香りが変なふうに作用して、それ以上強硬に権利を主張する気になれなかったというのもある。
でも、あのブラさえなかったならば……
ブラさえ…… ブラ……