表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

04 Battle

「……大丈夫かい?リョータロー。」

ヤマトの声が聞こえて、ふと我に返る。

そうだ。僕にはもういらない。

僕に大切なものはもういらない。

仇討ちだけこなしたら死のうと思っていたのに知らぬ間に抱え込んでいたようだ。

自分が生きるために生きる……?

希望?

今さらそんな言葉で僕が生きられるか!

「ああ、大丈夫だ、ヤマトありがとな。

もういい。もういい。早く終わらせよう何もかも。」

目の前の扉を蹴って開ける。

なんで扉が2重なのか?

何か部屋自体に仕掛けがあるのか?

いや考えることはないか。

進もう。

もう勝ちも負けも僕の中にはない。

あるのは死のみ。

目の前は大きな部屋だった。40m四方。バスケットコートを2面取れる体育館ぐらいの大きさだ。

その部屋は全体があの謎の物質。

既存の物質の中で最も硬いとされるオリハルコンで出来ていた。

そしてその部屋の中央にはデウス・エクス・マキナ。

同様にオリハルコンで出来ている。

目の前にいるのは最凶の敵!

これが僕のラストバトルだ!


部屋の中央に立ち尽くしているデウス・エクス・マキナに僕はまっすぐ突っ込む!

高さがだいたい10mもあるが基本的な構造は鉄人と同じ。

これといって鉄人に弱点はないが関係ない。

左手の銃で撃ちながら距離を詰める。

しかし、弾は全てはじかれる。全く効いているようには見えない。

そして敵は特に反撃をしてはこない。

気づいてないなら気づかせてやる!

間合いまで詰め右手に構えた刀で斬りつける。

しかしこれも傷一つつかない。

いろいろ試しているが僕の持っている刀や銃ではやっぱり傷一つつかない。

突然、デウス・エクス・マキナの右手で殴り飛ばされる。

刀で直接体へのダメージは防いだが結構効く。

強い。そして、硬い。

「リョータローくん!このままじゃあダメだよ!一旦落ち着いて!」

ヤマトが遠くから叫ぶ声がするがそんなのに構っていられない。

とにかくやれるだけやりたい。そして終わりたい。

もう疲れた。抱えていたものがこぼれ落ちて消えるくらいなら僕からこぼしたほうがましだ。

勝とうが負けようがもうどうでもいい!


何度も突っ込み何度も吹っ飛ばされた。体中に痛みが走りもう動けない。

やれるだけはやった。もういい。ひと思いに俺に止めをさしてくれ!

僕を……終わらせてくれ。目をつぶる。

すると痛烈な一撃が僕の頬を襲う。

「もういい加減にしてよ!こんなのリョータローくんじゃないよ!」

ゆっくり目を開けると……そこには両目に涙を浮かべたヤマトがいた。

さっきの一撃が今までで一番痛い。

「悪いがほっといてくれ。もういい。」

僕も覚悟がある。はずだった。

それなのにどうしてもヤマトを直視できない。

「わかるよ。10年前に大切な友達をなくした。

でもその仇討ちを達成する前に今回、父親のように接してくれた隊長をなくした。

抱え込むことが辛くなってそして、すべてを投げ出そうとしている。

つらい。確かにつらい。」

静かに語るヤマト……。

いつものヤマトではないように感じた。なんだか強さを感じる。

「でも君はそんな思いを僕たちにもさせることはしないはずだ。

君が死んでしまったら僕もタケルもミコトも外で戦っているみんなもつらい思いをする。

もうみんな家族なんだから君は誰よりも優しい。そして君は誰よりも強い。

僕は知っているよ。」

そう言って微笑むその笑顔はやっぱり僕には眩しい。

「君が、自分が生きるために力を出せば、壊せない壁はないから!

それまでちょっと体休めていてね。ここなら敵は来ないから。」

なんでここには来ない。よく見ると背中から変な管が出ている。

あれはなんだ?エネルギーの供給源?

なんにせよ、それのおかげでやつの動きが制限されこの部屋の端にはこられないようだ。

というかそんなに目立つ特徴を見落としていたなんて……。

相当おかしくなっていたらしい。

ヤマトのおかげで目が覚めた。

隊長が言いたかったことわかった気がするよ。

自分のために独善的に命をなげうつのではない。

人はひとりでは生きていけないから自分が生きるために生きるということは

他者を尊重し支えて支えられて生きろということか。

隊長の解釈とあっているのかは分からないけど。

とにかく僕には僕らしく生きてほしいってことだね。

フーっと息を吐く。

いつの間にか弟分に背中を見せられる日が来るとはな。

嬉しいような悲しいような。

僕の表情が穏やかになったようだ隣でヤマトがホッとしている。

「よかったもう大丈夫だね。僕ね、弱点のようなものを見つけた。

あいつの背中からなんか管が出ているでしょ。

あれは、電力かはわからないけど、とりあえずエネルギーを送っていると思う。

僕があれの大元を破壊してくる。」

エネルギー源、僕もそう思った。

ただその大元に近づくのは危険だ。

あれだけ大型の物体を動かすエネルギー源だ……。

相当高エネルギーなはず。

生身では無事にすまない可能性が高い。

「やめろ!危険だ!きっと高エネルギー体だ!体が吹っ飛ぶぞ!」

確かに僕たちの予測が正しくて

それが壊せればデウス・エクス・マキナの動きを止めることができるかもしれない。

しかしそれではヤマトが……。

予想が外れていれば単純にあいつを解放するだけだ。

それだけでは済むまい。何かしらの罠はあるはずだ。

「やっぱりね。リョータローくんは優しい。

僕もなんとなく危険だとは思っていたよ。

こんな弱点みたいなのを晒しているなんて罠だろうって。

でもそれでも誰かがやらなくちゃいけない。」

ヤマトの目には力強さが……。

それでもヤマトには死んで欲しくはない。

これはさっきまで言っていたのとは違う。

やめろ!

「それなら僕が行く!」

今度は穏やかな目でヤマトが言う。

「それは無理だよ!

リョータローくんはカッとなって走って突っ込んでいったから見てないかもしれないけど

2つ目の扉に文字が書かれていてね。

1)この中にいるロボットを完全に停止させれば私への道が開かれる。

2)この扉は開いてから5分で鍵が掛かり中からは決して開けることはできなくなる。

って書かれていた。

そして1枚目と2枚目の扉のあいだの右側に小さなドアがあったことも。

多分あそこからその動力源がある。

動力室って書いてあったからね。

まだリョータローくんは動けないでしょ。

まぁでも一番の理由はコイツに勝てるのはリョータローくんだけだからね。

自分のやるべきことがわかったときなんか恐怖感が消えた。

リョータローくんがいると力強いよ。

君は自分が生きるために生きて!

僕たちの希望なんだから!

もう時間がない。

また会おうね!」

言い終わると背中を向けてこちらを一度も振り返ることもなく扉から出て行った。

僕はまだ動けない。

叫ぶこともできずただヤマトの背中を見つめていることしかできない。

ヤマトが部屋を出ると突然扉が締まり開かなくなった。

これで追いかけることはできなくなった。

走って今度はタケルとミコトが来た。

「やっぱりあんたらは兄弟ね。

いや、兄弟より仲がいいみたいね。」

ミコト……。

「イーーーヤッハーー

元気出せ、リョータロー!

苦しい時もあるが楽しい時もある。

そのために頑張れ!」

タケル……。

「俺たちヤマトに言われてよ。

あの扉の文字見たとき、僕がリョータローくんを戦えるようにするから

その間もしかしたらデウス・エクス・マキナと戦わなくてもボスのところにいけるかもしれないから

何かこの壁のスキみたいなところを探してみてって。

普段のリョータローくんならこんぐらいはするはずだからって」

「ええ、それで見てきたけどなんかそれっぽいものはなかったわ。

それでヤマトはどこいったのかしら。ここに来て逃げ出すような弱虫ではないと思うのだけど。」

「ああ。あいつは弱くない。

背中から出ている管あるだろう。僕たちはそれからエネルギー供給されていると考えた。

それを破壊してやつの動きを止めようってことになってそれで……。」

「ふーん、あの子やるじゃない!」

……。これが……。


するとドカンとどこかで大きな音が鳴る。

デカブツの背中から生えていた管が切れた。

これで動きが止まると思ったのもつかの間デウス・エクス・マキナは動きが急に良くなった。

飼い犬の手綱が切れ、狂犬と進化した!

さっきの音はヤマトがしっかり破壊したに違いない。

動力室がよそにあってそれが破壊されて管を必要なくなったから切った。

それで間違いないはずだ。エネルギー供給がなくなったと考えて間違いない。

だがコイツは動いている。つまり、内部に何かバッテリーみたいなのがあるに違いない。

そいつを消費させ、活動を停止させれば勝てる。

最初から充電状態だったのはおそらくそういうことだろう。

内部バッテリーには自信がない。

長期戦を避けるために動き回る鉄人と行動原理は同じだな!

つまりここで勝つためには……。

「タケル!ミコト!俺の指示を聞け!コイツに勝つために!」

「イーーーヤッハーー!!!やっとやる気になったかい!」

タケル!

「遅かったわね!早くしなさいよ!

この戦いに勝つにはあんたが必要なんだから!」

ミコト!

信じてくれていた

そうだ、僕が……俺が……俺がやりたいこと。

隊長の意志を継いでこの人類が置かれた状況を変え、

ヤマト、タケル、ミコト陽動組のみんなやまだあったこともない人たちみんなの

思いを、経験を考えを背負って生きていきたい!!!

いくぜ!!!

俺なら勝てるだって?

俺たちなら勝てるだろ、ヤマト!

動ける!さっきまで体中が痛くて動けなかったのに

今は……決して楽ではないが問題はない!


「ヤマトがエネルギーの供給源を破壊してくれたから

コイツがもともと持っていたエネルギーで動いている。

今から時間を稼いでコイツが動かなくなるのを待つ。

コイツの動きは鉄人と同じ行動原理っぽいから

誰かが後ろから近づいていき反応したら全力で壁まで逃げる。

やつを壁まで陽動したらまた違うやつが後ろから近づく。

それを繰り返す。

こんなにでかい物体を動かしている。

相当のエネルギーを使っているに違いない。

そんなにかからないはずだ!

いくぞ!」

「了解!」

二人は声を合わせてそう言うとタケルはデウス・エクス・マキナを引き連れて壁まで走った。

それをあとからミコトが追う。

タケルが壁までいき追い詰められると

ミコトが急接近しデウス・エクス・マキナの気を引く。

ミコトに反応したやつは反転してミコトを追う。

その後ろから俺が追う。

それを繰り返した。

作戦ははまった。ただ逃げ回っているだけだがそれで勝てるならそれに越したことはない。

武器が効かないのは身をもって証明しちゃったからな。


しかし、そううまくはいかなかった

この作戦を30分続けたところで異変に気づく。

「全然止まる気配がないのに私、息が切れてきたわ。

バカでポンコツとそうなのに……。」

ミコトの息づかいが荒くなる。言葉遣いが荒いのはもとからだが……。

俺も肺がきつい。

毎日しっかりトレーニングを積んできた俺たちが30分程度の頑張りでバテるはずがないのに。

マズイな。考えられるとしたら……

部屋の酸素濃度が低下しているか。

二酸化炭素の濃度が上昇しているか。

どちらにしろやばい。

当然酸素ボンベみたいなものはない。

このままではこちらが先に動けなくなって負ける。

デウス・エクス・マキナのエネルギーの仕組みを見破ってくることは見破っていて

さらに罠をはめてきたか……。

ここの親玉の手のひらで踊らされていただけだったっていうのか……。

失敗だった……。

いや、そんなことはどうでもいい。

今考えることじゃない。

俺は生きなくてはならない。

俺が生きるためには……、ここでつながる新しい手は……。

なにかないか。何かあるはずだ。どこかに弱点があるはずだ。

……。

なにか俺が生きた道に……。

「ロボットっていうのは案外作るのは難しい。」

……これは?キンジ!俺の記憶……。

「ロボットっていうのは、見た目はかっこいいし強い。

だから一番ロボットを倒すのにいいのはパイロットとか内側の配線とかだと思うわけよ。

まぁアニメとかだとこんなの映像的にダサいからこんなのやらないと思うけど。

でもどうしたってメンテナンスとか必要だから人間よりはるかに大きいロボットは

内側に入るための隙間があるはずだ。

大型ロボはそこがなんかな……。」

そうか、キンジ。

つまりメンテナンスをするのに中に人ないしロボット。

それに壊れた部品を直すための物資を入れる場所があるはずだ。

これだけ大きいロボットなら中に入らないと直せない場所もあるはずだ。

どこかに入口がある。

体は全身オリハルコンで出来ている。体のどこかにドアがあるか、いやそれはない。

このアジトのドアを考えればわかる。何度壊してもドアは鉄製に戻していた。

ということはそう考えるとこのデウス・エクス・マキナにあるであろう

そのドアはオリハルコンではない。

どこだ!


ロボットを360°見回す。

足、胴体、腕、頭……。

ここから見える範囲にそれっぽい場所はない……。

ということはここから一番見えにくい頭か。

頭はてっぺんがちょっと見える程度。

構造的にはないけど人間でいう首のあたりにあるに違いない。


どうやって上へ行くか。ここから10m上に……。

空を飛ぶ道具なんか当然ないし……。

やつの体によじ登っていくか。

いやその前に蹴り飛ばされる。

それ以前にあんなつるつるした体を登っていけるかよ。

せめて傷程度のボコボコでもあればいいんだが、やつに傷をつけることすら困難だし……。

四方は壁に遮られている。しかもツルツル無傷のオリハルコン。

このデウス・エクス・マキナが暴れてもこのアジト自体に被害が出ないように

作られたこいつ専用のリングだ。

天井は……もちろんオリハルコンで出来ている。

頭ぶつけないように20mぐらいの高さになっている。

なければヘリとか使えるのだろうけど外部からの援軍も無理っぽい。

それでも何かあるはずだ。

俺はもう生きることを諦めない。

「危ない!」

タケルの大声に反応して我に返ると壁際まで逃げたミコトの目の前に

デウス・エクス・マキナの拳が迫る!

ミコトは間一髪で避ける。

「リョータロー、気合だ!頑張れ!」

「あんたボーッとしている場合じゃないわよ!バーカ!殺す気なの!」

僕がサポートに行くのを忘れていた。危なかった。戦いにも集中しないと!

「ごめんごめん!」

走ってミコトにもう一撃かまそうとしているデウス・エクス・マキナに近づく。

よし釣れた。打開策を見つけても多分ここにいるみんながいなくては話にならないだろう。

貴重な戦力をみすみす失っては……。

……ってあれは傷か!

ミコトの後ろにミコトがさっき避けたやつの拳の跡がうっすら残っている。

同じ強度のロボットのボディなら壁に傷をつけることができるのか……。

見えた!突破口!

それなら……。

俺はミコトが壁まで追い込んだデウス・エクス・マキナを引き連れつつ壁まで誘い込み、

「タケル!こっちに来るな。」

そう叫んだあと壁を背にし、あのデカブツと向き合った。

「あんたまた……。」

一瞬ミコトの表情が険しくなったが、すぐに冷静な顔つきになって言った。

「……いや、次はどうすればいいの?」

タケルは足を止めてこっちを見ている。

理解が早くて助かるぜ!

「俺がここで引き付ける。

ミコトは遠くから銃でやつの攻撃の軌道ずらしてくれ!

タケルは大仕事をやってもらうからできるだけ体を回復させてくれ!」

「了解!」

そう言うとタケルは俺と対角の位置に座り目を閉じ、

ミコトはやつの側面の少し離れた場所に回り込むとバズーカを構えた。


俺がこの作戦フェーズ1の要になる!

たぎるぜ!

刀は気休め程度でしかないが俺は正対して刀を構える。

目はデウス・エクス・マキナの一挙手一投足を見逃さない。

やつが右手を振り落とす。それを右に跳んで躱す。

決してやつからは目をそらさない。

次にやつの左足が出てくる。

体が若干右に流れているがここは上に跳んで躱す。

それを見越していたのか。いやそんなことはないだろうが次にやつの左手の突きが来る。

空中で身動きが取れない、これは躱せない。

多少のダメージはしょうがないと刀を前に出し少しでも衝撃に備える。

しかしやつのパンチはわずかに左にそれる。

ミコトがバズーカでやつの左手を撃ち、突きの軌道がそれたのだ。

「こうすればいいでしょ!もう手がかかるから!」

俺は何も言わずミコトに向けて親指を立てる。

あくまで頭はクールに……

ものすごい至近距離でデウス・エクス・マキナの攻撃を躱し続ける。


「自分のやるべきことがわかったときなんか恐怖感が消えたよね。

リョータローくんがいると力強いよ。」

ふと脳裏に浮かんだ言葉。ヤマト……。

それは俺のセリフだ!

ありがとう、こいつを倒すまで一緒に『頑張ろうね』!

ここには力強い仲間がいる。

ココロにも力強い仲間がいる。

今の俺は負ける気がしないぜ!


しかしその状態も長くは続かない。

さっきの無謀な特攻でもう体はボロボロだ。

徐々に頭の中のイメージと体の動きに誤差が出てくる。

ミコトの高援護のおかげで何とかなっているがそろそろ捕まる。

ミコトのバズーカは一発撃ったあと次弾装填のための少しの間がある。

その間はさっきまで何とでもつなげていたのに……。

そろそろ限界だ。

「ミコト、こっちに来てこのデカ物を持って行ってくれ!作戦を戻す!」

「さっきのはなんな……。了解!」

愚痴りながらもなんだかんだですぐに行動を起こしてくれる。

助かるぜ。このちょっとした油断。

それによりデウス・エクス・マキナの右足による回し蹴りに反応が遅れる。

攻撃の起こりを見逃した俺にこの攻撃は躱せない……。

そう悟った瞬間足の力が抜け座り込む。

そして、走馬灯のようにいくつもの顔が浮かんできた。

笑っているおっちゃん。

ドヤ顔のキンジ。

激を飛ばしている時のかっこいい隊長。

血まみれのヤマト。

……ヤマト!

「リョータローくん!助けに戻ってきたよ!」

そう聞こえたと同時にやつの右足は俺の頭の上を通って反転し

真っ赤な何かに当たった。

それは吹っ飛んでいった。

そのあとのやつの攻撃がそのあとに近づいてきていたミコトに移り、追いかけていた。


俺は急いで吹っ飛ばされたもののそばに寄った。

やっぱりヤマトだった。

「血まみれじゃないか!大丈夫か!」

ほそぼそとはっきりしない声でヤマトはつぶやく。

「動力源をやるのにしくじって……。

でもまだ役に立ちたくて……。

もう僕は戦えないけど……。

きっと勝って……ね……。」

込み上がってくる思いを必死にこらえる。

ボロボロのヤマトをこれ以上見ていたらきっと大雨のせいで前が見えなくなる。

ここでお別れだ。俺は再び立ち上がる。

「ヤマト……勝とうぜ!!!」

「君の背中はいつも眩しい。」

走りながら状況を確認する。

ミコトが連れて行ったあとの僕が戦っていた後ろにある壁を見た。

だいぶ壁には傷が付いていた。

よし!フェーズ2だ。

「タケル!こっちに来てここを上れ!」

ロッククライミングの要領だ。

タケルは体を動かすことに関しては天性のものがある。

これだけの傷があればいけるはずだ。

「了解!

大仕事って言うからどんなもんかと思っていたけどよ

大したことないじゃんか!イーーーヤッハーー!!!」

そう叫ぶと大声を上げながらスイスイ登っていく。

傷があってタケルが登れる高さは大体8mくらいか。

上の方にも傷をつけてもらおうと飛び跳ねていたがその程度か……

2mならタケルの身体能力でなんとかなるか

よし!

「今からそこにやつを持っていく!そしたら頭にとび乗れ!

おそらくそこに中に入れるドアか何かがある筈だ。

入れそうだったら中から破壊してくれ!

中から破壊することでしかこいつを倒す突破口はない!」

「了解!」

作戦を支持しつつ俺とミコトが必死に逃げ回ったおかげで

タケルが上まで登るのに十分な時間が取れた。


タケルが一番高い所に行ったのを確認してから

俺が近づいてデウス・エクス・マキナの気を向かせると

タケルがいるところまで連れて行く。

タイミングを見てタケルがそこに飛び乗る。

「イーーーヤッハーー!!!やったぜ!」

成功したようだ。ここまでは良し!

「どうだ!中に入れそうな場所はあるか!」

「ないな!」

あっさり返すな!

……なんだと。そんな……。いやそんなはずはない。

どうやってメンテナンスをするって言う。

隠してあるのか!そうだ最初の戦闘はアジトなんかなかったから

戦闘機なんかも飛んでいた。上にあったら空中からただの標的になるだけだ。

けど上以外考えられない。

間違いない、隠してある。

「じゃあなんか動きそうなところはあるか?」

「頭の部分なんか取れそうだけど?」

頭の部分……まるごと?

ということはやっぱりその下に!

「頭の部分思いっきり外せ!」

「了解!」

タケルのウオォォォという叫び声が聞こえると同時にデウス・エクス・マキナの俺への攻撃が止まった。

そして両腕で頭の上まで上げる。タケルを狙っている?

「やばい!タケル狙われているぞ!

少しやって無理そうなら降りて来い!」

やつの頭の上はかなり高いがタケルの運動神経ならなんとかなるだろう。

「待ちなよ、リョータロー!

ここが最後の突破口なんだろ!

ここで引いたら何にも残らねぇじゃねぇか!」

タケルの2本の刀だけが落ちてくる。

「俺は馬鹿だけど

漢の飾るところがわからないほどじゃあない。

最後ぐらい飾らせてくれ。」

へっ、男の飾るところしかわからないから馬鹿なんだよ。

やめろ!と言うべきか、いや、覚悟を決めた本物にかける言葉は……。

「頼んだぜ!」

「ウオォォォォォ!!!

いくぜぇぇぇぇええええ!!!

イーーーヤッハーー!!!」

全身の毛が逆立つ、そして半球体が落ちてくる。

やった。やったな、タケル!

「ドアはあったぞ!

けど鍵がかかっていやがる。

厚くはなさそうだけどこのままじゃあ入れそうにない……!」

タケルの力ない声が聞こえる。

「そうか!よくやった!一旦降りて来い!」

嬉しいのは本音だが、それよりタケルの方が心配だ。


「……いやもう俺は終わりみたいだ。さっきので力を使い切っちまった。

あとは任せたぜ!リョータロー、あと言い残したことがミコト!好きだぜ!」

「このタイミングで!諦めるなタケル!」

「馬鹿ね……。」


デウス・エクス・マキナの右手が頭の部分を殴ると

反対側からタケルが飛び出て、そのまま地面に落ちた。

駆け寄ってみると体中から血が出ている皮膚は内出血で少し変色している。

あれだけの攻撃をまともに受けて無事でいるはずがない。

それでも最後まで仕事はやりきった。

お前は、本物だよ!タケル!

あとは任せろ!

ミコトからは悲しみも怒りも押し殺し静かな闘志だけが表情から読み取れる。


鍵がかかっているドア……。

突破口はないか……。

どうする……。

こちらの武器は

ミコトはバズーカと2丁のハンドガン。

「ミコト!弾はあといくつある?」

「ハンドガンは両方とも4発だけど弾倉があるから問題ない。

バズーカは……2発しかないわ。」

俺はだいぶ刃こぼれした刀と

ハンドガン、弾は残り3発……。弾倉なし。

あとは……。

ということは……。

これなら!

「ミコト!バズーカを貸してくれ!

代わりにこれを!

これが最後の作戦だ!」

最後の作戦の概要をミコトに話す。

「少し了解できないわ。

このバズーカを使えるのは私だけ。

それを使えるのはあなただけ。

役割は交換ね!」

「いやダメだ!

そっちはおそらく死ぬことになる。

これで最後になるはずだから君は生きろ!タケルの分まで!」

「年上権限!オペレーション開始!」

そう言ってデウス・エクス・マキナの気を引きつつ走り出す。

ミコトが年上を鼻にかけたことなんて今までなかったのに……。

そのままミコトは壁に追い込まれる。

……やるしかないか。最後の作戦!

俺が後ろからハンドガンを撃ちながら近づき、奴の気を引く。

俺に反応すると俺を追いかけようと反転する。

ミコトがそのスキを狙って軸足になった方の膝の裏側にバズーカを撃ち込む。

それによってデウス・エクス・マキナはバランスを失う。

ロボットが筋肉をつけられない以上崩したバランスを立て直すのは相当難しいはずだ。

さらにもう一発ミコトのバズーカが体を支えている一本足にダメ押し。

完全にバランスを失って倒れる。壁に頭をぶつけながら。

修理のためのドアだ、そんなに頑丈にできているわけがない。

同じ強度の材質が勢いよくぶつかれば壊れるのは薄い方。

壊れなくても変形はするだろう。

少しでも隙間ができれば……。

俺は頭の方へ急いで回り込む、やつが起き上がる前に。

回り込むとミコトの体はデウス・エクス・マキナの下敷きになっていた。

「いよいよ締めね。早くしなさい。」

ミコトの目は輝いていた。

「これを使えばおそらく君は助からない。それでも……。」

「グダグダうるさい!私だって最後を飾りたいの!

そうしないと眩しくてあいつを見れないじゃない。」

これ以上の交渉は無意味。これ以上かっこいい先輩に恥は欠かせられないな。

「……それじゃあ、あの時止めてくれてありがとう。いろいろと……、助かった。それだけ。」

「そんなのいいわよ。いまこの世界であなたが一番好きよ。」

「ハッ!じゃあな!」

俺は走って頭のドアのところに向かう。

作戦通り。わずかにドアに隙間が出来ていた。

最後の決着を前に込上がってくる思い。

「結局誰もいなくなっちゃたな。

ヤマトもタケルもミコトも。

でも俺はもう生きていけるよ。

ありがとう、コイツは手放すけど

どこにいても今みたいに見守ってくれよ、隊長!」

そして、ポケットにあった大切な、大切だったそれをその隙間に投げ込んでその場を離れた。

新しい未来へ向かうために。


大きな爆発音がして後ろを振り返ると起き上がろうともがいていたやつの体は完全に停止した。

多大な犠牲は払った……、

だけど勝った!

俺たちは勝ったのだ!!!




4章-完-


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ