6ー3
僕は拓郎のプロポーズを断った。
「僕はアメリカに留学する。それで、大学を卒業したら、拓郎にもう一度プロポーズさせてみせる」
「……いいよ。それで。きらりはそれでいいの?」
「それがいい」
「アイドルは? 本当に辞めるの?」
「もう辞めてきたから」
アメリカでアイドル活動なんて、あまり現実的じゃない。
結局僕には、アイドルのプロとしての根性が足りなかったんだ。
じゃあ、今は? と聞かれると、拓郎に好きだと言われたことがじわじわと心にせまってくる。
「拓郎は、僕のどこが好き?」
「僕っ子なところとうかつなところ。狭すぎる視野の推理をするところと、こんなに可愛いのに可愛い服を着たがらないところと、俺のことが好きなのにプロポーズを断ったところと、それでも尚、俺にプロポーズをさせるところ」
それは、よろこんでいいのだろうか?
「きらりは? 俺のどこが好き?」
「推理を僕任せにするところと、意地悪なところ、それとお菓子をたくさんくれるところ。嫌いなところは――」
「待って。それは言わないでくれ」
「残念。たくさんあったのにな」
俺、と拓郎が立ち上がった。
「もっとたくさん好きなところ言わせられるように頑張る。イギリス紳士の修行もしてくる」
「じゃあ僕は、陽気なアメリカ人を研究してくる」
「言っておくけど、推理小説はイギリスの方が上手だからな」
「それでいいよ」
拓郎に導かれて、手を握る。そうして、額と額をくっつけた。
顔が熱い。
「浮気したらゆるさないからな」
「お互い様だよ、拓郎」
「俺は浮気なんてしない。幸子とのことだって、きらりに嫉妬してもらうために了承したくらいなんだからな」
「その割に婚約者、婚約者と連呼していたじゃないか」
「嫉妬してくれてたのなら大正解。だけど、その都度傷つけていたと思うとごめん」
鼻と鼻がすりあう。恥ずかしくて目を開けていられない。
涙が出てきた。
「泣くなよ」
「うるさい。泣かせるからだよ」
「うん。ごめん」
そうして、唇と唇が重ね合わさった。
人間の体温は、あっという間に遠ざかる。
「きらり、泣かせてごめんな。でもそれでも俺は、きみのことが好きなんだぜ?」
「うれしい。僕は――」
「まだ言わなくていいよ」
「髪、切ってよかった」
「うん、似合ってる」
お互いの体温が、すうっと離れた。
僕はもう、無理をするのを辞めにした。
つづく




