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Show me the perfect world.... 3

リコとだけ少女は名乗った。名字を言えば誰でもわかるくらいの政治家の娘、いや、息女というべきか。というわけでオレにも名前は伏せられてる。別にそんなのはどうでもいいのでリコだけで十分。本人はあの通り面と向かって話していても常に別の世界のことしか頭にないので、名前以外はトモさんから聞いた。

壊れたのは2年前のことらしい。オレと同じく突然のこと。本人があれなので、何があったかは分からない。だがある日突然、リコは死を選んだ。

家族はそれはそれは慌てたらしい。なんせエリート中のエリート。一家全員が一度はテレビに出たことがあるような家だ。リコを何不自由なく育ててきたつもりだったし、当時のリコもかなりの才女だったらしい。

その後、手首の傷を皮膚整形で消し、精神科を無事退院した。だがしかし、やはり怖かったのだろう。家族はリコを閉じ込めた。この場合何が怖かったのかなど言うまでもない。退院をしたとはいえ精神を病んだ娘がいることが世間に知られることが怖かったに決まってる。

だがしかし、それはどうやら間違えだったようで。

最初の犠牲者はメイドだったらしい。リコの部屋に食事を運ぶ仕事をしていた。ある日突然泣き叫び、やめさせてくれと懇願した。落ち着かせて事情を聞くと、メイドは訥々と話し始めた。

窓から月を見上げながら微笑み、語りかける少女。食事をお持ちしましたと声をかけても反応がない。もちろんそのまま放っておくわけにもいかないので、カーテンを閉めて肩を揺さぶった。

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

部屋に鳴り響くリコの悲鳴。体の芯から凍えさせるに足る恐怖。メイドは心の底からわき上がる感情にこらえきれずに逃げ出した。逃げて逃げて自分の主人に懇願する。

リコの父親はメイドを別のものに任せ、娘の部屋に向かった。その部屋の台風でも通り過ぎたかのような凄惨な光景の中、食事用のフォークを首につきたてて倒れているリコの姿がそこにはあった―――。


「まあ、典型的っちゃ典型的っスね。パニック症候群でしょう?でもそれなら治療法もあるんじゃないですか?」

トモさんはリコのものであろうカルテをパラパラとめくる。それをオレに見せる気はないらしい。

「確かに鎮静剤は利用しているが、あくまで応急処置だな。パニックの原因が内因性か外因性かもわからない。本来の治療は原因の排除から始めるのだが、それができないのは難点だ。本人はあの状態だしな」

ちなみにオレとトモさんが話している場所は病院のロビー。リコは病室にいる。最近は家族の面会もほとんどなくなったらしい。

「精神医療が発達してからずいぶん経つが、どの症例とも一致しない。本来パニック症候群は落ち着いているときはまともなものなのだがな」

パニック症候群

いわゆる感情の起伏が激しくなっている状態。ハイの時はまるで手がつけられないが、ロウの時は通常の人間。

だがリコは違う。

「複数の精神病が複合的に絡み合っているとみていいだろう」

たとえばだ、肺を病んでいる患者が心臓を病むと死亡率は激増する。これだけ医療の発達した現代においても進行度合いによっては臓器自体を回復するのは不可能に近い。日本では移植技術が発達しているが、逆にいえば移植しかないともいえる。何でもかんでも入れ替えるのだ。あの冷臓庫から引っ張りだすことによって。

だが、脳を引っ張りだすことはできない。それは人間を取り換えるのと同じ行為になるからだ。心は脳にあるからだ。

「事実、あの娘はパニックでない時でも自殺を図る。あれは怖いぞ。さっきまで笑っていたと思ったら急に死ぬんだ」

知っている。オレはそれを知っている。あの満月の夜、あいつが飛び降りたのは何の冗談でもなかったのだ。あいつは別に階段を下りるのが面倒だったから飛び降りたのではなく、呼吸するように自殺を図ったのだ。

「あれでもまだ減った方だ。ずっと閉じ込めていたときはひどいものだった。ベッドに縛っておけば話が早いのだが、家族が拒否したのでな」

早くねえよ。

「ストレスの発散ということスか?」

わざわざ自殺の対策をして散歩に出させる。なんてめんどくさい。だがそうするしかない現状。先回りしてマットを用意してくださる皆さん御苦労様ってとこか。

「あれもお前を気にいったみたいだし、どうやら顔見知りのようだしな。まかせた。私の目に狂いはなかったということか」

「・・・・・・」

さらりと自分褒め。さすがトモさん。

だが、オレとしてはできるだけ任されたくない。面倒事のにおいがする。それだけじゃなく、何か嫌な感じがするのだ。

あいつとオレが似ているからか?

いや、違うな。オレとあいつは似ていない。もちろん同じでもない。オレとリコは全く違う。それなのに感じる何か。縁起でもない何か。その正体がわからねえ。ただの気のせいだといいんだが・・・。



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