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冬がやってきた。
地下ドルにとって試練の冬が。
僕の名前は縞鳥 きらり。十六歳。
祖父が趣味で作った地下アイドル、Honey Meets Girls、略してハニガで嫌々ながら活動しながら学生を謳歌している。
元々アイドルが好きだった祖父には莫大な遺産があった。
ただし、僕がその遺産を引き継ぐためには、ハニガでトップアイドルになり、武道館デビューしなければならないという、なんとも過酷な遺言が残されていたからだ。
少なからず人嫌いで騒ぐことが苦手な僕にとって、その遺言がいかに大変なことか。
そこまでして遺産を手に入れたいのは、死ぬまで自堕落な生活がしたいから。好きな本を読みながら死ぬのが僕の夢なのだ。
だがその前に、一人の人間でもある。
前回の握手会で吐血したハニガのトップアイドルである駿河 まにぃとなるべくしてなったとでも言うか、友達? なつかれただけ?
そんな関係になったわけだがこのまにぃたん。言わずとしれたトップアイドルだけあって、僕以外の人には営業用の顔を崩さないでいる。
それでもってここはまにぃたんの楽屋だ。
楽屋なんて、盗撮、盗聴のるつぼにさせないために、まにぃたんは自前の赤外線探知機を使って常に自分の身を守っている。
「う〜、今日も寒いっ。せめてタイツくらい履きたいよねぇ。それでさぁ。この前倒れた時に助けてくれた救急隊のイケメンなんだけど、あれはダメだった」
なにがどうダメって。
「あたしクラスになると束縛されたくないわけよ。自由人だからさぁ」
そういえば、近所に住む遠縁の親戚である桜花 拓郎の母親も自由人だったな。離婚と同時に行方しれずになっているとか。
その拓郎は、僕の片思いの相手であり、一番のファンでいてくれている。
「それはそうと、きらりんは彼氏とどうなのよ?」
「か、彼氏!?」
「とぼけても無駄だよ。いつもきらりんの列に並ぶ高身長のイケメンって、きらりんの彼氏なんでしょ?」
「違うから」
最初はまにぃたんに敬語で話していたけど、今では普通に話しているから不思議だ。
ちなみに僕はハニガの最下位だ。
こうしてトップアイドルと最下層が並ぶと、余計に情けない気持ちになる。
うん。頑張る。もろもろ無理だけど、頑張るからいいもん。
「でもやっぱり、高身長のイケメンって無敵だよねぇ。握手会だって、毎回律儀にきらりんの列にしか並ばないし。もうこれ、公式カップルでもいいんじゃない?」
そうはいかない。いや、それもいいかもしれないけど。
僕は祖父の遺産を相続するためにトップアイドルにならなくてはならないんだ。そして、武道館に立つ!!
……なんてことは口が裂けても言えない。
うっかり言いそうになるからまにぃたんは怖い。
そう、単に遠縁の親戚だから応援してくれているだけなのだから。
つづく




