05 Truth
……終わった。
壁に寄りかかりながら座り込む。
ここにあるのはでっかいガラクタと真っ赤な3つの俺の太陽そしてその思い。
一息つく。
その太陽たちを地平線より沈ませることが今はできないけど……。
全てが終わったら必ず!
体は重いし痛いけどそろそろ行かなきゃ。
これで本当の最後だ!
あとは親玉を残すのみ。
武器は刀のみ。
だけど、みんなからもらった溢れんばかりの思いがある。
どんな奴がいて、どんなことが起ころうとも何もかもが恐るるに足らずだ。
俺が入ってきた部屋とは別に一箇所開いているところがある。
あれがそうだろう。ボスへ通じる道。
ズカズカ入るとそこはテニスコートぐらいの部屋だった。
見渡す限りのモニター、コンピュータだった。
「やっと、ここまでたどり着く人間が現れたか。」
奥から声がする。
というか日本語!日本人か!?
驚いた!言われてみればヤマトが見たとかいう入口の文字!
読めたっていうことは日本語。
10年前のテレビ放送では文字だけが映っていたから、しかも英語で。
声がした方を見ると一人の男が椅子にふんぞり返っていた。
年は60ぐらい。中肉中背。そしてどこかで見たことあるような……?
「思っていたより早いような気持ち的には遅いような複雑な気分だ。
とにかく君たちの勝ちだ。さあ私を殺してくれ。」
そうだ、そんなことはどうでもいい。
言われなくてもすぐにすべてに終止符を打ってやる!
抵抗する気がないのはこっちとしても楽だ。
武器は刀しかない。しかも刃こぼれしたやつ。
苦しみながら死んでいけ!
ドカドカ近づきそいつの目の前に立つ。
「世界を征服した親玉がこんなやつだったとはな。
俺の目的はお前を殺すこと。
楽に死んでくれてありがとな。
最後に言い残したことはあるか?
まぁ聞いたところでどうすることもないけどな。」
こいつをやれば全てが終わる。
だから俺も最後を飾りたい。
あいつらほどのカッコよさはないけどな。
しかし、そいつは大きく目を開けて驚くことをつぶやいた。
「……お前、リョータローか?」
振り上げた俺の右手が固まる。
なんだと!?俺を知っている?
誰だ!?
俺が知っている人……
隊長は実際のところ死んだところは見ていないが
こんな顔ではないし俺を確認するのに疑問形なのはおかしい。
となると事件が起こる前に会ったことがある人……?
ロボットを使うところを見ると……キンジ?
いや、俺と同い年だ。
いくらなんでもフケすぎだ。
おっちゃん……。
確かに仮に生きていればこのくらいの年齢のはずだが、顔つきがまるで違う。
それに二人の死体は確認した。あの状態で実は生きていたなんてことはありえない。
生き返ったとかもそんな話はない。
誰だ!?誰なんだ!?
「お前は……、いったい誰だ?」
「俺だよ!キンジだよ!モリヤマキンジだ!
やっぱり俺を倒せるのはお前しかいないな、リョータロー!」
……ヘっ、キンジ!?
確かに言われてみれば顔の特徴はうっすら俺の知っているキンジの面影がある。
そして、キンジの名を語る偽モノということはないだろう。
ほかのやつらとは抜きん出ていたとは言え、それは小学生の中でであって
8歳の時に死んだ子供の名を語る意味はない。
「どういうことだ?なんでキンジがここに?
何でそんなに老けている?」
わけわからない。
つまりどういうことだ。
あの時死んでいたのはなんだ?
「私は未来から来たモリヤマキンジだ!」
全くわけがわからない。
あの時死んでいたはず……。
過去に死んだキンジが未来から来る?
タイムパラドックスが起こっているじゃないか。
なんでキンジがこんなに老けてそこにいる!
「あの時死んでいたのはなんだ!
言っていることが意味不明だぞ!
タイムパラドックスは起こらないのか?」
「なに!?俺はもう死んでいるのか……。そうか……。」
何を言っている?
「まぁ聞きたいことはいっぱいあるだろうけど
ゆっくり順を追って説明するよ」
そう言ってひと呼吸を置くと目の前にいる老キンジはゆっくりと語り始めた。
「未来では俺は機械工学、特にロボット工学の専門家になっていた。
リョータローはよくわからないけどありとあらゆる分野の研究をしては発表していたな。
しかもみんな優秀なやつでたくさん賞をもらっていたぞ。」
思いのほか真剣な眼差しに度肝を抜かれる。
どうやら嘘ではないようだ。
というか俺は優秀だったのか。
やりたいことをやって生きれば成功しているのか。
「それに私は正直嫉妬していた。
今回の主な動機は稚拙だけどそんなところだ。
子供の頃はそんなに変わらなかったのに
気づいたら手の届かない所にリョータローは行ってしまった。」
俺もキンジとはそんなに差は感じたことはなかったがそれは8歳の、しかも10年前の話か。
「そんなある日お前の研究所に行った時だ。
そこであるものを見つけた。
それはタイムマシンの設計書だ。」
俺が……タイムマシン?
「そこで思いついてしまった。
過去の特に太陽系の外で見つかった超高金ガウレンが見つかる前の世界なら
私が作ったこの巨大ロボと兵士ロボを暴れさせれば間違いなく止められることはない……と。
超合金ガウレンっていうのはこのアジトの外壁とか、巨大ロボに使われていた金属のことな。」
俺が作ったタイムマシンで……。
こいつらがきて、世界が……。
「最初来た時はこの世界の何もかもをぶっ壊してやろうと思っていた。
邪魔される前に最初にこの世界の自分を真っ先に。
というのもリョータローが作ったタイムマシンで行けるのは
単純に私が元いた世界を時間的に遡るものではなく、
限りなく私が元いた世界に近いパラレルワールドに行けるものだった。
行った時点で世界が分岐するのかもしれないけど。
だからこの世界の私が死んでいても年をとった私がこの世界に来ることができるわけだ。
ただ本人同士が本人であると認識してしまうとその世界に不都合な方の存在が消える。
そうリョータローの研究ファイルに書いてあった。」
何を言っている、このじじい。
それよりなんだその研究ファイルって。
……そんなの何回かタイムトラベルしないとわからないじゃないか。
つまり……。
「俺はこの世界ではトランプの大富豪で言うところのジョーカー、最強だが、
もうひとりの俺はスペードの3といったところか。
それでまずこの世界に正しい方の俺を殺すことから始めた。」
キンジの言葉は頭に入ってこない。
つまり俺は何度もタイムマシンを作ってはタイムトラベルを繰り返していたということか。
「自分をやるのは気が進まなかったが、ひとつの世界をぶっ壊してみたかった。
あとはほうっておいても俺の天下になる。思った通りそうなった。
けどそうなったから気づいてしまった。いや、そうなったから気づいてしまったのかもしれない。」
そして、未来から来た自分はその世界の自分に自分と認識される前に
その研究ファイルをその自分に託していたということか。
「何一つ満たされていないことに。
それはそうだ。俺は認められたかった。
リョータローよりも。ただそれだけだった。
本当はこんなことがしたかったわけじゃなかった。
勝手な言い草なのは分かっているがそれに気づいて後悔した。」
タイムトラベルして年齢が若返るわけではないのはキンジを見ればわかる。
託しに来るのは今目の前にいるキンジと同じぐらい年齢の人……。
生きていれば。
「それに気づいた時には何もかも手遅れ。
あそこにある改めて作ったタイムマシンでもう一度やり直そうかとも思った。
けれど、こんなに勝手に始めて勝手に死んではけじめがつかない。
この世界でけじめを付ける。」
いつ何時現れてそれを託すのかはわからないけど……。
ポケットをそっと触る……。
「だからこうやってこの城を攻略されるのを待っていたわけだ。
やっと終われる。それがお前なら他にもう言うことはない。
これが俺の罪と罰だ。俺のけじめだ。ひと思いに……。」
つまりおっちゃんは未来の俺だったのか……。
未来人とか言っていたなそういえば。
そして俺がタイムマシンなんて作ったばっかりに。
このキンジは俺の研究室で見つけたと言っていた。
私利私欲で使って……。
挙げ句の果てにはキンジを……この世界に悪魔を呼んだのは……。
「うああああああああああああ。」
頭がおかしくなりそうだ。
おっちゃん……、俺がこんな事態を招いた。
タイムマシンなんか作ったせいで!
俺が自由に生きたらこうなるのか……。
だったら俺なんて……。
俺なんて……。
ポケットの中にあったUSBを取り出して思いっきり叩きつける。
何が形見だ!
エゴの塊じゃないか!
こんなものがあるから!
世界がおかしくなるんだ!
刀の刃を自分に向ける。
俺なんて苦しみながら死ね。
キンジが慌てて刀をつかみ俺から引き離し止める。
「何を聞いていた。ひと思いにやるのは私にだよ!」
「俺が……、この世界を……、破壊したも同然だ……。
俺もけじめをつけなくちゃ……。」
「いや、お前のせいではない!」
「そんなことはない。」
「お前の知らないハナマルリョータローのせいだ!
いや、ここに来たのは私の心が弱かったせいだ。」
「タイムマシンがなければなんだって同じだろ。」
「お前はそんなに弱くないだろ!
お前は生きろ!」
……生きる!
そうだ、俺は生きなくちゃ……。
忘れるわけにはいかない。
俺は俺。
俺はおっちゃんやキンジに幼少期を支えられてきた俺。
それから俺は隊長やヤマト、タケル、ミコトそして陽動に回ってくれたみんなに支えられて
苦しい10年間を生きてきた俺。
そして、俺はその思いを、経験を、考えを背負ってこれからも前に進んでいく俺。
今がどんなでも前に進む。
俺はそう決めたのだ!
フーっと息を吐く。
きっともう大丈夫だ。
「落ち着いたか。
殺されようとしていたほうが殺そうとしている奴を
死のうと思わせ、さらにそれを止めるってなんか笑えるな。」
その思ったことを口にする感じは相変わらずだな。
クスクスしながら歩き出すキンジがさっきのUSBを拾う。
「ところでこのUSBはなんだ?
戦いでは使わないだろ?こんなの。」
「それはおっちゃ……、未来から来た俺に最後託されたものだ。
中身はパスワードが分からないから見られない。」
「これがね」と言って眺め回している。
「パスワードっていうのは?
託すための物ならリョータローなら絶対に分かることなのだろう。」
普通そう考えるだろう。
「『あなたの好きな人』だってさ。
いろいろ試してみたけど結局わからなかった。」
「『スズネ』は試した?」
「……だれ?」
知らない名だ。
「リョータローが大学入学のとき出会って本気で愛した人だって。
私が最後にリョータローから飲み屋で聞いた人だよ。
もちろん元いた世界の方のリョータローね。」
何言いだす……恥ずかしい。
「でも、本来なら今年が大学生の年だけど、会ったことない。知らない。」
でも、確か大学入る頃に渡したかったとか言っていたような……。
「俺が歴史を変えてしまったのかもな。まぁとにかくその人だろう。」
近くにあるコンピュータに差し込み、パスワードに『スズネ』と入れてみた。
中が見られるようになった。
他人にもわかるようなパスワードにするからこの世界で起こったようなことが起こるだよ!
「本当に開いた。しかし、30年ぐらいずっと愛していたなんて。その人は相当の美女だったのか?」
愛とかよくわからないけど30年もずっと一途に思えるようなものなのか?
タケルとミコトはどうなのだろう……今頃……。
でも30年後なんてわからない。
「どうだったかな?可愛らしい子ではあったような……。
なにせ大学を卒業する前に亡くなったからな。なんでもデート中に通り魔が現れてそれで……。」
……それでか。
愛というよりも呪縛か。
「なかには何があった?」
キンジは興味津々だった。
目を大きくしてまるであの頃のようだ……。
「中にはいくつかファイルがあった。」
大きく分けてファイルは3つあった。
ひとつはタイムマシンの設計書について
構造や原理、またタイムトラベルに関する現象が事細かに書かれていた。
キンジはこれを見てこの世界に来たようだ。
二つ目は論文だった。
現段階では発表されていない目からウロコの論文がたくさん並んでいた。
キンジはそれを見ながら、そういうことかと言いながら顰め面をしていた。
これで特許やらとって金を稼いでタイムマシンの制作費用にしていたらしい。
三つ目は日記だった。
初めてタイムトラベルに成功してから俺がおっちゃんと呼んでいた俺までに起こった現象について
主観で書かれている。
以下一部抜粋
ファーストファイル
2150/11/30 → 2108/08/12 晴れ
タイムマシンの実験は無事成功した。
近くのコンビニの新聞で日付を確かめた。
間違いない。
これでもう一度スズネを救うことができる。
協力してくれたみんなもう直接感謝を伝えることはできないけど
せめてここにはその思いを残しておきたい。
ありがとう、タイムマシン研究職員たち……。
そして、ごめん、この計画を邪魔されないように研究結果にウイルスを仕込んでいたこと。
「リョータローは昔から自分が生きるために生きているって感じだったな。なんとなくわかる。」
「そんな俺ってやっぱり……。」
2108/08/20 晴れ
8歳の僕を遠くから発見!
小さい頃は可愛かったようだ。自分で言っていて恥ずかしい。
タイムパラドックスとか未だ解明されていないため
接触は避ける。
2118年、初めてスズネに出会う年まで遠い……。
2112/05/07 曇り
ばったり小さい僕に会ってしまった。
ガッツリ目があってしまったが、
特に何事もなかった。
どうやらタイムパラドックスは問題ないようだ。
そもそもタイムパラドックスが起こるようなら
この肉体がこの世界にある時点で起こっている。
心配はないようだ。
「世界の悪夢が起こっていない……。」
「俺のが……お前の世界がイレギュラーだったじゃないか。」
2112/06/11 雨
スズネを救うプランはあるが
万が一、失敗した場合のことを考えて
タイムマシンの設計図や概念を
この世界の僕に託そうと思う。
接触しても問題ないなら直接渡そう。
明日接触を試みる。
「この慎重さが今を招いた。」
2112/06/12 雨
雨降っているからやめた。
梅雨はこれだから……。
「相変わらず生き方が正直なリョータロー。」
2112/06/13 曇り
今日話しかけてみた。
打ち解けるまでには至らなかった。
年頃の子はよくわからない……。
って僕か!
この頃何が好きだったのか……。
2113/08/03 晴れ
この一年間頑張って話しかけまくって
だいぶ仲良くなった。
なんかギャルゲーをやっているみたいだ。
攻略する方もされる方も自分っていうのは何とも言えないが。
正体を明かすのはなんか恥ずかしいので
やってないがこれができれば。
そういえば明日から家族でハワイ旅行に行くらしい。
たしかこの頃行った気がする。
でも羨ましい。
2116/02/21 雪
ついに明日このUSBを渡す約束を取り付けられた。
これで僕の仕事は終わり。
あとはスズネを救うだけだ。
ここでファーストファイルは終わっている。
一番初めのリョータローはタイムマシンに関する役目を終えたのだろう。
セカンドファイル
2120/09/23 雨
はじめまして
セカンドリョータローです。
このUSBのパスワードを解読するのに手間取ってしまった。
まさか今の恋人の名前だったとは……。
ヒントにあなたの好きな人の名前はって
それに今の僕の好きな人の名前で開くということは
やっぱりあれは僕だった。
薄々気づいていたけれども
この世界にとって正しいほうが自分と認識すると消えるってことか。
まあなんでこれを託したのかはよくわからないけれど
大切にするよ。
それにしてもスズネを救うって一体?
「まだスズネは生きている。」
2121/08/19 晴れ
何か最近はここに日記を付けるのが習慣になっている。
言って今日はあまり書くことないな。
明日はスズネとデートの約束があるから
今日は少しだけ。
2121/08/21 雨
昨日、スズネが死んだ。
通り魔に襲われた。
僕がそばにいたのに……。
何もできないうちに……。
……そのためのこれか。
勉強しなきゃ。
2153/11/29 晴れ
明日飛びます。
このタイムマシンの製造も設計図があればひとりでも意外とできるな。
私利私欲で悪用する奴が現れるといけないから
証拠は全部消していきます。
それではまたあした、
待っててね、スズネ!
2109/01/27 晴れ
タイムトラベル成功!
ファーストと同じタイミング同じ内容で
飛んできたのに着地点がずれているようだ。
まだこのタイムマシン研究論には追求すべき点が多いようだ。
さてと僕もファーストと同じようにこれから小さい僕に会おう。
僕の時は少し遅かったからな
大きくなると顔とかも似てきちゃうから
小さいうちから。
勉強もしっかりさせておかないと後で苦労するから。
やることが多くて困っちゃう。
そして、最終的にはスズネを助けなくちゃ。
2109/01/30 晴れ
今日初めて会った。
軽く話してみて、僕ってこんなにガードかたかったけ。
全然話しかけても聞いてくれない。
ファースト、よく頑張ったね。
それよかキンジを攻略したほうが簡単かもしれない。
今のロケットブームに乗って
何かロケットでも打ち上げるか。
ペットボトルか何かで。
2109/05/24 晴れ
寒かったのと準備で時間がかかってしまった。
けど将を射んと欲すればまず馬を射よ作戦成功!
キンジが簡単に飛びついて
なんとか僕とも仲良くなれた。
うまくいったな!
2113/04/10 曇り
中学に上がり僕が僕に勉強を教えることになった。
タイムマシンの設計に必要な知識の基礎を
僕が教えられれば無駄なく教えることができる。
非常に合理的だ!
この第二の人生、結構いい感じ!
2116/03/21 晴れ
この世界の僕に対する仕事は終わった。
バレる前に次へ託そう。
明日このUSBを渡そう。
そして、ここでセカンドファイルは終わる。
サードファイル
2121/08/20
スズネが通り魔に殺されてしまった……。
僕の目の前で……。
これからどうしたら……、
わかっているもう一度助けに行く!
こうしてまたタイムトラベルを繰り返し、
次のフォースもまたスズネを助けられず、タイムマシンを作り……。
こういった内容が繰り返され
そして最新、20th、俺がおっちゃんと呼んでいた俺の日記だ。
2108/08/15 晴れ
無事タイムトラベル成功。
近くのスーパーでペットボトルを回収。
ロケットランチャーの製作開始。
長い歴史のおかげでやることが分かっていて楽だ。
2108/07/21 晴れ
今日は暑かった。
白衣がキンジの気を引くからって
真夏はやめときゃよかった。
でもまあ、やった甲斐あってうまくいった。
小学生単純で可愛いな
って僕か!
「この日俺は初めておっちゃんと出会ったのか。」
2111/08/10 晴れ
13時から明日も遊ぶ約束してある。
結構順調だ!
もしかしたらデータを渡すのは過去最速になるかもな。
「これは……世界の悪夢の前日……。」
2111/08/11 晴れ
なんだこれ。
こんなの今までなかっただろ。
少なくとも僕が子供の頃にはなかった。
ロボットがこんなに現れて世界を滅ぼそうとするなんて……。
このロボットは……キンジか。
くそ!
証拠を消し忘れたか……。
どうする、どうする。
2111/08/12 ?
とりあえずこれは僕に渡してこの世界のキンジを連れて止めに行く。
小さい僕はもう動かないこのタイムマシンの中に入れておく。
超高金ガウレンで出来ているから大丈夫だろう。
なんでこんな事態に……。
ここで日記は終わっている
これが1000年生きているっていうことか。
日記ファイルの大筋を見た。俺の1000年の歴史。
今ならわかる。
あの状況で8歳の男の子を連れて何百といるロボットをくぐり抜けて
ここまで来ようとするなんて無謀すぎる。
このマニュアルに従うことに夢中で自分が生きるために生きるのをやめている。
1000年生きて退化しているじゃないか。こんなものない方がいい。
タイムマシンなんていうのは人を堕落させるだけだ。
俺は何て馬鹿なものを作った。
このUSBは壊す。そして、ここにあるそれらのデータも。
「キンジ、お前が死んだらここはどうするつもりだった。
いつかは負けるつもりだった。けじめをつけるために。」
キンジはリョータローUSBの中身を目を輝かせながら見ていたが、
俺の問いかけにこっちを向き直した。
覚悟したらしい。
「私が負けたらこの城ごと無償でこの世界に提供する予定だったけど……。
爆破したいのか……。」
この部屋の中のものはオリハルコンで出来ていないので中の物は耐えられないだろう。
「ああ、このリョータローUSBは後世に残すべきではない。」
「わかった。今は勝者、いや世界の英雄の言葉に従うのみ。好きにしてくれ。」
決まりだ。リョータローの存在を消すことが過ちを犯し続けた俺にできる唯一のこと。
あとやっておくことは……。
みんなを逃がそう。まだ陽動班は戦っているはずだ。
「最初に停戦を宣言したときにこの世界の電波をジャックしていただろ。
あれできるか。近くにいる人たちを逃がしたい。」
「ああ」
キンジがパソコンをいじりだす。
「いいぜ」
世界に発信する。これで終わったということ。
「世界中のみんな聞いてくれ!
俺は対RLs特殊部隊、エンゼルスのハナマルリョータローだ!
本日を持ってRLsの中枢を破壊することに成功した。
我々人類はついに勝利した。
しかし、敵の最後のあがきでアジトを爆発させようとしている。
それは明日の12:00にセットされている。
俺も出来るだけのことはやってみるが
なるべく近くにいる人々は離れてくれ!
明日の12:00を超えれば我々の勝利が完全に決まる!」
これで終わりの終わり。
新しい世界の繁栄を遠くから見守っているぜ!
あばよ!俺の愛した世界!
5章-完-