6ー2
家に帰り着くと、お手伝いの霧島さんに迎えられる。
玄関には、見慣れた革靴があった。
拓郎のものだ。
「お嬢様、拓郎様がお待ちですよ。ささ、お急ぎ願います」
「急ぐって、どうして?」
それに、拓郎には会いたくない。どうして家に来たの?
「拓郎様はイギリス留学が決まりましたの。ですから、荷物をまとめなければなりませんのに、わざわざお嬢様と挨拶がしたいからとおっしゃって、来てくれたのですよ」
「イギリス留学? 聞いてない。在学中に婚約する話はどうなったの?」
「それはご自分でお確かめください。わたくしめはこれで奥のまにひきこもっておりますので、どうぞごゆるりと。ご用の際はベルを鳴らしてください」
それだけ言うと、霧島さんはすごすごとひきこもってしまった。
仕方なく、大広間へ向かうと、手持ち無沙汰に座っていた拓郎が立ち上がった。
「きらり。今日は残念だったね」
「どういうこと? もう会うつもりもなかったのに」
「わかってる。ごめんよ」
とにかく座ってくれないか、と言われて、仕方なく手近な椅子に腰を下ろす。
拓郎もそれにならった。
「きらりの情報は、結構前からハニガるんには流れていたんだ。ただ、今回はタイミング悪くバニラんの卒業と重なってしまった。彼女の卒業理由がはっきりしなかったもので、もやもやしていたファンからの八つ当たりだったんだ」
だから、相手は誰でもよかったんだと重なる。
相手が誰でもいいだなんて。あんな風に傷つけられて、あんまりだ。
拓郎じゃなく、僕……、いや、わたしが海外留学したいくらいだよ。
「それにるり姫のファンがやきもきしていてさ。きみ最近、まにぃたんと仲良しだったろう? そういうのの嫉妬みたいなのも重なったんだよ。だから、後ろの方で観ていた。きらりにこれ以上嫌われたくなかったから。でも、結果としては嫌われてしまったんだよね」
どうして、という声が喉でかすれて、出てこない。
「留学ってどういうこと? それに、もう会いたくないって行ったはずだよ?」
「幸子とはあの後話した」
「話したって、なにを?」
嫌だ。僕のせいでおかしな話になって欲しくない。
「婚約解消しないかって」
がつんと、言葉が胸を叩いた。
「泣かれたけど、幸子の気持ちはわかっていたけど、俺はどうしてもきらりのことが好きだからって言ったら、あきらめてくれたよ」
「そんなの、たのんでないよっ」
「いっしょにイギリス行かないか? きらりこのままこの家に居ても、るり姫のファンに妬まれてるし」
それは、怖い。ものすごく怖い。
だけど、負けたくない。
「俺は、きらりが好きだよ。そりゃ最初はさ、きみがもらう遺産目当てだったりしたけど、それも込みできらりを手に入れられたら、なんて考えたこともあった。つい最近までね。だから、きらりが突然髪を切ったことでそういうのが全部吹き飛んだ。おれと結婚してくれ、きらり」
こういう場に自分がいることが不思議でたまらない。
「嫌、だ」
出てきた言葉はとてもシンプルで。言葉なんかより涙の方が正直だった。
つづく




