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Dead Line 5

こぽこぽこぽ・・・

泡の音。ああ、オレもとうとう死んだのか。いや、死んでないのか。ただ人でなくなっただけか。ただの冷臓庫になっただけか。

目を開ける。病的なまでに真っ白な天井。息を吸ってみると肺が膨らむ。ここは管の中ではない・・・?

ゆっくりと体を起してみる。全身をまとう筋肉痛が痛かった。もともと鍛えていた体とはいえ運動するのは久々だった。

どういうことだ・・・?

あれを夢だったとか、これが夢だとか、そんなことはない。さすがにもう夢と現実がわからなくなるほど子供ではない。つまり、ここにこうしてオレが生きているということ。

なぜだ・・・?

まあいい。考えるのは後だ。病室。つまり、これから再検査ということか?ならば逃げなければならない。

ああ、そうだ。オレは、死にたくない。

ここまできてようやくわかるなんてバカだな、オレは。気付くのに20年もかかったのか。まあいいさ。どうせ無駄に長い人生だ。泥まみれだって生きてやろうじゃないか。

いつの間にか患者用の服に着替えさせられていた。ここでじっとしているわけにはいかない。オレは生きる。生きてここを出てやる。

ビ――――

鳴り響くコール音

「・・・・・・っ!!」

センサー式のナースコールだ。オレがベッドを下りたら鳴る設定だったのだろう。くそっ、ここには窓がない。ドア以外に突破できる場所はないのだ。オレはそばにあったパイプ椅子を掴んだ。何とも頼りない武器だが、それでもないよりはましだ。

ゆっくりと、カウントダウンのようにドアがスライドする。自動式。つまり内側からは開けられない。ひょっとしたらこれはピンチの中のチャンスかもしれない。

「何をしている・・・」

「うわっ・・・・・・」

井上友。オレの記憶の中では今さっきオレを組み伏せた女が白衣姿で立っていた。

ちくしょう、どうして体が動きやがらねえ。簡単だろ?この女に一撃食らわせてその隙に逃げるだけだ。なんでだ!オレの体だろ!動けよ、おい。寝てんじゃねえよ。ふざけんなよ。今しかねえんだよ。オレは死にたくねえ。お前は違うのかよ!オレまでオレに死ねっていうのかよ・・・!

「座れ。そんなに睨むな。お前を殺すのであれば寝ている間に殺している」

どういうことだ・・・?

「死にたくないのだろう?」

混乱する。困惑する。あれだけ勉強してきたはずなのに、オレの脳はこの状況を理解することができない。数学よりも難解で、国語よりも解き難い。それが現実―――

「生かしてやる。ただし、あれを見られたからには放免というわけにもいかん。監視をつけることとその監察官の手足となって働くこと。その二つが条件だ」

目を細めて女を見る。その女は物を見る目でも虫を見る目でも、かたや敵を見る目でもなく、

―――人を見る、目をしていた。

「断るならば、この場で即、死んでもらう」

まるで悪魔との契約。しかし、この世は所詮地獄にある。どこへ行っても地獄絵図。ならばあるいは、この世界を統べているのは案外神なんかではなく、悪魔のほうなのかもしれない。

「世界は脆く、不確かだ。それはわたしも知っている。ならば、その世界を生きて、支えてみようとは思わないか?」

差し出された手は、20年間オレが焦がれていた非日常の色をしていた。

オレは首肯して手を握り返す。握ってみると、武骨だと思ったその手は思ったよりも柔らかかった。

こうしてオレは生きることを決意した。何の喜びもない壊れた世界だが、それでも生きて見ようと思ったのだ。

・・・もっとも、このあとすぐにあの時素直に死んどきゃよかったと後悔することになるのだが―――




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