嘘をつきました
***BL*** 好きなのに、、、僕は友達で良いと言ってしまった ハッピーエンド
なぁんだ、そっか、、、やっぱり元彼が忘れられないんじゃん、、、。
それなら、僕はもう、必要無いよね、、、。
****************
桜井が元彼とキスをしていた。
なぁんだ、と思って、今先刻別れた駅のエスカレーターを上りながら、昔の事を思い出す。
*****
高校生の僕は、仲の良い友達に告白をして付き合った。でも、付き合っていると思っていたのは、僕だけだった。
彼は普通に女の子と話すし、友達も大切にした。
僕は彼に、僕だけを見て欲しくて、ヤキモチを妬いた。
喧嘩をしたある日
『愛されてるって、勘違いしてるんじゃ無い?』
と、彼に言われた。
今でも鮮明に覚えている、、、
「え?」
「俺達に愛なんて無いでしょ?少なくとも、俺はただの興味本位。男を抱くってどんなかな?って思ってさ」
「でも、僕が告白したら、好きって言ったよね?」
「そりゃあ、好きだよ。友達としてね。でも、それ以上じゃ無い」
「本当に興味本位だけなの、、、?」
「まぁね」
「そっか、、、」
そうなんだ、、、そうだったんだ、、、
悲しくて、悔しくて涙が出そうだった。
「それに俺達、付き合ってる訳じゃ無いだろ?」
「、、、」
「俺もお前も、一言も「付き合う」なんて言って無いよな」
「そうだね、、、」
「セフレだよ、セフレみたいな感じ?。お互い気持ち良かったんだし、良いだろ?」
「、、、」
それから彼とは、上手く行かなくなって、自然消滅した。
*****
今、付き合っている桜井とは、僕から告白したんじゃ無い。彼から告白して来た。
僕は高校生の頃の恋愛を引き摺っていたから、思いを告げようと言う発想を持っていない。
桜井を好きになったのは、入社して間も無い頃。
高校卒業後、大学生になった僕は、もう恋なんてしないと決めていた。四年間、全くときめく事も無く過ごした。
社会人になり、人見知りする僕は毎日緊張していた。一緒に入社した桜井と同じグループで行動すると、彼は孤立しそうな僕に気使ってくれた。
そんなに特別な事じゃ無い。会ったら挨拶してくれるとか、ちょっと立ち話する位。そのお陰でみんなともゆっくり打ち解けて行った。
その頃桜井には既に恋人がいて、僕に悩みを打ち明ける様になった。
大した助言も出来ない僕は、ただ話しを聞いて「そうか」「そうなんだ」「大丈夫?」「でも好きなんでしょ?」と言うだけ。
頑張れ、とかは言えなかった。
桜井の恋人は、僕達とは違った。
平気で浮気をするし、誰とでも寝るらしい。
それを隠す事もしないから、彼はいつも悩んでいた。
酷い恋人でも別れないのは、最後はやっぱり桜井の所に帰って来るから。
でも、一番の理由は桜井が彼を愛している事だった。
こんな僕でも、桜井がいつも頼ってくれるのが嬉しかった。必要とされていると、実感していたんだ。
だけど僕は、この恋に何も期待をせず、ただ静かに「好きだな、、、」と思っていた。
それなのに、付き合う事になるなんて、、、
**********
急に芳野に別れようと言われた。
付き合って一週間しか経って無かった。
何で?
俺、何かしたかな?
「如何して急に、、、」
「桜井がキスしてるのを見たんだ」
「え、、、昨日?」
「うん、、、あの人でしょ?いつも話していた恋人。おめでとう。、、、元に戻れて良かったね」
そう言うと芳野は、笑って僕を置いて行ってしまった。
真逆、昨日のアレを見られたなんて、、、。
俺は追い掛けたいのに、追い掛ける事が出来なかった。キスしていたのは事実だったから。
ただ、俺はもう、元彼の事は好きじゃ無かった。
キスも不意打ちで、強引にされただけだった。でも、事実は事実だ。
芳野は許せなかったんだろう、、、。
芳野の前に俺が付き合っていた相手は、自由奔放で浮気はするし、見知らぬ相手とベッドを共に出来る人だった。
俺がそれを咎めても、反省はしない。嫌なら別れれば良いだろう?と開き直り、俺は好きだったから許してしまう。悪循環。
芳野に愚痴や不満、不安を聞いて貰っていた。
俺が、「自分でも自分に呆れる、、、」と言うと、「好きって感情は如何にも出来ないよね」と言ってくれた。
元彼に誘われて友達の家に行った日の事だった。友達二人も付き合っているらしく、四人で夕方から飲んだ。程々に酔いが回り、良い気分になった頃、甲野が友達の彼氏をベッドに誘った。俺が理解出来ずにいると、友達が俺に触れる。状況が掴めず混乱していると、相手が「偶には違う相手とするのも刺激的だよ」と言った。
でも、俺には無理だった、、、。
俺は自分の荷物を持ち、そこから逃げた。翌日甲野から一回だけ電話があったけど、出なかった。俺は彼を避ける様に別れた、、、。
もう限界だったんだ。
芳野に声を掛けられて、飲みに行った。
「最近は大丈夫なの?」
酒を飲みながら別れたと告げ、あの日有った事を話す。
彼は最後まで、静かに聞いてくれた。
*****
甲野と付き合っていた頃から、芳野の事を良いなと思っていた。でも、彼氏が居たから、そんな気持ちに蓋をして、気付かないフリを続けた。
甲野と別れてから、芳野と飲みに行く度に良いやつだと実感した。
彼は嘘を吐かない。真面目で誠実で、約束事もちゃんと守る。元彼とは真逆だった。
時間を掛けて、自分の気持ちを確認した。芳野が好きだ。付き合いたい。そして半年後、告白した。
彼は暫く考えていた。俺は緊張して、大人になっていたのに、返事を聞くのが怖かった。
「、、、良いよ。僕も好きだから」
そう言って、ちょっと笑った芳野の顔が、印象的だった。
同じ職場だから、毎日会って毎日一緒に帰る。付き合い始めの週末に、俺の家に呼んだ。
一晩泊まり、早朝駅まで送る。まだ、手も繋げない関係。
改札で別れて、彼が階段を上る姿を見送る。もっと一緒に居たかったな、、、と淋しくなった。帰ろうとした時
「桜井!」
甲野だった。
「こんな所で何してんの?」
早朝なのに、酔っ払っているみたいだ。相変わらずだな。
「僕に会いに来たの?」
と言って、両手を肩に掛け、俺を引き寄せる。
「ちょっ?!」
いきなりキスをされた。巫山戯過ぎだ。
「今から、ホテルでも行く?」
耳元で囁かれて顔が赤くなる。
「僕、桜井のそう言う純情な所、好きだよ」
俺はアンタの、そう言うふしだらな所が、嫌いだ。
**********
初めて桜井の家に泊まり、早朝駅まで送って貰った。送って貰うと言う行為が嬉しくて、何だか照れた。
改札で別れて、短い階段を上り、ホームに向かう。エスカレーターの入り口で
「桜井!」
と彼を呼ぶ声が聞こえた。足を止めて、戻る。
彼がキスをしていた。
なぁんだ、そっか、、、。やっぱり元彼が忘れられないんじゃん、、、。
それなら、僕はもう、必要ないよね、、、
危なかった、、、彼が僕の事、好きだって勘違いする所だった。
月曜日、桜井とは別れた。僕は彼を好きだったけど、桜井がまだ元彼を好きなら、どうにもならない。
告白してくれたけど、彼を忘れる為だったのかも、、、
休みの間に色々考え、今ならまだ傷は浅いから大丈夫、別れようと決めた。
付き合って一週間しか経っていないから。
**********
元々芳野は愛想が良い訳では無い。
挨拶もすれ違う時に少し頭を下げる位。
付き合っている時も、話す方では無かった。でも、俺は平気だった。仕事で助けを求めると、暫く考えて必ず「良いよ」と笑って、引き受けてくれる。いつも内向的だけど、俺は好きだった。
告白したのは俺。
別れてから、やっぱり芳野と一緒に居たくて、飲みに誘った。声を掛けた時、彼はじっくり考えて「良いよ」と言ってくれた。
嬉しくて、調子に乗って、はしゃいだ。本当は、元彼とのキスの釈明をしたかったのに、言えなかった。
店を出て、人通りの少ない道を選ぶ
「俺、芳野が好きだよ」
言葉にして伝えた。好きって言ってくれたら、元彼とのキスの事、、、切り出せる。
「有難う、でも、、、僕は友達が良い」
「、、、そっか、、、ごめん」
芳野は、やっぱり俺を受け入れてくれなかった。
**********
桜井にもう一度告白されたけど、僕は嘘を吐いた。本当は好きだった。付き合う事になった時、凄く嬉しかったし、今だって付き合いたい。
だけど、桜井が元彼の事を忘れられないんじゃないかと思うと、好きと言えなかった。
でもそれで良い、職場では会える、、、。
付き合う前の関係に戻っただけだ。
*****
友達が良いと言った後も、桜井は僕を食事や飲みに誘ってくれた。
その日は、BARに居た。薄暗いカウンターに座って小さな声で話す。ジャズが流れていて、雰囲気のある店。
二人で飲んでいると、桜井の元彼が声を掛けて来た。あの時の男性だ。
カウンターの、背の高い椅子に座る桜井に寄り掛かりながら
「甲野です」
と僕に自己紹介をする。
桜井はギョッとした顔をした。彼は桜井と肩を組み
「桜井の恋人?」
と笑う。
「桜井って、良いでしょ?俺達、身体の相性が最高に良かったんだよ」
「、、、そうですか」
「ね、三人でしない?」
この店に似合わない、下品な事を言い出した、、、
「甲野、この人はそう言う人じゃ無いから」
「じゃあ、桜井だけでも良いよ。今日、しようよ」
桜井がため息を吐いた。
「甲野、、、今はちょっと、、、」
「何でだよお、良いじゃん、行こうよ。僕、久しぶりに桜井にメチャメチャにされたいんだ。ね?」
元彼は、桜井の上着の胸元に手を差し入れる。そうしながら、僕の顔を見た。ワザとやってるんだ。
「そんなにお気に入りなら、如何して大切にしなかったんですか?」
桜井がずっと悩んでいた姿を思い出す。
「嫌だなぁ、大切にしてたよ。大切だから、マンネリ化しない為に刺激が欲しいんだよ」
「俺は着いて行かない。恋人以外とは、出来ない」
桜井が言った。
「分かった分かった。桜井の相手はちゃんと僕がするからさ」
「甲野、俺達、もう、終わってるから」
「じゃ、今日だけ。今日で最後にするよ。行こう」
桜井の耳元で囁いた。
僕は思わず桜井の腕を掴んだ。
行って欲しく無い。
元彼に着いて行ったら、桜井が傷付くと思った。彼が傷付く姿を何度も見て来た。悩んで悩んで、結局元彼を許してしまう彼が、いつも可哀想だった。
桜井は、僕の顔を見た。それから、元彼の方を見て
「ごめん。俺、今、この人の事、口説いてるんだ。だから、邪魔しないで、、、」
「え、、、」
馬鹿っ!急にそんな事言われたら、顔が赤くなるじゃないか、、、。
掴んでいた手に力が入ってしまう。
「ずっと、好きだったんだ。でも、この人、真面目で、中々俺に靡かなくて」
腕を掴んだ手を、如何したら良いか分からない、、、。
「はぁ?僕よりソイツを選ぶ訳?」
彼は自信に満ちていた。
「僕の身体で、何度も気持ち良くなったのに?」
僕が、掴んだ手をそっと離そうとしたら、桜井は自分の手を重ねて、離さない様にした。
「俺、この人が好きなんだ、、、だから、彼を選ぶ」
「、、、身体の相性は大事だよ。好きだからって、相性まで良いとは限らないから」
そう言いながら、彼は自分のテーブルに戻った。席には友達が数人いて、コチラを見ている。嫌な感じだった。桜井があのテーブルに行かなくて良かったと思う。
「ごめん、、、嫌な思いをさせた、、、」
「良いよ、、、大丈夫」
僕達は話しをする事も出来ず、ただ静かに飲んだ。店を変えても良かったけど、彼らが後を付いて来ると困るので、そのままカウンターで飲んだ。
目の前にバーテンダーがいるから、何か有っても大丈夫だと思ったんだ。
*****
気が付いたら、彼等は居なくなっていた。空っぽの座席に安心して、漸く席を立つ事が出来る。
「遅くなったから送るよ」
そう言われて嬉しかった。
*****
夜の道は静かで暗くて、自分に素直になってしまいそうだった。
「さっき、、、如何して腕を掴んだの?」
と聞かれて
「、、、桜井に、アイツと行って欲しく無かった」
と答える。
「、、、それってさ、、、」
「あのまま着いて行ったら、桜井が傷付くんじゃ無いかって、、、」
「、、、そっか、、、俺の事、取られたく無いから引き止めたとか、そう言うんじゃ無いんだ」
と小さく笑う。
胸がチクリと痛んだ。
本当はね、、、好きなんだ、、、。
でも、僕は臆病だから、傷付くのが辛い。
友達ならさ、いつまでも一緒にいられるから、、、
「、、、半年前、一週間だけ付き合った時、「僕も好きだから」って言ってくれたけど、それも友達として好きだったのかな?」
違う、、、
首を振る。
「、、、それなら良かった、、、」
桜井が微笑む。
ごめんね、、、。
**********
最近、このまま友達で居れば良い、、、そう思う様になっていた。
芳野はこれ以上望んでいないし、、、。
付き合う事を半分諦め掛けた頃、俺に職場移動の噂が出た。地方に立ち上げる支社に三年。左遷では無い。
辞令が出た訳でも無かった。上司から話が有った訳でも、面接が有った訳でも無い。ただ何と無く、そんな噂が流れた。
え、、、俺、移動になるのかな?地方に三年?、、、辞令が出たら、そりゃあ行くけど、、、マンションの更新があるんだよな、、、。
確認しようと思い、上司を探す。
結局、俺の移動は無かった。支社を作ると言う話しが一人歩きして、誰かが移動するんじゃ無いかと言う訳だ。
支社の話しも出たばかりで、如何なるか分からない
「もう、噂になってるの?早いね」
と驚かれ
「移動が無いなら、安心してマンションの更新が出来ます」
と笑った。
マンションの更新か、、、引っ越そうかな、、、芳野の家の近くに、、、。
*****
「引越しするの?」
「、、、あ、うん」
スマートフォンのアプリを思わず閉じる。芳野の家の近くで探しているとは言えず、つい、それ以上は話せなかった。
「、、、」
芳野も考え込んでいる。
ヤバ、見られたかな?
最近は俺の家で飲む事が多い。ほぼ毎日晩飯を一緒に食い、酒も飲む。外で食事をするより、宅飲みの方が財布に優しい。
職場と芳野の家の間に俺の家があるから、二人で俺の家に行く。
今日もいつも通り、買い物をして帰る。家に入り、リビングのテーブルの上に、不動産屋から貰った間取り図が置いてあるのを思い出した。
「ごめん、冷蔵庫に酒、入れておいて」
芳野に頼んで、テーブルの上を片付ける。
*****
コンビニの弁当を食べ、二人で酒を飲む。
この時間が一番落ち着く、、、。
芳野のグラスに酒を注ぎ、俺のグラスにも注いだ。
**********
桜井が引越しすると言った数週間前、新しい支社が出来る事と、桜井が移動になると言う噂を聞いた。
噂だと思いながら、何処かで「もし、本当に移動だったら」と不安になった。
昼間、彼がスマートフォンで間取り図を見ているのに気付き、本人に引越しするのか聞いたら、否定しない。
辞令は出てないけど、内示はあったのかも、、、。
彼の家のリビングにも、間取り図が置いてあった。
地方に移動になったら、毎日会えなくなって、いつしか連絡も途絶えるんだろうな、、、。そう思いながら聞いた。
「新しい支社って、何処だっけ?」
注いで貰った酒は、少し温かった
「東北」
「、、、東北、、、」
遠いな、、、。
グラスの酒を飲んで、冷蔵庫に冷たい酒を取りに行く。
東北までの所要時間を調べると、三時間半位だった。朝から行って、一日遊んで帰って来れる、、、料金は、、、、結構するんだ、、、。彼のグラスに酒を注ぐ。
「どうした?」
「東北って遠いね」
「そうだな」
僕の頭の中は、桜井が移動になる事ばかりだった。新しい冷たい酒が、喉をキュッと刺激する。開けたての酒はやっぱり美味い。ゴクゴク行ける。
「今日、泊まって行けば?」
「え?」
「芳野、疲れてるみたいだから」
「そうかな?、、、」
「此処の所、忙しいみたいだし、今日は元気ない」
「、、、元気はあるよ。ちょっと考え事しちゃって、、、」
「考え事?相談なら乗るよ?」
「あー、、、桜井が新しい支社に移動って聞いて、、、」
「噂だよ」
笑う。
隠した?まだ、社内的に内緒なのかな?桜井のグラスが空だ。
「、、、」
「俺もその話し聞いてさ、上司に確認したんだ」
自分で注ぐ
「俺が確認したのは、支社の話しが出たばかりの頃だから、状況は違うかも知れないけど」
グビグビ飲む。それを見て、誘われる様に僕も飲んだ。
「、、、もし、支社に移動になったら行くの?」
「まぁ、行く事になるかなぁ?独身だし、まだ若手だからね」
「そっ、、、か」
グラスの表面を撫でながら、淋しいなと思う。
「芳野が移動になる事だってあるんだぞ?」
「、、、う、、、僕、寒い所、苦手なんだよな」
グイッとグラスを空にした
「芳野は辞令が出たらどうする?」
桜井が注いでくれる
「、、、行くしか無いよね?」
「まぁ、よっぽどの理由が無い限り」
「そんな理由、僕には無いよ。嫌だな、、、」
「そんなに寒い所が嫌いなの?」
「寒い所は大嫌い。、、、でも、桜井に会えないのはもっと嫌」
桜井に会えない日々を想像した
「、、、最近毎日一緒だもんな。兄弟みたいな感じ?俺が兄貴で、芳野が弟みたいな」
「僕の方が年上なのに?」
「数ヶ月ね」
じゃあ、桜井は、どうして引っ越すんだろう、、、
「桜井、、、何で引っ越すの?」
「此処の更新がもうすぐでさ」
「何で探してる事、隠すの?」
「あ、いや、、、隠すって言うか」
「隠したよね?昼間もさっきも、、、、、あ、、、そっか」
「ん?」
「元彼、、、」
「元彼?」
「元彼と、、、住む、とか?」
「ソレは無いよ」
そうかな、、、?だって、あんなに僕に相談して、何度も別れたいって言いながら、別れなかったよね、、、。
やっぱり、よりを戻したいんじゃ無いかな、、、。
「芳野、俺、お前に告白したよね?」
「、、、うん」
「甲野とは会わない。連絡が付かない様にしたし、やっと分かったんだ」
「、、、」
「納得してない顔してる、、、」
「だって、それなら何で隠すのさ」
**********
芳野がいじけてる、、、。こんな顔もするんだな、、、。
「あ、、、新しい彼女が出来たとか、、、?」
ははっ、、、。
「何で笑うんだよ、、、」
「いや、可愛いなって思って」
芳野が上目遣いで睨む。
「分かったよ、、、芳野が嫌がると思ったからさ」
と、不動産屋から貰った見取り図を見せる。暫く眺めて
「僕の家の近くに引っ越すの?」
と見つめる。
「だから言い辛かったんだよ」
えー、、、とか、わぁー、、、とか言っている。俺はそれを肴に酒を飲む。
芳野は
「、、、ひ、広い部屋、、、借りたらさ、、、」
「ん?」
「一緒に住めるのにね、、、」
芳野の顔が真っ赤になった。
俺は彼の頭を撫でる。
「一緒に住んだら、友達で居られなくなる」
「、、、桜井は、今も僕の事、、、好き?」
「好き、、、」
「あ、、、のさ、僕も、、、本当は好きなんだ、、、」
「うん」
「でも、、、自信が無い、、、」
「良いよ、、、」
芳野に触れたい、、、。そっと、頬に触れる。
「良いよ、自信が無くても、、、大丈夫」
「付き合ってくれる?」
「うん、やり直したい」
「ごめんね、嘘吐いて。本当はずっと好きだったんだ。、、、でも怖かったから、、、」
「大丈夫、大丈夫」
そう言いながら、彼を抱き締めた。芳野は俺の肩で涙を拭いたみたいだった。
「桜井が遠くに行ちゃうって考えたら、淋しいなって思った、、、。もし、離れ離れになったら嫌だよ、、、」
「そうなったら、三年間待てる?」
「待つよ、、、。待ちたい、、、」
芳野が俺に腕を回し、力を込めた。
「俺も、芳野が移動になったら帰るまで待つよ」
「うん」
**********
結局、支社立ち上げの話も無くなっていた。東北に支社を出すと言う話しが有ったのは本当だったけど、意外と早い時点で消えたらしい。
社内で噂が広がって、色んな人が移動になる事を気にし始めて、正式に発表が有った。
桜井と二人でホッとした。
*****
桜井は僕の最寄駅に引っ越して来た。同居はしていない。でも、ちょっと広い賃貸マンション。
僕達は、毎日桜井の部屋で晩御飯を食べる。平日はコンビニ弁当か、駅前のスーパーでお惣菜。休日は桜井が料理を作る。簡単だけど、美味しいんだ。
金曜日の夜から泊まって、偶に月曜日、一緒に出勤する。
「週末。不動産屋に行くから、今週は家に帰るよ」
桜井の家で晩御飯の片付けをしている時だった。
「マンション更新?」
「うん、2ヶ月後」
「、、、此処に住む?」
「え、でも、、、」
桜井は広い部屋を借りたけど、一緒に住もうとは言わなかった。だから、一人の時間が必要なのかと思っていた。
「最初から一緒に住もうと思ってたんだけど、付き合ってすぐだったから、流石に誘えなかったんだ、、、」
と笑う。
「い、良いの?」
「嫌?」
「嫌じゃ無い!」
思わず、強めに否定して、ちょっと恥ずかしい。
「嬉しいに決まってるよ、、、」
「良かった。断られたら、かなりへこんでた」
桜井の顔を見ると、恥ずかしそうに微笑んでいる。
優しい顔するんだよね、、、大好きだな、、、
「本当に来ても良いの、、、?」
最後の洗い物を水切りカゴに置き、手を洗う。
「良いから誘ってるんだよ?」
手を拭く為に、タオルを取ってくれた。
「有難う、、、」
水切りカゴに色違いのカップが並ぶ。この間、二人で買いに行った。
「嬉しい?」
桜井が後ろからくっついて来て、抱いてくれる。
最近の彼は僕に触れる事が多い。
ちょっと身体を後ろに下げ、寄り掛かる様にすると髪にキスをしてくれた。
「嬉しいよ」
顔を見ながら言うと顔を寄せて来る。僕達はキスまでは出来るけど、なかなか先に進めない。
「良かった、、、」
彼の右手が少し動く。
「ぁ、、、」
と小さく言うと、彼の舌が僕の唇を割る、、、。指がシャツの中に入って来た、、。
僕はどちらに集中したら良いのか分からない。
キスに集中したいのに、彼の指先が、軽く軽く僕を撫でると、意識がそちらに行ってしまう。
彼の左手が僕の首筋に触れる。
ゾクゾクゾクッと何かが這い上がって来た。
シャツの中で、サワサワと動く右手。
彼の手は凄く大きいのに、繊細に動いた。
此処(ここ」で、、、?こんな場所で、、、?
「ベッド、、、行っても良い?」
耳元で囁かれて、腰が砕けそうになる、、、
僕は向きを変えて、顔を隠す様に彼にくっつく
「、、、」
うん、って言いたいのに、言葉が出なくて頷いた。
彼は僕の手を取り、寝室に向かう。
短い廊下を歩くだけなのに、心臓はバクバクした。
僕、、、初めてなんだよな、、、。どうしよう、、、緊張する、、、。
寝室に初めて入った。いつも泊まる時は朝までリビングで飲んで、リビングで寝ていたから。
彼がベッドに腰掛け、僕の手に触れたまま見上げる。
す、座れば良いのかな?
そっと手を離し、ベッドの縁を優しく叩いた。僕はつい
「お邪魔します」
と言って座った。
彼がゆっくり近付いて来る。キスしながら、僕は自然に後ろに倒れて行く。腹筋の力が無い僕は、ベッドに横たわるしか無かった。
彼が上から見下ろす。
は、恥ずかしい、、、。
「ぼ、僕、初めてだから、どうしたら良いか、、、」
ああ、こんな事、言わなくても良いのに、、、
更に顔が赤くなる、、、
「ごめん、、、」
桜井の顔も見れない、、、。
「芳野、、、愛してる、、、。大事にするから」
そう言われただけなのに、僕は涙が溢れそうになる、、、
桜井がキスをしてくれた。
優しい優しいキスだった。
気持ちが穏やかになって、桜井が好きだなって気持ちが溢れて来る。
ゆっくり、ゆっくりキスを味わう。
好きだ、、、好きだよ、、、本当に好きなんだ。
如何やったら、この好きを伝える事が出来るんだろう。
僕は彼を抱き締めた。身体が密着して、彼の体温を感じる。
「僕ね、、、入社した時からずっと桜井が好きだったよ、、、」
彼は少し身体を離し、僕を見た。少し驚いているみたいだった。
「本当だよ」
離れた身体を引き寄せ、もう一度抱き締める。
「ずっと、ずっと好きだった」
彼は嬉しそうに頬擦りし
「ごめん、、、嬉し過ぎて、芳野の事、壊しちゃうかも、、、」
その後のキスは、急に激しくなった。キスをしながら、僕の身体を引き上げベッドに乗せてくれる。
息の出来ないキスなのに、身体に触れる手が優しいから、自然に膝が立つ。身体が変だ、、、。そう思いながらもじもじする。
何処を触られても気持ちが良い、、、。僕も彼に触れたい。両手を伸ばして彼に触れる。
指先や掌に、性感帯があるみたいに感じる。、、、彼と目が合った。僕の手に触れ、掌に口付けをした。
彼を見ているだけで、気持ち良くなって来る。
両手を繋ぎ、僕が彼に触れない様にすると、首筋に唇を這わす。
「あ、、、待って、、、」
一瞬動きが止まり、舌を這わす
「桜井、、、待って、、、僕、、、」
**********
初めて芳野をベッドで抱いた。残念ながら最後までは出来なかった。彼の身体はまだ、俺を受け入れる準備がされていない。
ベッドでウトウトしている彼を残し、俺は立ち上がると風呂場に向かう。湯船に湯を張る。
物件を探している時、大きな湯船が着いている所を選んで正解だった。
寝室に戻り、ベッドに腰掛ける。
抱き潰してしまった、、、。
芳野が入社の頃から俺を好きだったとは知らなかった。
嬉しい、、、。
彼の髪に触れる、、、。少し眉間に皺を寄せ
「ん、、、」
と言う。ゾクゾクした。先刻までの彼を思い出し、俺の身体が熱を帯びる。
何時迄も彼に触れていたい。
似つかわしく無い音楽が、風呂場から鳴った。
「芳野、風呂沸いたから」
そう言うとモゾリと動き
「ん、、、」
と言う。
「ほら」
と声を掛けると半身を起こす。寝惚けてるな、、、。手を繋ぎ、風呂場に連れて行き、湯船に入れる。
「詰めて詰めて」
と彼の後ろに隙間を開けて貰い、俺も入る。
「気持ち良いな」
芳野はよっぽど眠いのだろう、俺に寄り掛かり寝ている。
細い身体だった、、、。
狭い湯船の中で彼に、そっと腕を回す。身体が動く度に湯が波打ち、チャプチャプと音がした。
その音が風呂場の中で反響して、何だか眠たくなる。
「桜井、、、」
「んー、、、?」
「大好き、、、」
「うん、、、俺も、、、」
こんなに幸せな時間が来るなんて、知らなかった、、、
もっと幸せになって下さい。




