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「キャー!!」
事件は、握手会のさなかに起こった。
ハニガ不動のトップアイドルである駿河 まにぃのドリンクに、なにかが混入していたらしく、あわただしく握手をしていた彼女が突然、口から少量の血を吐いて倒れたのだった。
あたしはいつもの癖で、拓郎と現場に視線をめぐらした。
彼女が血を吐いたということは、その飲み物の中に、なにかが混入されたということ。
でも誰が?
そしていつ?
トップアイドルである彼女のドリンクに、なにかを仕込む隙なんて、どこにもなかったのに。
「はい、さがってください、さがってぇ〜!!!」
現場は騒然となった。
「どう思う? きらり」
拓郎はすっとあとしに身を寄せて囁いた。
「うん。これはきっと」
すべての答えを出す前に、男性スタッフから僕を呼ぶ声が聞こえた。
「じゃ、また後で」
「うん。待ってる」
「きらり、まにぃに付いててもらっていい? もう握手終わったろう?」
「はい。すぐ行きます」
そう言うと僕は、担架で退場する駿河 まにぃの後へとつづく。
化粧越しの彼女の顔色は青白い。
「まにぃたん、大丈夫?」
僕は彼女に話しかけて、一瞬だけど手に触れた。
冷たい。
さっきまでいろんな人と握手していたのに、とても冷たかった。
「早く、こっちに」
「え〜、お客様の中に、お医者様や医療関係者はいらっしゃいませんでしょうかぁ〜!?」
男性スタッフに担架で担がれたまま、駿河 まにぃは楽屋に入った。
地下ドルとはいえ、トップアイドルである駿河 まにぃは一人部屋で、少し狭いけれど彼女が横たえるのには充分だった。
「どうする、まにぃ。警察呼ぶ?」
男性スタッフに話しかけられて、駿河 まにぃは嫌々と首を左右に振る。
「じゃあ、救急車?」
「……うん」
「わかった。救急車呼ぶよ〜。後のことはきらりに頼むからな」
「はいっ!!」
僕はまにぃのために、清潔なタオルを一枚拝借した。
「ねぇ、きらり」
「はいっ。なんでしょうか? まにぃたん」
地下ドルとはいえ、上下関係は厳しいのだ。
さっさとタオルを濡らして、彼女の顔や衣装についた血を拭おうとするが、なかなか取れない。
「まにぃたん……?」
「きらり〜ん。またあいつが来たのよぉ〜!! へっぽこ無職男!!」
はぁ?
これは、彼女にやられたような気がする。
つづく




