6ー1
ステージの脇を通り、楽屋に入ると、地下アイドルであるハニガのメンバーは、被害者のような顔をしてわたしを睨んだ。
みんな、今日のことをすごく怒っているのがわかる。
「もう終わったことは気にしない。そうだよね、みんな」
るり姫の毒舌に、ほかのメンバーはこくこくとうなずく。
裏方では毒舌なるり姫も、ハニガるんのみんなは知っていて、それがまた彼女のギャップ萌えを生んでいた。
わたしはできるだけ素早く衣装を脱ぐと、私服に着替えた。
「あ〜あ。今日は誰かさんの太客も居なかったし、なんだか損をした気分。でも、あたしたちには明日があるもんねーだっ」
まだ皮肉を言い足りないのか、るり姫にあっかんべーをしれてしまった。
仕方ない。
「ところで誰かさんって、オーナーのおかげでハニガに居られたんだね。知らなかったな」
ステージでは舌足らずな話し方をするるり姫だが、楽屋では饒舌で早口だった。
もしかしたら、と思う。
拓郎が仕込んだ客だったのではないだろうか?
そうでなければつじつまがあわない。
ついに嫌われたんだな、と腹をくくる。
これで拓郎と永遠に会えなくなっても仕方ない。
だけど、こんな仕込みをして欲しかったわけじゃない。
欲を言えば、拓郎にも最後のステージぐらいはたのしく居て欲しかった。
でも、もう終わった。
スタッフのカズヒトさんに衣装とクリーニング代を渡すと、小さく会釈して楽屋から廊下に出た。
「なんか、はかられたみたいだったね。もしかして彼女、相当なビッチだったりして」
アハハハと笑う声を、ドアで消した。
まにぃたんは、専用の楽屋から出る気配はなかった。
わたしがみんなを不愉快にさせたから。
だから、わたしがハニガを辞めてもきっと痛くもかゆくもないだろう。
外へと通じるドアを前にして、スマホを確認すると、拓郎からメールが届いていた。
[今日のステージ、後ろから観ていたよ。よくがんばったね]
ただそれだけの言葉なのに、わたしにはもったいなくて涙があふれそうになった。
でも、泣かない。だってそこに拓郎が居てくれたのだから。
それだけで充分だった。
家に帰る前に、ハニガるんの誰かに襲われるといけないからという理由で、スタッフがタクシーを呼んでくれていた。
せめて最後だけは笑っていたかったんだけどな、と思いながら、タクシーの後部座席に乗り込んだ。
「お願いします」
自宅へと帰る道すがら、こらえていた涙が席を切ってあふれ出た。
なさけない。
ただそれだけだった。
つづく




