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ハニガ内で密かにバッテン印を張られたファンがいる。
名前は知らない。
だがへっぽこなのだ。
おそろしく音痴で、ものすごいタイミングで合いの手を入れてくる。
ファン同士でも仲が悪く、無職な癖になぜか金に糸目をつけない。
そして仮にA氏と呼ぼう。このA氏との握手は苦行なのだ。とにかくもう、汗がぬるぬるしている。気持ち悪い。これが仕事とわかっていても、すごくつらいのだ。
そして尚悪いことに、周りを苛つかせるのがものすごく上手で、今日はまにぃたんを推していても、明日は僕を推すこともあるし、他の子を推すこともする。
さらに、これはあくまで噂なのだが、散々ハニガのみんなをうんざりさせておいて、A氏には本命のアイドルがいるといういわば足を引っ張るような行為であり、気づくと居なくなっているという、とっても困った人なのだ。
ゆえに、トップアイドルのまにぃたんほどになると、この男と握手するのを拒み、血ノリを用意するほどの拒絶反応を示すことがある。
そう、つまり自作自演。
だが、誰も彼女を責められない。
「いいですけど。救急車呼ばれちゃいましたよ?」
「うん、いいよ。ビタミン注射してもらわないと、元気出ないから。それよりぃ〜」
自作自演がバレてもまにぃたんはまにぃたんだ。
「きらりんの太客を紹介してっ」
ひしっと両手を掴まれてあせる。
「え? 嫌ですよ。そんなことしなくても、まにぃたんはトップアイドルじゃないですか」
「でもさぁ、あたしのファンってブサメンしかいないんだぁ。きらりんみたいにピンポイントなイケメン一人に推されてみたいのよね」
そんな贅沢な。
でもそうは言っても、僕でさえ、A氏が握手会で並んでいたら嫌だなと思うし、理由さえあれば逃げ出したくなる。
「わかった。じゃああたしがきらりんを推すよ。それでどう?」
「どうって?」
「二人っきりの時は、普段の男前な話し方でいいよ。ぼくっ子可愛くて大好き!!」
あのぉ。ビタミン注射必要ないんじゃ?
「きらりサンキュウ。救急車来たから。まにぃ、救急車に乗せるからな」
「はぁ〜い。ばっははぁ〜い」
男性スタッフは至って真剣なのに、駿河 まにぃの言動はそんなものだった。
今回の吐血事件はこうして幕を下ろしたのだった。
FILEワン・FIN




