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03 Past

これは僕の周りで起こった世界の悪夢前後の話。


時は12年前、2106年7月21日

僕が6歳の時、初めておっちゃんと出会った。

その日は小学校に入って初めての夏休みを直前に控えた終業式からの帰り道だった。

親友のキンジとアッツい日差しの中、夏休みの宿題のせいで少し重くなったランドセルを背負って

全力ではしゃぎながら帰っていた。

下校途中にあるベンチと水道しかない、小学生からすれば全く魅力のない小さな公園に

何が楽しいのか汗だくでいろいろ道具を持って歩き回っている白衣を着た50くらいの不審な男がいた。

そこは住宅街でそこの公園も普段は散歩途中に疲れた御老体が休憩に使う程度のものである。

暑いなら脱げばいいのに……。何か事情があるのだろうか……。

通り過ぎたらキンジとの話のネタにしよう。

その時はそのぐらいにしか思っていなかった。

しかし、キンジはというと……、ガン見していた。相当気になっていたらしい。

確かにこの辺で白衣を着ている人は給食のおばちゃんぐらいだ。

そもそも住宅街なので今まで見たことない人が近くにいることが少ない。

いい意味で新鮮、悪い意味で得体がしれない。それらが僕の中に2:8ぐらいで存在していた。

そう思ったのが伝わったのか、白衣の男はこちらに気づくと

「おーい、君たち!」

と言ってにっこり笑いながらこっちに向かってきた。

走って逃げようとしたけどキンジの気持ちはどうやら10:0ぐらいのようだ。

全く動こうとしない。

子供だけでいるときに知らない人ついて行ったらいけませんって

夏休みは特に注意しろとあれほど言われたのに……。

ただどうあってもキンジを見捨てるという選択肢はなかった。

この近くに僕の他にキンジぐらいしか子供はいなく、物心ついた時からいつも一緒に遊んでいたから、

というのも僕もキンジも親が共働きで家では基本一人だった。

いつも一緒に遊んでいたとかそういうレベルではなく、

一緒にご飯を食べることはもちろん、一緒にお風呂に入ったりお互いの家に泊まったり、

そんなことは日常茶飯事だった。友達というより兄弟だった。

ここで見捨てるわけにはいかず、僕も仕方なくキンジに付き合った。

防犯ブザーにこっそり手を伸ばして。

「おっちゃん、何やってるの?こんなにあついのに!」

キンジは昔から人見知りをしない大胆なやつだった。

初対面の時も何かとガツガツ質問してきた。

家でごはんを食べた時もまずいものははっきりまずいと言ったし、

うちで寝るときにその布団が干されてないときは文句を言っていた。

彼には恐れというものはない。

汗をダラダラ流しながら近づいてくる男に声をかけるくらい平気でやった。

「ああ、今ペットボトルでロケットを作っててな。よかったら手伝ってくれないかい?」

そう言ったおっちゃんの顔は満面の笑みだった。

……正直キモかった。汗だくで小学生男児に近づいてくる男……。

その時は事件の始まりだと思った。

僕の気持ちは『NO!!!』と言うよりもはや『Oh, My God !!!』だったが、

それより先に言ったキンジの「ぜんぜんいいよ。」という発言により、

キンジの目にはどう映っているのか知らないがまさかの快諾により僕も手伝う羽目になった。

一緒にいるのがキンジじゃなければとっくに帰っているのに……。

そしてこのあと帰ったらキンジと今日は新しく買ったゲームやろうと思っていたのに

まさかこんな変なのとも一緒に遊ぶことになるとは……。

おっちゃんは元いたところに戻り、説明を始めた。

僕は警戒を緩めない。右手はポケットの中で防犯ブザーを握ったままだ。

「ここに道具はそろっているから、いいかい、これをこうやってだな……。」

「いや、おっちゃん!それよりさ、この辺で見たことないけどどこの人?」

キンジは興味津々だった。僕にとっては全くいい迷惑だった。

「僕かい?ふっふっふ。僕はね。」

そして、まさかのドヤ顔してから

「40年ぐらい生きているようで、実は1000年生きている。

……ようで実質5日しか生きてないそんな存在だ。」

質問の答えになっていない上に意味不明……。

キンジも流石に引いていた。

けどその意味わからなさ、よく言えばミステリアスな感じが

僕の中の何かに引っかかった、引っかかってしまった。

「何言っているかよくわかんない……。けっきょくどうしてここでやってるの?」

僕の警戒心がさっきの一言で消えたとまではいかないが、気づいたら会話の輪に入ってしまっていた。

「……意味わからないか。まぁいずれ君にはわかるよ。

ああ、今僕がやっているのは大ロケットブームだろ、今は。

それで僕もなんかロケット飛ばしたいなぁと思ったのさ。

どうしようかなと思っていたら、ちょうどいい感じの公園見つけてね。」

ロケットを飛ばしたくてこのなんの変哲もない公園でペットボトルロケットを……?

結構な変人だった。

「へぇ、でもペットボトルじゃぁ、うちゅうにはいけないよ。」

流石にキンジもつっこんだ。

「まぁ、僕が宇宙までロケットを飛ばさないのは……大人の事情ということにしておこうか。

ここは質より量ということで……。

ええっと、つまりだね、たくさん飛ばして気持ちだけでも宇宙に届けようと思ったわけですよ!

それでなんと20個も用意した。」

「ふーん。」

二人は声を揃えて頷いた。

この時僕の印象は変人から不思議な人といった感じだった。

気持ちだけってそれでもほかに方法が……。

やっぱり不思議な人だった。

当時、ロケットブームだった。

人間の科学力が上がってきてより遠くまでロケットを飛ばせるようになってきていた。

宇宙まで行ったロケットからは地球にはなかった新発見が競争するように発表されだした。

そこで、各国がこぞって宇宙開発に乗り出した。

世界中のいたるところでロケットが打ち上げられていた。

まぁ、あとにも先にも気持ちだけ宇宙に飛ばそうとして

ペットボトルを一人で20個も打ち上げた人はこのおっちゃんだけだろう。

しかも上空10mも上がらない。

「あっそう。おっちゃんやせかいがどう思ってようと関係ないね。

おれはロケットよりロボットのほうがすきだからね。」

キンジは昔からロボットオタクだった。

こうやって何かにつけてはロボットと結びつけては誇らしげにロボットを語っていた。

実は頭は結構いいし、結構頑張り屋さんだった。

僕は密かにいつか本当にすごいロボットを作ると思っていたのに……。

「僕は未来人だしロケットよりもすごいもの作れるけど……。

今はいいか。とりあえずこいつら全部打ち上げるぞ!」

は?未来人?それはない。

何よりおっちゃんの額に溜まった汗が頑張っている感じを語っている。

未来人が何しているのだろう。こんなところで?一番作りたいものじゃないのにその頑張りよう。

僕もおっちゃんのミステリアスさを前にすっかり10:0になった。

「よしこれで準備万端!あとはこの特製空気入れを使って……。

よしこれやりたい人!」

そう言って脱いだ白衣の下は思っていた以上に細身だった。

そして、肌はこんなに暑い日差しの下で生きていたとは思えないほど白かった。

ペットボトルロケットの構造は置いておいて発射させるには

ロケット型にしたペットボトルに水を入れて空気をそのあとから入れ込む。

空気と水とのなんやかんやでロケットが宙に飛ぶ。

今の僕はそんな勉強はやって来なかったからわからないけど科学の力?物理学の力で飛ぶ。

……そんなことはどうでもよかった。気づいたら僕は手を挙げていた。

「そうか、じゃあ君にお願いするよ。リョ……君の名前は?」

「ハナマルリョータローだ。」

「そうかじゃあこの20台のロケットの発射はリョータロー、君に任せた。

それじゃあもうひとりの君の名前は?」

「俺はモリヤマキンジだ。俺は何すればいいの?」

「そうか、キンジって言うのね。

よしキンジは飛んだら僕と一緒にロケットランチャーズ!!!と叫ぼうか。」

「叫ぶだけなら僕もやる!」

「おう、ノリノリだな。リョータロー!」

気づいたらもうノリノリだった。

自転車の空気入れを20股にしただけに近いその特製空気入れの持つところをめいいっぱいに動かした。

そして、20本のペットボトル……、20台のロケットが空に打ち上がった。

「ロケットランチャーズ!!!」


おっちゃんの第一印象は微妙だったし、ロケットを飛ばしたあとの片付けが面倒だったけど

こうやってなんだかんだで仲良くなった。


この出会いをきっかけにそれからはよく3人で遊ぶようになった。

先ほどのエピソードからは想像つかないがおっちゃんは意外とすごかった。

2110年のワールドカップの優勝国の予想を当てサッカー好きなのかと思いきや

ボールを蹴る姿は……ひどい。サッカー漫画の初期の方に出てくるサッカー素人みたいな動きをする。

年で体が動かないとか言っていたが、相当運動してない人にしかできない芸当だった。

知的で理性な態度を見せ、幾度となく僕たちが困ったときは助けてくれたけど

時折見せるユーモアのセンスは……壊滅的だった。

見ていて飽きない人だった。


キンジは明るく積極的なやつだった。

小学校入る前はおままごとみたいな協力プレイをやることが多かったが、

小学校に上がるとカード、スポーツ、ゲーム、そして、けんかみたいな

対戦プレイをすることが多くなった。

勝率は五分だった。一度勝っても次やれば負ける。ほとんど同じぐらいの実力だった。

ただ、何度もキンジと戦っているうちにほかの同級生たちとは2人で抜きん出てしまった。

そして、キンジはロボットオタクでいつも暇さえあればインターネットでロボットを調べたり、

ロボットアニメの設定資料を見てはああだこうだ言っていた。

僕にはそういった夢中になるものがなかったからちょっと羨ましかった。


そんな二人と共に過ごした2年間は最高に楽しかった。


それから2年後……。あの事件が起こる。

10年前の8月11日、気だるくて太陽だけが元気に外ではしゃいでる。そんな真夏の日のことだった。

その日は13時からおっちゃんとキンジと遊ぶ約束があった。

キンジが最近買ったロボット大戦ゲームをする予定だった。

僕は午前中に今日の分の夏休みの課題を済ませ、両親は仕事で外出中だったので、

隠してあったお菓子をリビングで寝転がりながら食べながらテレビをのんびり見ていた。

午前中にやっているテレビ番組はあまり興味深いものはなく、

小学生の肌には合わず、お腹もそこそこ満足して、うとうとしていた。

11:42、ドスンと大きな音が聞こえ、目が覚めた。

急いで薄いカーテンを開けるとやや遠方に見上げるほど大きなロボットがいた。

最初は何あれ?くらいにしか思っていなかったが、

ん、今まであんなのなかったぞと思って2度見した。

びっくりした。

体がビクッとした。

瞳孔が開いた。

一歩後退った。

本当にびっくりした。


付いていたテレビでは緊急速報と言って番組内容が代わっていた。

テレビからは人より少し大きいぐらいの大きさの鉄製の人型ロボットが

どこかこのへんで見たことある街を、人を壊していく光景が映し出される。

そいつらの攻撃力は凄まじく、殴られれば車は吹っ飛び、蹴られれば家には大きな穴があき、

ただまっすぐ歩いているだけで塀は崩れていった。

レポートのアナウンサーは大声でなにか叫んでいるが何を言っているのか全くわからない。

レポートのアナウンサーがギャーギャー言ってこっちを指差していたあと突然画面が真っ暗になった。

何がなんだかさっぱりだ。

僕はどうしたらいい?

襲われている人がいる。

襲われている建物がある。

僕は一体どうしたら……。

みんなは無事なのか?

お父さん、お母さん、キンジ、おっちゃん?

どうしたらいい?

何をしたらいい?


ピンポーンとインターホンがなり、僕は我に返った。

誰か来た。生きている人が!

走って玄関まで行き、ドアを開けるとそこにはキンジがいた。

思わずホッとため息が出る。

目の前にいるのは8歳の小学生、テレビで取り乱していたレポーターの1回りも2回りも小さい

たかだか小学生でしかない。

しかし、僕が安心と冷静を得るには十分だった。


「おう、リョータロー!無事か!?」

キンジは案外冷静だった。

「俺さ、ああいうロボットが作りたいって思っていたけど。

そう思っていたらまさかげんじつせかいで見られるとは思わなかったよ。

デザインが微妙だけどね。」

脳内シミュレーションがすでに終わっていたらしかった。

「落ち着いているね、キンジは。僕はびっくりしっぱなしだよ。

これからどうしよう。どこかにげるかい?」

テレビで映っていたところは僕も行ったことがあった。

ここからそんなに遠くないはずだ。

「どこかってどこ?

まだこのへんにロボットは来てないっぽいけど俺たち子どもだけじゃな……。

電車は動いてないだろうし、バスもきっと。

ほかにおれたちがもっているものと言ったら、じてんしゃ。じてんしゃじゃあねえ。

近所の人もなんかぜんぜんダメだったし、リョータローはやっぱいいな。」

「今はいいじゃん。

でもまあ逃げるとは言ってもどこに行けばいいんだろうね。

テレビで言っていることはわかるけどほかの土地の名前とかわからないから

どの方角から来ているかわからないし……」

「だれか大人がいればな」

僕たち二人の小学生がこの街で最も冷静な人だったが、所詮は小学生だった。

次どうするか話しているとバタバタした足つきで僕の家の敷居を跨ぐ男の姿があった。

おっちゃんだった。

「お前らうちにいたのか……。ついてこい。逃げるぞ。」

僕たちの手を引っ張るおっちゃんはなにか焦っているようだった。

しきりになんだこれとか全然違うとかおかしいとか

ブツブツつぶやいていたがほかの大人たちよりはだいぶましだったが、

一番おかしいのはおっちゃんだってことに気づいていないようだった。

もっと飄々としていてなんでも知っているような態度でいたあの時のおっちゃんはどうした?

おっちゃんに手を引かれたまま走った。

まだうちがある住宅街には被害はなかった。

しかし、一人残らず焦っているような顔をしているが、一人残らず逃げようとする者はいなかった。

どうしたらいいのかわからないようだ。

「おっちゃん、みんなは助けなくていいの?」

僕は尋ねた。ほとんどお話とかしないとは言え見知った顔を見殺しにするのは心苦しい。

「仕方がない。ロボットはこの街を囲うように出現しているらしい。

どこに行っても捕まる。諦めてしまったのだろう。そんな人は足でまといにしかならない。」

ちょっと待て、それなら僕たちどこへ逃げようとしているの?

「どこ言っても捕まるのなら僕たちはどこに行こうとしているの?

しかも走って。そんなで助かるの?」

「リョータロー、その質問は至極真っ当だが今は黙って僕についてきてくれ。

必ず助ける方法がある。」

僕はこの2年間でおっちゃんがどういう人かだいたいわかっていた。

いつもギャグは壊滅的だけどこういう真剣な場面で冗談は言わない。

僕はおっちゃんは信じることにした。

しかし、キンジは納得できなかったらしい。表情が厳しくなる。

「必ず助かる方法があるならみんなで助かるべきだ。」

これも至極真っ当な意見だ。

「俺の父さんも母さんも今どこにいるかわからない。

そんな状態で俺だけ勝手に助かったって。」

「子供が生意気なこと言うな。僕だって可能ならみんな助けたい。

けどそう言うわけにいかない。君たちを優先して助けようとしているのは

君たちが唯一の希望だから!」

「希望?何の話だ!また未来人ごっこか!」

「もういい。ちょっと眠っていろ!」

そう言ってキンジの首元に注射器を指すとキンジは眠った。

そうまですることか!僕は信じようと思っていたのにこれでは……。

「お前も暴れるか、リョータロー……。」

いや、きっと何かある。これはいつものおっちゃんではなかった。

何をするのかしっかり見とかないと。

「キンジはただ眠っているだけだよね。」

「そうだ。今は静かにしてもらわないといけないから。

あのロボットが来る前に僕のうちに着かなくちゃいけない。」

「キンジが無事ならいいや。静かにするよ。」

「やっぱ違うな。助かる。小学生とは言え二人も抱えて走るのは大変だからな。」

そう言ってまたもくもく走り出した。

着いた先は僕の住んでいた住宅街の近くにある小さい山の麓だった。

街からそう遠くない。せいぜい4kmぐらいしか離れていない。

こんなところで大丈夫なのか?

そう思った。が、一度おっちゃんを信じた以上ここで疑っても仕方ない。

「ついて来て。もうちょっとだから。」

山の中を少し進むとそこにはおっちゃんの隠れ家と思われる小屋があった。

見た目は登山の休憩所としてあるような山小屋だったが、

中はとても休憩所とは言えない見たことない材質で出来ていた。

恐ろしい程の硬さの。

「とりあえずお前らここにいろ。ここなら安全だ。」

おっちゃんはほっと一息をつく。どうやら相当安全な場所らしい。

だが厳しい顔は変わらない。

「お前らここでちょっと休んでおけ。」

そう言ってコンピュータを出してしきりにスクロールしては頭を抱えている。

中は気になったがこんなに真剣な顔をしているおっちゃんを見たことはなかったので

なんだかためらってしまった。

小屋の中は汚……、生活感があった。

食べ物も大量のお菓子やカップ麺が散乱していた。

しれっと麓の一番近い電信柱から電線が伸びていてこの小屋も電気が使える。

1ヶ月は余裕で過ごせそうだ。


ぐっすり眠っていたキンジが隣で目を覚ます。

「ん……、イタタタ、ここどこ?」

「なんかおっちゃんの隠れ家みたいだよ。

ここなら安全らしい。」

「本当に?確かに何か見たことないふんいきの部屋だけど。」

「うん。おっちゃんが言っていただけど。

それに中こんなだけどじつはここあの近くの山にある山小屋。」

「うっそ!じゃあすぐロボットが迫ってくるじゃん!本当に大丈夫なの?」

「さあ?」

「大丈夫だよ!それだけは僕が保証する。」

おっちゃんは何かを諦めたように僕たちの会話に入ってきた。

いつもと違う真剣な眼差しだったからなんにも言えなかった。

「これからだけど……。2、3日はここでじっとして様子を見る。

幸い食べ物は結構ある。なんとかなるだろう。

今日はもうどうすることもできない。寝よう。

そのへん使ってくれ。」

「お父さんとお母さんは?」

「いや、仕方がない。わかってくれ。

君たちが生きていることが希望なんだ。

今はそれしか言えない。寝よう。」

まだ13時、正直全然眠くはなかった。

そのはずだったが極度の精神的な疲労により思ったより早く眠りについた。


それから起きては適当にお菓子やカップ麺を食べ、また眠りにつく。

そんな日々を過ごした。

外の様子はわからない。あれから外に出たことはないから。

おっちゃんはパソコンをいじっていたから多分何らかの情報を得てはいたと思うけど

なんかほかの人たちを見殺しにした罪悪感をうっすら覚えていたから

僕もキンジもその話題に触れようとはしなかった。

しかし、何度か繰り返していくと口には出さないがキンジは外に出たくてうずうずし始めた。

僕は割と平気だったけどおっちゃんもそれを気にしているようだった。

この部屋には時計も窓もないのでいま何時か……、いやそれ以前に何日経過したかわからない。

そんな状況でずっとパソコンと見つめ合っていたおっちゃんが突然、チッと舌打ちすると

「結局このバカ騒ぎ止めないと。こんなのなかったのに……。」

と言って立ち上がり、おっちゃんは奥からアタッシュケースを持ってきて中にある銃?を取り出した。

銃が疑問系なのはそれを使い方がおっちゃんの動作を見た限りどうやら銃っぽかったからで

一般的な黒光りしたあんな感じではなくギラギラしていた。

「キンジ、お前は僕と来い!」

こんなに引き締まった顔をしたおっちゃんはまっすぐにキンジを見ている。

なんでキンジ?僕は?とて言いたかったけどおっちゃんの目が本気だったので

つい言いそびれてしまった。

キンジもおっちゃんの気迫に押されていつものように大胆にはいけなかったようだ。

「僕たちでこれからあいつを止めに行ってくる。それでリョータロー、これお前に預けておく。」

そう言ってなんの変哲もないUSBメモリを僕に手渡す。

「ホントはお前が大学生になってから渡す予定だったが……。

これはお前が持ってないと意味ないからな……。」

おっちゃんは悔しそうな顔をしている。

僕が大学生になる時に?何年後の話だ。おっちゃんは本当によくわからない。

「うん、これは大事にするよ!」

それを受け取るとなんとなくおっちゃんとはもう会えない気がした。

「やっぱり僕も行くよ。」

咄嗟に口をついて出た。やっぱりなんだか怖くて、僕を一人にしないで、

死ぬのならみんなと……。抑えていた感情が湧き出る。

「それはできない。ここにいれば安全だ。」

「それじゃあキンジは……。キンジはどうして連れて行くの?」

「キンジは……必要なんだ。けどお前はまだ必要ない。それだけだ。」

「そんなんじゃわかんない。」

「大丈夫だ。ここにいるあいだ全然問題なかっただろ。

僕が大丈夫と言ったら大丈夫だ。帰ってきたらまた三人で遊べるよ。」

僕は全く納得していない。

でも本気の目をしていたから

本気の表情をしていたから

本気だったからこれ以上は僕のわがままは我慢した。

「約束だよ。また三人で遊ぶって!」

「ああ。約束だ。」

「キンジ!お前ともだ。」

「もちろん。」

熱い……なんか目が……。

おっちゃんが肩にポンと手を乗せると

いつものおっちゃんの声で穏やかに語りかけてきた。

「そんな泣くなって。心配しすぎだよ。

いいか、リョータローは自分からこの部屋を出るなよ。

誰かが来たら入れてやってもいいけど必ず人だけだ。

ドアを開ける前に声をしっかり聞け。

僕たちも帰ってきたらノックと声をかけるから

それまでドアを開けたらダメだぞ。」

「わかった。」

もうなにもいうことはできない。

「さてキンジ。行くか。具体的な説明は歩きながらする。」

そう言ってドアに向かって歩き出す。

「わかったよ。よくわからないけどまたな、リョータロー!」

キンジが僕に手を振りながらおっちゃんについていく。

「行ってくる。」

「行ってきます!」

「いってらっしゃい。」

二人は出て行った。

これが二人の生きた姿を見た最後の瞬間だった。


そのあと心の中でいろいろあったけど

結局おっちゃんの言うとおりにしようと思い、

僕は二人の帰りを待つだけのダラダラした生活に戻った。


何日たったか眠っているとドアをノックされる音が聞こえた。

僕は寝ぼけた頭だったけど、急にハッとなった。

もしかしておっちゃんとキンジが帰ってきた!

ドアに急いで近づいた。ドアノブに手をかけて開く直前で勝手に開けてはいけないことを思い出した。

僕はその時あのふたりだと思い込んでいたので意気揚々聞いた。

「へい!掛け声忘れているよ!」

こんなテンションで二人と接したことはなかったから言ったあと恥ずかしくなった。

合言葉とか秘密基地っぽくしとけばよかった……。

しばらく沈黙があったあと返ってきた言葉は

「……なかに人がいるのですね!開けてください!」

だった。

僕は正直戸惑ったが開けることにした。ロボットではないから。

もしかしたら逃げてきた人かもしれないと思って。

開けるとそこには武装した気の良さそうな青年がいた。

おそらく世界の悪夢に対して派遣された自衛隊員だろう。

「……子供!……ここに居るのは君だけかな?」

彼は驚いたようだったがすぐに冷静さを取り戻した。

「うん、今は僕一人だよ。」

「そうか。大変だっただろう。大丈夫だったかい。」

「うん、まあね。」

「それじゃあここはまだ危ないから、お兄さんと一緒にここから離れようか。」

ありがたい申し出だったが僕には約束があったから。

「いや、それはできない。おっちゃんとキンジを待っている。」

「……いや、きっともうその人たちも避難したよ。だから君も!」

「そんなわけないだろ!あのふたりが僕を置いて逃げるわけない!勝手なことを言うな。」

そう言うとその自衛隊員は困った様子になったが、一息つくと顔つきが変わった。

「辛いことを言うようだけどその二人はきっともうこの世にはいない……。

あの謎のロボット集団が出現してからもう2週間も経つ。

もうとっくにこの街にいたロボットはみんな隣の町に移動してしまった。

その隙をついて俺たち自衛隊員がこの街に派遣された。

そして街中探し回ったけど、このへんで生きている人はもういなかった。

君はラッキーだった。」

あのふたりがもういない?そんな馬鹿な!絶対大丈夫って言っていた僕は無事なんだぞ!

「そんなのうそだ!」

そう言うしかなかった。

「わかった。じゃあ一回街に戻ろう。

俺が言っていたことが本当だってことがわかるから。

君にとっては辛い現実しかないだろうけど。」

ここで待っていろとは言われたけど仕方ない僕が証明してやる!

そう思ってその自衛隊員について行くことにした。

でもその時にはもうこの自衛隊員が言っていることは正しくて……って

そう思うのが嫌で必死に頭を回転させていただけだった。

強がっていただけだった。僕の頬を熱い液体が流れていることには気づいていた。

小屋を出て街に向かう。街についた僕は愕然とした。

なんだ?この瓦礫の山は!?

かすかに僕が住んでいた街の面影がある。

が、自衛隊員が言ったとおりもはや生きているものは何もなかった。

隣で一緒にいた自衛隊員が何かを話していたが

全く耳にも頭にも入ってこなかった。

僕は必死で走り回った。

おっちゃんは!?キンジは!?まだ見ていない。

街はこんな状態でももしかしたらふたりは別のところにいて無事に……。

近くの高く積まれた瓦礫の山に登ったところで見えた。

目に止まってしまった。白い服の、白衣を着た人の姿が……。

この街で白衣を着ている人と言ったら給食のおばちゃんと……。

走って近寄った。その白衣を着ている人の顔を見ると……悪い予感は当たってしまった。

その横で子供が、普段気が強そうで明るそうで興味を持つととことんのめり込みそうな顔をした

少年が……。

そこに二つの待ちわびていたはずの……抜け殻が転がっていた。

そのへんからの記憶はない。


気がつくと白い天井があった。どこかの病院らしい。

となりにはあの時の自衛隊員がいた。

「大丈夫か!?」

「うん」

本当はちっとも大丈夫ではなかったが、適当にそう答えた。

「そうか。そんで君の名前は?

わるいね。起きたばっかりなのに。」

「ハナマルリョータロー……」

「ハナマルリョータローね。

じゃあリョータロー君に問おう。

これから君はどうする?」

「わからない。」

わからないことしかわからなかった。

「うん。質問が悪かったね。

君が眠っているあいだにこの戦いは終わってしまった。

人類は降伏してしまった。負けちゃったの。

でもこのままじゃあ終われないだろう。

俺はあいつらを倒すためにそういう部隊を作ろうと思っている。

君が大丈夫だったらそれに誘おうと思っていてね。」

つまり、僕の今までなかった新しい道を作ってくれるわけだね。

「つまり、復讐が出きるってわけだね。

えっとあなたが作る部隊に入れば復讐ができるわけだよね。

迷うことはない。入るよ。」

それしかない。

「……復讐か。君にとってはそうなっちゃうか。

まあ何も無いよりはましか。退院したら俺のところにおいで。

歓迎するよ。」

「ありがとう。あの……名前は?」

「……あっ!俺の!

言うのを忘れていたね……。

まぁせっかくだし隊長とでも呼んでもらおうか」

9月末、窓から吹く風は日に日に冷たくなる。

これから冬になる、僕の心みたいに。


そして現在に至る。


ちなみに退院してからあの時おっちゃんからもらったUSBメモリの中を見てみた。

そこには何か色々詰まっていそうだったけど開くのにパスワードが必要だった。

パスワードのことは聞いてない。ヒントが下にあって好きな人の名前とあった。

それは僕の?おっちゃんの?

僕の知っている女の子の名前を一通り入れたけど開かなかった。

もう、中身は何でもいい。これは形見になった。

いつも牙を研ぐことを忘れないための。


3章 -完-


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