少女、ひとりぼっちのクリスマスイブ。
雪が降っていた。
立ち並ぶ家々から、暖かい光が漏れている。
そのひとつの玄関を、ちいさな人影がこんこんと叩いた。
「こんばんはっ。あなたの町のサンクロースです! 今日はプレゼントをお届けにきました!」
可愛らしい声がひびく。
サンタの服を着た、黒髪の少女のものだった。
「……ああ、料理の配達ですか。あいにくうちはなにも頼んでいないので、家を間違えているんでは?」
顔をだした家主の青年は、それだけ言って扉を閉めようとする。
「ちょ……ちょっと待って!」
少女はふわふわのブーツを扉にはさんだ。
青年がおどろいていると、
「あの。料理の配達じゃないです――メリークリスマス! 今日はサービスで、お父さんお母さんにもプレゼントをあげちゃいます!」
「……えっと、きみはどちら様?」
「だから、サンタクロースです」
「じゃなくて、その……きみの身分というのかな。どこの人?」
「今はフィンランドです。くわしい住所は秘密です、ふふ。お手紙ならサンタクロース宛で出してくれれば届きますよ」
「だから、それはサンタクロースの話だろう。きみ、なにかの奉仕活動中?」
「その言葉は全部あってます。わたしはサンタクロースで、今は特別な奉仕活動中なの」
そう話す彼女が肩に掛けている袋には、なにも入っていない。
ああ……と青年は合点する。
「きみは、プレゼントを集めて孤児院に配る活動でもしているのかな?」
「サンタがプレゼントを集めてどうするんですか。違いますよ」
「だって、袋になにも入ってないじゃないか」
「ああ、これはサンタの七つ道具なんです。この袋からはなんでも出てきますよ、ほら」
少女は袋をまさぐると、どこに入っていたのか、一本のシャンパンを取り出した。
「これは挨拶がわりです、どうぞ」
少女は青年にシャンパンを渡した。
青年は、受け取ったシャンパンをながめる。
白ひげの、サンタのマークが可愛かった。
「……晩酌にはありがたい手品だけど、いったいきみの目的はなに?」
「わたしの目的は、ご両親にプレゼントを渡すことです。今年のイブは特別に、子育てを頑張った親たちをわたしがねぎらっちゃおうかなって」
「へえ」
青年は少女をながめる。
艶やかな長い黒髪と、ミニスカートのサンタ服。絵に描いたような美少女サンタである。
とはいうものの……やはりこれは、シャンパンを配る慈善活動か、なにかの宣伝活動といったところだろう。
「このシャンパンは貰っちゃっていいのかな?」
「どうぞどうぞ。お近づきの印ですから」
「それじゃ、寒い中おつかれさま」
「あっ、待ってくださいっ。まだ話は終わってないです!」
「ん? ああ、すまなかったね。すっかり忘れてたよ。ほらこれ」
「わあい……って、わたしは別にチップが欲しいんじゃないですよ!」
「まだなにかあるのか?」
「まだプレゼントを渡してないじゃないですか」
「ああ。このシャンパンで上等すぎるよ。これ以上のものは申し訳なくて貰えない」
「まあ、そう言わないでください。今日はせっかくのイブなんですから」
サンタの少女はニコリと笑う。
「はあ……」
青年はいぶかしみながら少女を見る。
そんなとき、一匹のトナカイが、少女の背後からあらわれた。
「……とにかく、今夜はとても冷える。まずは中に入って話すことにしよう」
トナカイが喋った。
◆
暖炉では煌々と薪が燃えている。
部屋は暖かい。
青年はシャンパンを開け、少女はホットミルクを飲んでいた。
「しかし、変わったサンタクロースもいたもんだな」
青年はシャンパンをあおった。
話によると彼女はサンタクロースで、今夜は大人にもプレゼントをあげているのだという。
少女は手を温めるようにカップを両手で持つと、口に運んだ。
「……わたしは、お子さんにプレゼントをあげる時間よりも早く来て、その時間でご両親に奉仕をするつもりです。なのでお子さんにプレゼントをあげる時間がくるまで、こうやって少しだけご一緒させてくださいませんか?」
「なるほどねえ」
「了解していただけました? それじゃ、ここのプレゼントの時間まで、どんどん飲んじゃいましょう!」
少女はカップをテーブルに置いて、シャンパンの瓶を抱える。
テーブルには、七面鳥やパイ、サラダなどが豪勢にならんでいた。
これらの料理は全て少女が用意したものだ。サービスだと言って、気前よく少女が袋から取り出してくれた。
袋から続々出てくる熱々の料理。そして喋るトナカイ。
青年は最初こそ泡を食ったものの、今は冷静に受け止めていた。
「ところで、お兄さんの奥さんは今は実家ですか?」
「いや、違うよ」
「まあ。じゃあもう寝室で休んでいるんですね?」
「それより、きみに聞きたいことがある」
「はい?」
「……きみの本当の目的はなんだ?」
少女は、シャンパンを注いでいた手を止める。
青年は、少女が注いだグラスを取った。
「きみの話はわかった。それで、どうしてきみはうちに来たんだ」
「え? それは、プレゼントをわたすために……」
「それじゃ説明になっていないよ」
「でも、それ以上の理由は――」
少女は不安げにトナカイをみる。
青年は、グラスを置いて首を振った。
「あのな。まず……俺は結婚をしていない。子供だっていない。そんな俺のところに、どうしてサンタクロースがやってくるんだ?」
「あれ、そんなはずは……」
少女はスカートのポケットから紙を取り出し、紙面に目を這わせる。
「もしかして……恋人と別れました?」
「……昨日、ひどく喧嘩してね。それがどうかした?」
「えっと……本当なら、あなたはその人と結婚して、今は赤ちゃんがいるはずなんです」
「な……なんだそれ。どういうことなんだ」
サンタの少女は紙をポケットに仕舞い、身振り手振りを交えて話す。
「人間は、あらかじめ定められた運命によって生まれてきます。わたしたちサンタクロースはその情報をもらえるから、生まれたての赤ちゃんにもプレゼントが配れるんです」
「けど……俺の相手には妊娠してる気配はなかったよ。今日生まれてることなんか絶対にない」
「うーん。でも、リストが間違うっていうのはないと思うんですけど。困ったな。赤ちゃんいないのかぁ……」
少女はテーブルの料理に視線を落とす。
「えっと……それじゃ、わたしは次の家に向かいます。プレゼントは……おいしいものいっぱい食べたからいいですよね」
「いや、きみはこのまま帰すわけにはいかない」
少女は目を丸くする。
青年は腕を組んだ。
「きみはどうもあやしい。もしかしてきみは、サンタのふりをして、家庭になにか悪さをする悪魔かなにかなんじゃないのか?」
「そんな……わたしはサンタクロースです! それは間違いありません!」
「それは間違いないっていうことは、ほかは嘘なのか?」
「うう……」
少女がしょげているところへ、トナカイがかばうように近寄ってきた。
「青年、この娘は正統なサンタクロースだ。それは私が保証する」
「そう言われてもな……だいたい本物のサンタクロースが、こんなことをしてる余裕があるのか?」
「サンタはなにも一人だけじゃありません。子供たちにプレゼントを配るサンタは別にいるんです」
「じゃあ、どうしてきみが子供部屋に入るんだ」
「うう……」
すっかり縮こまってしまった少女をみて、トナカイはため息をついた。
「……恥をしのんで言おう。実は私たちは、とあるサンタを追っているんだ」
「サンタを?」
青年は身をのりだしてたずねる。
トナカイはうなずいた。
「ある事情から、私たちはあるサンタを待ち伏せして捕まえるつもりだ。こちらにもいろんな事情があるものでね」
「事情って……」
と言いかけ、青年は一度沈黙すると、
「――いや、やっぱり俺はなにも言わないよ。せいぜい頑張ってくれ」
青年はどかりとソファーにもたれた。
少女は胸をなで下ろしたが、トナカイはいぶかしそうに上目遣いになる。
「……クリスマスにサンタを捕まえると話しているのに、お前はすんなり話を聞くじゃないか」
「ああ……急に全部めんどうになってね。それに、サンタクロースには色々事情があるとそっちが言ったんだろう。俺に用がないのなら、これ以上口を出してもしょうがないさ」
「……なるほど、それが理由か」
「理由?」
「恋人と別れた理由だよ。お前は誠実な青年だという話だったが、どうやらすっかり変わってしまったようだ。それがきっと、恋人との運命を変えてしまったんだろう」
「俺は元々こういう人間だったんだよ。むしろ、別れることが運命だったんだろうさ」
青年は酒を飲もうとグラスを口にやる。
グラスは、空だった。
「どうやら私たちの方こそ、このまま出ていけはしないな」
「ルドルフ、どういうこと?」
サンタの少女が当を得ずに聞く。
「次の予定もある。とりあえず、この青年も一緒に連れていこう」
少女と青年は目をむいた。
「な、なんで俺が行かなきゃならないんだ」
「そ……そうだよ。連れてなんかいけないよっ」
「私が連れていくと言っているからいいんだ。青年、そうやって一人で家にふさぎこんでいたってしかたがないだろう。一つ、私たちが外に連れ出してやろうじゃないか」
「うう……ルドルフがそういうなら」
少女はしぶしぶとうなづく。
青年は言葉もない。
トナカイは耳を細かく振って、言った。
「というわけで、青年。今夜はお前がサンタクロースだ」
◆
青年と少女は夜空をとんでいた。
「……すごいもんだな」
いまは青年もサンタ服を着せられている。
空を駆るトナカイと少女の姿は、紛うことなくサンタクロースだった。
鈴が元気良くはねる音が、雪をどこか温かいものにする。
町に降りて、少女が玄関の扉を叩く。
青年は、少女の後ろ姿をみつめた。
「ん。なんですか?」
サンタの少女は振り返って、疑問の瞳を向ける。
「いや……なんでもない」
真正面から玄関をたたくサンタとはね……と、青年は妙に微笑ましく思っていた。
家の扉を開けたのは、おばあさんだった。
「こんばんは! あなたの町のサンタクロースです! 今日は特別に、お父さんお母さんにプレゼントを渡しにやってきました!」
片手をあげてサンタの少女がいう。
「あらまあ。可愛いサンタのお手伝いさんだわ」
おばあさんは柔らかく顔をほころばせる。
視線が青年のほうに向いているのをみて、少女はすこしむくれた。
「あの……お手伝いはこのお兄さんのほうで、わたしがサンタクロースなんです」
「そりゃ事実だが……なんだかな」
今度は青年がばつの悪そうな顔をする。
「おや、そうだったの。ともあれ、外は冷えるでしょう。お二人とも、とりあえず中へどうぞ」
おばあさんは優しく室内へといざなう。
「うわあ、美味しそうな匂いがします」
少女は嬉しそうにいう。
確かに、家の外に立っているときから、温かいコーンスープの匂いが二人を包んでいた。
「さっき俺の家で食べたばかりなのに、どれだけ食欲あるんだよ」
青年はあきれる。
「わたしは育ち盛りなんですよ」
少女は眉を寄せた。
二人が家の中に入ると、テーブルには温かい料理が並んでいた。
椅子にはおじいさんが座っていた。彼はにこやかに立ち上がるとサンタの来訪をよろこび、少女と青年を食卓に座らせた。
「いただきます!」
「うわあ美味しそうな料理ですね……って違うだろ。いきなり人の家にやってきて晩ご飯を奪ってどうする」
青年が突っ込むと、おばあさんは柔らかく笑った。
「いいんですよ。作ったのはいいものの、わたしたちじゃ食べきれなかったところですから」
テーブルには主に、野菜などを使った家庭的な料理が並んでいる。
少女はお礼を言うと、嬉しそうに料理に手をつけた。
「本当にいいんですか?」
青年が申し訳なさそうにたずねる。
老夫婦は揃ってうなづいた。
「どうぞお気になさらずに。お腹が一杯になったら、暖炉でココアでも一緒にいかがかですか?」
「ああ……ぜひ」
青年はお礼を言って、スプーンを手にする。
すでにお腹は膨れていたが、料理に手をつけないのも失礼だと思ってスープを口に運ぶ。
美味しくて、ついスプーンが進んでしまった。
あらかた料理を平らげてしまうと、二人は暖炉のそばに移動した。
「ごちそうさまでした! ココアもいいですけど、美味しいお酒はいかがですか?」
「まあ、それは嬉しいわ」
サンタの少女が取り出したシャンパンを老夫婦は喜び、すぐにグラスに開けた。
「あら、あなたもお酒が飲めるの?」
「わたしはサンタですよぉ。お酒は好物です」
いいのだろうかと思い、老夫婦は青年をみやる。
青年は肩をすくめた。
「ぷは。やっぱりみんなで飲むお酒はおいしいです。みなさんもどうぞ!」
サンタの少女は心地よさそうにグラスを乾かす。
それを受けて、青年と老夫婦もグラスを傾けた。
しばらく全員で語らぎ、頃合をみて少女が話し始める。
「……ところで、おじいさんたちはなにが欲しいですか? この袋から出せるものなら、なんだってプレゼントしちゃいますよ」
「そうねえ。だったら白い毛糸と鉤針かしら。今度、息子の手袋を編んであげようと思っていましたから」
「おやすいご用です。はい、どうぞ」
少女が袋に手を入れると、またもや空の袋から大きな毛糸玉が五個と、銀の鉤針が現れた。
「まあ、ありがとう」
おばあさんは両手で受け取り、おどろきまじりにいう。
「こちらこそおいしいご馳走をありがとうございます。それじゃあ、時間までもう少しあるからどんどん飲みましょう!」
少女は老夫婦のグラスにシャンパンを注ぐ。
「こんなに良いものをいただいてしまって、なんだか申し訳ないわ」
「いいえ。息子さんも心優しく育っていますし、お二人もこれからもお元気でいてくださいね」
少女は老夫婦に笑いかける。
夫婦は少女にお礼をいい、おばあさんはお菓子を取りに席を立った。
あばあさんが戻ってくると、少女はおじいさんに寄りかかって、気持ちよさそうに眠ってしまっていた。
「あらまあ。疲れちゃったのね」
おばあさんは少女に毛布を掛ける。
和やかな光景を眺めながら、青年はシャンパンを飲む。
トントンと窓が叩かれた。
青年は窓をあけた。
「そろそろ時間になる。あの子は?」
トナカイがささやくように聞いてきた。
「眠ってるけど……どうする?」
「時間まではあと五分だ。くつ下にプレゼントが届いていたら、ここを引き上げよう」
「どうやって捕まえる?」
部屋に冷たい風が入ってくるなか、青年がたずねる。
トナカイは青年の瞳を見つめた。
「……私の名前を呼んでほしい」
「呼ぶだけでいいのか?」
「それで構わない。呼んでくれれば、すぐに駆けつける」
青年は首肯する。
寒かったので、すぐに窓を閉めた。
サンタの少女は、相変わらず眠っていた。
「トナカイさんも寂しがっているのかしら」
おばあさんが青年にきく。
「いえ。あのトナカイ、おしっこがたくさん出るとああやって報告しにくるんですよ。本当に可愛いやつです」
青年は笑顔で答えた。
◆
「もう! どうして起こしてくれなかったんですかっ!」
ソリの上で少女が怒声をあげる。
「気持ち良さそうに眠ってたもんだから、起こすのは悪い気がしたんだよ」
時間がきて青年が子供部屋に入ると、すでにプレゼントは靴下の中に入っていたのだった。
「もう……次はちゃんとしてくださいよね」
あんまりな言い草だと思ったが、青年は、少女が本気で怒っているようには思えなかった。
この少女とトナカイといるのは楽しい。
青年は、そう感じはじめていた。
◆
「もう、またやり過ごしちゃったじゃないですかぁ」
「お前がゲームに夢中だったんだろ。俺ばっかり責めるなよ」
すでに家を数件回っている。
毎回飲んで食べていたサンタの少女は、すっかりへべれけになっている。
「ねー。このままじゃイブが終わっちゃいますよう」
「歩くのもおぼつかなくなってるじゃないか。そんなのでサンタを捕まえられるのか」
「サンタを捕まえてるのはお兄さんじゃないですかー」
「お前が俺を捕まえてるんだろ」
ソリの上で、少女は青年にしなだれかかる。
見た目は少女だが、見事な酔っぱらいだ。
少女は青年のお腹にすがったまま、小さく寝息を立てはじめた。
「まったく」
青年は、ソリにのっていたブランケットを少女に掛ける。
「ありがとう、すっかり世話になってしまっているな」
トナカイが礼を言う。
「いいよ。こっちも、今日は楽しい思いをさせて貰ってる」
青年はおだやかな声で言う。
トナカイはちらりと二人を見た。
「……この時期、この娘は大変でね」
トナカイが静かに話しはじめる。
イブの日。少女の両親はサンタの仕事で忙しく、少女はいつも一人きりである。
サンタだとはいっても、彼女はまだ若い。
本当は、わがままを言いたい時期なのだ。
「だけど、きみのおかげで今夜は助かったよ。この娘が追っていたのは、なにをかくそう自分の両親だ。もちろん両親がいい顔をするはずもないが、この子にとってはそれでも家に一人っきりでいるよりはましだったんだろう。なにも言わず、付き合ってくれたことには感謝している」
「今夜は俺もいい経験になったよ。感謝してもしきれないくらいだ」
青年は少女の寝顔を見つめる。
子供っぽい、可愛らしい寝顔だった。
「……俺は、家族を持つことに自信がなかったんだ」
青年は少女の頬をなでる。
「情けない話だよ。俺みたいな奴が人並みに楽しい家庭を作っていけるのか不安で、ずっと悩んでた。昨日喧嘩別れしたのだって、俺の半端さが原因みたいなものなんだ」
トナカイは静かに耳を澄ませる。
青年は笑った。
「俺はいつからこんなに卑屈になったんだろうな」
「……きっと、家庭を持ちたいと思ったときからだろう」
トナカイはそれだけ言って、蹄を鳴らして背筋を正す。
「それじゃあ家まで送ろう。いいか?」
「ああ」
「最後に君へのプレゼントを渡すことにする。少し急ぐから、しっかり掴まっててくれ」
トナカイは飛び立ち、ソリは今までにない勢いで夜空を駆る。
やがて青年の村を通り過ぎ、隣町へとたどり着いた。
煉瓦の家の前に降りて、トナカイは青年に降りるように促す。
「……プレゼントっていうのは、そういうことか」
「鉄は熱いうちに打つべきだよ、青年」
青年は目を丸くする。
隣に目をやると、少女はまだ眠っていた。
「ありがとう――おかげで、俺も決心がついたよ」
青年がソリから降りると、トナカイは、サンタの少女とともに夜空へと消えてしまった。
「……よし」
青年は、恋人の家の扉を叩いた。
◆
「このリスト。間違ってるのを持ってきちゃったと思ったんだけど、来年のぶんだったんだね」
滑空するソリの上で少女がつぶやく。
「それでも、青年と恋人の仲が危なかったのは本当だった。だがまあ、もう大丈夫だろう」
「ふうん。お父さんがこのリストを捨ててたのも、ルドルフが手伝ってくれたのも……このためだったんだ」
ソリはサンタの家へとついた。
「その、今日は……すまなかったな」
「いいよ。楽しかったもん。あとはちゃんと大人しくしてる」
トナカイは少女に鼻を近づける。
しかし、少女は家へと入ってしまった。
パジャマに着替えると、少女はココアを作って自分の部屋にもどる。
ベッドに座り、考えた。
今ならよくわかる。もし自分だけで家を回っていたら、余計に寂しくなっていただろう。青年が一緒にいてくれたから、いろんな家族の姿をみても辛くならなかったのだ。
今、家には誰の気配もない。
毎年、イブはいつも一人っきりだ。
この静けさの中で眠るのは、とても寂しかった。
少女は口をつけずにココアを置いて、ベッドにもぐりこむ。
毛布を頭からかぶり、うとうととする。
――やがて、こんこんと扉を叩く音がした。
◆
「堂々と玄関から入るサンタクロースってのも面白いよな」
少女は目を丸くした。
玄関に立っていたのは、サンタ服を着た青年だった。
「ど、どうしてお兄さんがここにいるんですか」
「どうしてって……まずかったかな?」
「いえ……だって! 恋人の人とはどうなったんですかっ」
パジャマ姿で少女が叫ぶ。
青年は気まずそうに頬を指でかく。
「だいぶ怒られはしたけど、おかげさまでうまくいきそうだよ」
「だったら、恋人といればいいじゃないですか」
「でも……トナカイに言われたからな」
少女は息を呑む。
もしかして、ルドルフが青年を呼んでしまったのだろうか。
「今日は俺がサンタクロースだよ。そうだろう?」
照れくさそうに、青年が言う。
息が、とまってしまいそうだった。
うれしくて、涙がこぼれそうだった。
とつぜんの感情に、少女はぐっと口をむすぶ。
すると……青年の背後から、ルドルフがあらわれた。
「私が彼を呼んだんじゃない。この青年が、私を呼んでくれたんだよ」
青年とトナカイは、お互いに顔を見合わせた。
「考えてみれば……どれだけいい子にしてたって、サンタクロースがこない家があるんだもんな。今日は特別に、俺がその子供をねぎらってやろうと思ってさ」
青年は、少女の頭をなでる。
「なんだったら、イブには毎年俺がきてやろうか?」
「でも……それじゃ、お兄さんの子供が寂しがるじゃないですか」
「そんなことはないよ。父親がサンタクロースって、かっこいいじゃないか」
青年が笑顔でいう。
少女はこんどこそ、こぼれてくる涙を止められなかった。
クリスマスイブの、とびっきりのプレゼントだった。
「俺は父親になるよ。その報告もしたかったんだ」
「うう……じゃあ、来年はわたしがプレゼントを届けます……」
少女は泣きじゃくりながらいう。
となりで、トナカイが青年を見上げた。
「――すまないが、来年はきみをここに連れてくることはできない。私たちが会うことももうないだろう」
「そっか……それは寂しくなるな」
青年は、もう一度少女の頭をなでる。
少女は両手で涙をぬぐった。
「だけど……もう寂しくなんかないです。来年は、わたしも立派なサンタになるから」
「じゃあ、来年はよろしくお願いするよ。その前に、今日はもう眠らなきゃな」
眠っていないとサンタは来ない。
青年は少女が眠るまで、ずっとそばにいたのだった。
そして――翌年のクリスマス。
結婚した青年の家には赤ん坊が生まれ、くつ下の中にはプレゼントと……
かたわらには、サンタ印のシャンパンが置かれていたのだった。
了。




