1ー5
「いや、東京出ていっしょに暮らさない?」
……?
それは、どういう意味?
「いや、婚約者がさあ、小動物が好きだって言うから」
「僕は小動物じゃないっ!!」
拓郎の頭をがつんと殴りたかったけれど、それもできず、腹にパンチをきましたけれど、少しも痛そうじゃなかった。
からかわれた。
また、からかわれた。
なんでこうなる?
僕は拓郎と推理が好きなだけなのに。
でももし。
もしも、拓郎が婚約者ではなく、僕を選んでくれるなら。
僕はいつだってアイドルを辞める覚悟はある。
祖父の遺産は惜しいけど、それでも拓郎のことが好きだから。
なんだか本末転倒だし、なにひとつ成し得ない気もしてきたな。
そこで、家の前に着いた。
「じゃ、俺はここで」
「うん。ありがとう、送ってくれて」
「どうした? きらり。いきなりデレるなんて」
「べつにっ。そんなんじゃないよ」
「じゃあなに?」
素直な気持ち、なんてさすがに言えない。
「……っ。またねっ」
今回も負けたような気持ちになって、ざかざかと家の門を開け行く。
「またな、きらり」
ああ、だるいな。
アイドルなんて、本当に辞めてしまいたい。
☆ ☆ ☆
「それじゃあ、ハニガるんのみんなぁ〜、さよおならぁ〜!!」
ハニガのトップアイドル、駿河 まにぃは、ハニガのファンの愛称でもあるハニガるんへひらひらと手を振った。
きらきらと輝く笑顔には、汗一つかいていない。
「え〜、ここより先は握手会となります。握手券をお買い求めいただいた皆様は、順番にお並びください。くりかえします……」
男性スタッフの声がひび割れた状態で会場内に響く。
ここは、祖父が存命の時に作り上げたビルの一つだ。
そんなことは他の子に話してない。言ったらコネだなんだと、むた面倒くさいことになる。
あいにく、祖父とは名字が違っているからいいものの、そんな話が少しでも出ようものなら、最下位の地位が埋没してしまいかねない。
あらためて、厄介な仕事だなと思う。
「来たよ、きらり」
拓郎が僕の列の一番に並んでくれた。
後は箱推しのハニガるんだから、べつにかまわないんだけど。
「まにぃちゃん、可愛いっ!!」
「まにぃちゃん、今日もぶっちぎりで可愛いよっ!!」
「まにぃちゃん、最高!!」
さすがはトップアイドル。ファンの熱い思いをクールにやり過ごしている。
「あ! きらりちゃん推しのお兄さん!! 次こそはまにぃの魅力に気づかせちゃうからねっ!!」
駿河 まにぃは、よせばいいのに拓郎へとサービスをしてしまう。
こんなのって、嫉妬するしかないじゃないか。
つづく




