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Where is her heart? 3

翌日、オレは臨時職員っぽく見える格好をして、指定されたカフェに行く。もっとも、オレの持っている安物の服では限界があるのだが、自殺者に親身になることを信条にしているとか何とか、理由を後付けすれば納得するだろう。

先に来ていた高嶋優衣と適当な挨拶口上を並べる。では早速と言って、ボイスレコーダーを出した。“ジェノ”といいこいつといい、骨董好きなのだろうか?

「では、よろしくお願いします。まず、藤田さんはどういった業務を行っているのでしょうか?」

お、最初は軽く来たな。

「えっと、基本的にはカウンセリング。自殺しそうな人を説得したりとか・・・です」

おっと危ない。一応臨時職員ということで来てたんだった。ちゃんとそこの壁は設けなくてはならない。あーあ、めんどくせ。

「つまり、勝手に自殺しそうな人をセンターに送りこむということですか?」

ん?棘がある。・・・ああ、そういえば前の口ぶりから察するにこの人は支援法反対派か。でも仕事とプライベートな感情は分けろよ。

「いや、ちゃんと更生させて社会復帰した人もいます」

・・・はずだ。

「精神病だったらちゃんと病院に送って、治療をしています」

・・・はずだ。

「それで、本人の希望がある場合のみ、センターに送られています」

・・・なのか?

残念ながら何も知らない。所詮オレはトモさんの手足だ。

なんだ?精神病のくだりのあたりで表情が険しくなった気がする。気のせいか。

「・・・なるほど。では次の質問に移らせていただきます。支援法の受け入れに関してです。末期がん患者に対してセンターでの受け入れが拒否されたという事例があるのですが、それについてはどう思われますか?」

あったのか、そんなこと。知らねえし。でもセンターの二つの目的から言ってわからないでもない。末期がん患者は自分で死ぬのが難しいし(もちろん不可能ではないが)、がんが全身に転移していれば移植も不可能だ。つまり、センターで受け入れるだけ無駄だということ。

「別に問題はないと思う・・・思いますが」

「なぜですか?」

うおう、突っ込んできやがる。

「そうですね。まず、そもそもその患者はセンターの意義を取り違えていますね。センターは自殺者を救う所じゃなくて、生きている人を救うところなんですよ」

詭弁だ。実にくだらない。今悟った。オレがここでこうして質問に答えることに意味はない。暇つぶしにすらならない。ただの時間の無駄だ。

こいつは徹底的に支援法とセンターに対抗したい。記事にしてそれを知らしめたい。だから記事にできそうな事だったら何でもよかったわけだ。こいつにとっては反対派の記事を書くのが第一で、オレとの会話はどうだっていいというわけだ。

「楽に死にたいのなら安楽死を望めばいい。現代医療では可能でしたよね?その患者がわざわざセンターを選んだ理由がわからない」

高嶋優衣はむっとした表情をする。絶対に記者には向いてないと思う。

「その患者は未来を生きる人々の力になれればと思ってのことだったそうですよ」

やべ、笑えてきた。そのもしかしてがんが何か知らなかったのか?ていうかこの女も知らねえのか?未来のために自分の体を財産にする?その臓器は爆弾なのに?細胞がDNAレベルで変異して無限に毒をふりまき続けるのに?なんだそれは。未来のためを思うなら、さっさと身を引け。それともなにか?その患者はレシピエントをがんにしたかったのか?無限に増える細胞を力か何かと勘違いしたのか?

「残念ながらその方では何の力にもなれませんよ」

これでも必死にオブラートで包んだ言葉である。もう包みすぎて蛾の繭みたいになってる。ほんとはこう言いたい。

―――身の程を知れ。

高嶋優衣押し黙る。無言で心の中で気持ち(おそらく怒り)を整理して、顔を上げた。

「・・・では、次の質問です。支援法によってセンターが行っている行為は殺人ではないかという見方があります。それについてはどう思いますか?」

駄目だ、我慢できねえ。笑いが止まんねえ。

「・・・どうされました?」

さあ、どうしちゃったんだろうな。わかんねえ。オレ自身わかんねえよ。

「失礼。・・・殺人ではありませんよ。それについては断言できます」

だって、「アレ」は死んじゃいないから。生きてはいないけど、死んだこととにすらならない。

「なぜですか?」

「ちなみにセンターでの所謂「自殺」の仕方についてはどう聞いていますか」

「えっと、強力な麻酔を使うと聞いています」

半分正解だな。まあ、そのルートで行くか。嘘は得意だ。オレの人生そのものが冗談みたいなものだから。

「そうです。しかし、志願者は自分の意思でセンターに登録します。そして、麻酔を打つのも自分の手で行います。さすがに踏ん切りがつかない方もいるので、その時は承諾をいただいて、職員の手を貸します」

「つまり、殺人ではないと?」

「そうですね。あえて言うなら同意殺人にはなるでしょうね。その特例こそが支援法の大本です。もちろん受け取り方は人によってさまざまですが、少なくとも殺人「罪」にはなりません」

ククク、爆笑。マジ腹いてえ。つーか片腹痛い。なんて茶番。

「・・・わかりました。では・・・」

質問は延々と続く。オレは胸の内で笑いを必死にこらえながら、それなりにちゃんとしている(と外からは見える)答えを返し続ける。そして最後に彼女は言った。

「今度仕事をちゃんと見学させていただきたいのですが」

・・・は?

「ですから、どのような業務なのかを取材したいのです」

いやいや、無理無理。そんなの許したらオレの命は今日までだよ。

突然カフェに鳴り響く着信音。オレのではない。オレの着信音はこんなファンシーな感じじゃない。

「あっ、私です。申し訳ありません」

マナーモードにしとけ!・・・ってオレもだけど。

「あっ、はい。・・・えっ!?そうなんですか!?わかりました、すぐ戻ります」

ケータイを切って、パソコンを閉じてバックに詰める。

「申し訳ございません。会社のほうでトラブルがあって、取材はここまでということで。どうもありがとうございました。仕事の件、よろしくお願いします」

鞄を背負ってレジに向かって行く。・・・っておい、ふざけんな!なに勝手に了承したことにしてくれてんだよ!



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