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好きな人のドアの前でドアベルを押す。
ただそれだけのことなのに、顔が熱くなる。
「いらっしゃい、きらり」
「お邪魔します」
玄関先で靴を脱ぐと、すぐに紅茶とケーキが用意された。
「わぁ……」
僕の大好きなフルーツケーキだ!!
しばらくの間、ケーキと紅茶に思考をまかせて、ひたすら集中する。
紅茶のお代わりをする頃には、拓郎がプリントされた紙を僕に渡す。
「今度の事件はこれ。オレンジ革命」
うん? オレンジと革命って、どんな繋がりなんだろう?
僕はしばらく紙を睨みながら、紅茶を飲む。
推理には糖分が必須、っていうことで、拓郎はいつもあまいケーキを用意してくれているのだ。
ちなみに、毎回出される推理は拓郎が部長の『推理クラブ』を通じて、文芸部員が書いたものに決着をもたらすというもの。
だから、現実の事件じゃないんだ。
「オレンジ革命。まさか、それだけで文章を作れってこと? まさかの僕に丸投げ?」
文芸部員なのに、タイトルだけなんて、ちょっとぬるくないか?
僕はただ、推理するのが好きなだけなのに。
「今回は、そんな感じ。悪い。いつも書いてくれてる部員が風邪引いたとかで、熱で頭が回らないんだってさ。これだけで推理できる?」
きらり、頭いいもんな、なんて褒められると調子に乗りたくなってしまう。
そうでもないんだけどね。
「じゃあ、そうだな」
言いかけた頭に、拓郎の大きな手のひらが僕をなでる。
「なに?」
「いや。僕っ子ってかわいいなと思って」
「今言わなくてもいいんじゃない?」
「今じゃないと。ハニガでトップになったら、こんなことできなくなるし」
「そ、そんなの。いつになるやらわからない。それに、本当にトップになんかかれるわけないし」
「なら、遺産はあきらめるの? トップになって、武道館でライブするんだろう?」
そう、だけど。
手。離してくれないから。
恥ずかしくて頬が熱くなる。
ハニガに入ってから伸ばし始めた髪が、今では胸に届くほど伸びたのに。
まだトップになっていないからって、婚約者がいるのにこんなことしちゃいけない。
「離して。せっかくオレンジ革命の話を捏造しようとしてるんだから」
「ははっ。まぁいいか」
最後に両手でわしゃわしゃとなでられて、まるで犬が猫にでもなったような気持ちになったのは、ここだけの話にしておこうと思う。
つづく




