Anyone! Help me! 5
翌日、電気をつけるのも億劫で、薄暗い中、家で寝っ転がりながらメールをする。相手はもちろん“ジェノ”だ。
「ジェノさんも死ねなかったんですね」
確証はなかったが、オレの勘の正解。“ジェノ”からの返信はソッコーできた。どうやらよっぽどの暇人らしい。人のことは言えないが。
「フェイスさんもですか。すいません、僕が言いだしたのに」
フェイスというのは昨日即興でつけたオレのハンドルネームだ。ちなみに元ネタはエリーの名前の間違え方。
「いえいえ、オレもそうでしたから。なんとなく違うなって。この人たちじゃないなって」
餌。
「そうなんです!僕もそうなんです!!あの人たちは僕と似ているようで違う。だからあの人たちと一緒には死ねないんです」
「ああ、わかります。なんか自分が楽になることしか考えてないっていうか。ジェノさんがこんな苦しんでるのに」
餌。
「そうですよ。ほんと、自分のことしか見えてないっていうか大して辛くもないくせに辛い顔なんかしちゃって、死んでやろうとか遊びみたいに考えて、僕が思っていたのはそういうことじゃないんですよ」
「ですよね。オレにはよくわかりますよ」
餌。
「ああ、やっと見つけた。・・・ねえ、フェイスさん。提案があるんですけど、どうですか。もう一度計画してみませんか?」
はい、かかった。所要時間わずか数分。壮絶ベリーイージーモード。これがギャルゲーならクレーム殺到だ。
「そうですね、いいですよ。ただ、ほかの人がいると煩わしいんで、ジェノさんと二人なら」
返信が滞る。もちろん向こうが答えに窮しているわけではない。向こうの心はオレが確認するまでもなく決まっている。だから今頃大急ぎで準備を整えているはずだ。
「では、東京湾で今夜0時に!!」
と、まるでパーティか何かに誘われるように、オレは自殺することになった。
「・・・・・・ちっ」
舌打ちをする。畳んだケータイを床にたたきつけようと思ったが、その被害とオレの下がる溜飲をはかりにかけたところ、被害のほうが大きかったのでやめておいた。おとなしく畳んでポケットに突っ込み、ふらふらと家を出る。ふらふらというのは仕事をしていないの擬音ではない。いや、もちろん今現在プータローなオレだが、それ以前にここ最近2日で1食ペースなのだ。力が入らなくて当然である。膝が踊る踊る。まるで糸の切れたマリオネットようだ。自分で自分が笑えてくる。
ほんと、何やってんだオレ。こんな風に人の心に踏み込むような真似までして。何がしたかったんだっけ。なんで生きてるんだっけ。
もう生まれてから何千何万と繰り返された自問自答。オレを変えたあの日から、答えはいつも変わらない。オレは別に生きたくない。ただ―――
「・・・・・・ん~~、やめとこ」
とにかく飯だ。あいにく今日は平日。この時間じゃ友人は仕事中。いや、エリーを口説けば何とかなるかもしれないが。
「大家さん、飯くれ!」
ヒモか、オレは。何が悲しくてこんな皺くちゃのばあちゃんに恵んでもらわなきゃならんのだ。
「藤田さん、それより先に今月の家賃・・・」
ふざけろよ、ばばあ。
「オレの上司が払ったでしょ?ほら」
首をかしげる老婆。なんでこんなに生活苦しいと思ってんだ!めんどくさいので一旦部屋に戻ってちゃんとトモさんにもらった領収書を見せる。あの人はこういうところはきっちりしている。
「いえ、これ先月よ」
うっそ、マジ!?
・・・マジだった。いつの間にか滞納してたらしい。いつの間にか、っていうか先月支払ってない間にだけど。
「だいじょぶ、今夜仕事すれば金が入るんだよ。そのためにエネルギーが必要なんだ。ほら、先行投資だと思ってさ」
必死に懇願するオレ。大家さん、いや大家さまは少しうなった後、お盆に載せたご飯とみそ汁と焼き魚を出してくれた。
あ~~~~、生きててよかった。と数カ月ぶりの日本食を堪能した後、夜に備えて寝る。最近寝すぎてる感があるが、余計なエネルギーは消費できない。爬虫類にでも生まれればよかった。