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第百六話 エレクトリカルブレード

「もう逃げられんぞ。おまえ何者だ?」白衣の一人が言った。

『睦人、戦いなさい』とおんの声だ。

『えっ?』

『すぐにそっちに着くわ。だから一分だけ持ちこたえるのよ。エレクトリカルブレードで』


 俺が戸惑いながらその電気の刃を起動した瞬間、白衣の男たち二人が俺に飛びかかってきた。取り押さえようと伸ばした手を黄金色に輝く電刃で払うと、一人は感電のショックでぎゃっと叫んで倒れた。失神して床で伸びている。


 エレクトリカルブレードもとおんに渡されていたスパイの装備の一つだ。起動すると磁場の中に電流を封じ込め、刀のように成形されるもので、いわばスタンガンをソード化したと言えるものだった。起動しなければ柄の部分だけなので携帯性も高い。


 丸腰だと思っていた相手が急に攻撃してきたので面食らったのだ。残った一人も顔色を変えて後ずさる。

 上段から頭を狙うフェイントを入れて変化し、腹をなで切りにした。


「ぐへっ!」 痺れながら白衣が崩れ落ちる。

 あっさりと俺は二人を倒していた。

 こいつら、ぜんぜん弱いぞ……

 感想はこれまで何回か無理やりトレーニングさせられたとおんに比較してだ。もちろん武器を持っていない相手というのもあるが、こいつらはふだん戦う準備なんてしていないのだ。


「先生方はさがっといたほうがいい」メガネの黒スーツが研究者らに指示した。

 男は格闘技っぽい構えをした。丸腰で俺を相手するってのか。こいつ強いのか? とおんの強さには俺はまだかなわない。だが、とおんが一般人とは段違いの格闘能力であることは間違いない。俺はどれくらい強いんだろう?


「うおおぉっ!」

 上段に構えたブレードを振り降ろし、敵に突っ込んでいった。質量ゼロの電気の刃は、重力や慣性の法則を無視した動きが可能で未知の速度で相手に到達する。


 よけようとしたのを見逃さない。左に外れた男をブレードで追いかける。重さのない剣は常識では考えられない軌道で敵に向かう。

「しゃーっ」

 あれ……

 やったと思ったのにブレードの先端は黒スーツの男の鼻をかすめただけだった。


 メガネの奥の眼が俺を凝視していた。

「面白いおもちゃを持ってるな。どこで手に入れた?」男が聞く。

「うるせえよっ!」

 俺は、身体を伸ばしフェンシングのようにブレードを片手持ちにし男を突いた。ギリギリでかわす男に何度も突きを繰り出す。エレクトリカル・ブレードは触れるだけで相手を倒せる。


 あと、わずかで敵に勝てるという自信はあった。ほんの数センチ、あるいは一センチもないほどの距離にまで、俺は敵を追いつめていた。男の背中はもう壁に近い。逃げ場はない。


 ブレードを大きく振りかぶって男に振り降ろした。

 だが、その電気の刃を男は靴の裏で受けた。

「やはりな。ゴム底はセーフか……」

「くそっ」

 そのとき男の身体が舞った。ブレードを受け止めている左足をそのままに、右の軸足が宙に浮いたのだ。


「えっ!?」

 男の右足が俺の腹に突き刺さっていた。

 吹っ飛ばされて俺は床に転がった。

 左足を空中に上げたまま右足で蹴られたのだった。なんだ、この身体能力!? そんなのありか? 


「ぐ、ぐはっ」息ができなかった。

 こっ、こいつ、強え……

『睦人、そいつは訓練を受けてる戦闘員よ。なるべく組み合わずに逃げなさい』とおんの声が耳元に響いた。

 んなこと言うけどさ……


 俺は起きあがろうとした。

「一村、離れろっ!」距離のあるところから声がした。

 銃!! 一村と呼ばれた俺を見下ろす黒スーツの男と、まったく同じいでたちをした男が銃を構えていた。

 銃口はこちらを向いている。


 パンッ!

 一瞬の判断だった。起きあがるのをやめ、頭を下げた俺の上を一本のまばゆい線が走って残像となる。

 壁に当たった。穴が空いたのではなく何かが付着していた。ジワジワと青白く発光している。


「なんだ、この弾?」

『さわっちゃダメッ!』とおんだ。

『こいつは?』

『ビリビリってくるわ。電流を帯びさせたジェル弾。エレクトリカル・ビュレットよ。壁が導電性でなかったらまだ電気が残ってる。エレクトリカルブレードと同じで失神するわ』


「覚悟しな、偽物」男の銃の引き金に指がかかる。

 そのとき、銃を構えた男の右手に何かが当たった。その衝撃で男は銃を取り落とす。

 男の手には矢が刺さっていた。いや、矢ではない。あれだ。注射器のような……とおんの麻酔弾だ。


『到着う~』インカムにとおんの声が流れる。

 吹き抜けの向こう、B1の一つ上、一階のフロアにはトランキライザーガンを手にしたとおんと美々さんの姿があった。


 二人は覆面をしていた。つか美々さんも覆面?

 とおんの銀のラメに対抗したのか、美々さんはピンクのラメだった。顔を隠すだけならサングラスとかいろいろあると思うのだが…… それに黒のボディスーツはいいとして、なぜかキラキラのスパンコールがついていて無駄にゴージャスだ。隠れたいのか目立ちたいのかよく分からない…… 胸元も大きくあいて、身体の豊かなラインが露わになる。


「美しすぎるスパイ見参っ!」二人声をそろえた。

 とおんと美々が背中合わせになって、カメラ目線で、とおんは銃を口元に当ててキスし、美々さんは腕をクロスさせてそれっぽいポーズをとる。

 じ、事前に打ち合わせたのか!?


「覆面じゃ美しすぎるかどうかは……」白衣の一人がつぶやいた。

「おだまりなさいっ! 美しいに決まってるじゃないですの。覆面取ったらびっくりしますわよっ」美々さんが怒る。


 ともかく窮地は逃れた。形勢はこちらが優位だ。

 吹き抜け階段を駆け上がった白衣の研究員を、途中で美々さんが蹴り倒した。階段を転げ落ちていった。

 たよりになるぜ。研究員が束になってかかっても、美々さんやとおんにはかなわないだろう。


『睦人はトラムの方へ逃げなさいっ』ととおん。

『了解』

 駆け出そうとしたときだった。

 エレベーターの扉が開いた。

「げっ!」

 中には黒スーツにメガネの男達がいた。何人もだ。さっきの黒スーツと同じ銃を持っている奴もいる。

 とおんと美々さんと俺の三人よりも多い。どうしよう。

「動くな」そのとき、俺の背中に堅い物が押しつけられた。銃だ。


 振り返るとこれも黒いメガネの男だった。別の方向から忍び寄っていたのか。万事休すだった。

「こっちは確保した。仲間が逃げる。追えっ!」そのメガネの男がエレベーターから出てきた男たちに叫んだ。


『ちっ! 睦人、必ず助け出すからっ』インカムにとおんの声。

 とおんと美々さんが降りてきていた階段を逆に登って一階に逃げる。エレベーターの男たちが追いかけていった。


「こちらに来てもらおう」

 銃口を押し当てられ、男の言うまま歩いていくしかない。


 さっき戦った場所とは棟の反対側に当たる東エレベーターの方だった。角を曲がると片隅に男が倒れていた。下着姿だった……

 押し当てられていた銃口が背中から離れる。

「はは、睦人さん、わ・た・し・ですよ」メガネを外したその男は…… 馬都井くんだった。


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