第十話 ダメ人間一号
「ところで、わたくしの自己啓発セミナーに来た理由を聞かせてもらおうかしら。なにか悩みがあるのですわね」
「いや、だから俺は自己啓発セミナーに来たんじゃなくって」
「あら、恥ずかしがらなくてもいいわ。どう見ても、あなた、ダメ人間ですって顔に書いてあるし」
「どストレートに人を傷つけてくれますよねっ!」
「でも、もう大丈夫よ。このセミナーさえ受けたら大船に乗った気持ちでいていいですから」
「だから違うってば」
「悩みがあるんでしょ。心おきなく言って頂戴」
「だからセミ…」
「そうね、たとえば…… 仕事が出来なさ過ぎてリストラされそうだとか、友達がいなくてネット依存になっているとか、あるいは職場の女子に蛇蝎のように嫌われているとかじゃないかしら」
「聞けよっ!」
「ぐっ」
「お嬢さま、武士の情けですよ。そのあたりのことは、おいおいセミナーの中で明らかにしていってもよろしいのでは」
「たしかにそうね。初対面の相手にははばかれるような、わたくしの想像をはるか超える恥ずかしい悩みを持っているってこともあるかもしれないし。そういう意味では、あなたにはなにか特別なもの、大物感と言ってもいいでしょう、そんなものを感じるわ」
「そんなにダメ人間の印象なんですかっ! いや、だから、そんなんじゃないって言ってんのに。だいたい、ほかに人はいないんですか?」
「おめでとう。あなたが記念すべき第1号よ」
「ぐあ。やらかした~」
くす玉はそういう意味か……
「じゃ、セミナーの説明をするわね」
「つか、ほんと帰るからっ」
「いやいや、まあまあ」
「ちょっと、放してって。間違って来たんだってば。ほんとにっ」