2ー6
目的の回でエレベーターを降りると、りさっちの部屋の前で立ち止まった。
一見すると平和そうだが、中でなにかが起きているかもしれない。
覚悟を決めて、インターフォンを押した。
『誰っ?』
りさっちの声だ。なんだかとても取り乱している。
背後では犬の声が聞こえた。
「あたしよ、まにぃ。開けてくれる?」
短く返答があり、ドアが開いた。目の前のりさっちは、かわいそうなほどやつれて、涙で顔がぐちゃぐちゃだった。
部屋に上がる前から、軽く息を吐く。すでに衣類が散乱していた。
「助けに来てくれたの?」
「……うん」
なんだかとてもくだらない結末を想像して、返事をした。
「あのねっ。一人で解決できると思ってたの。でも無理っ」
「落ち着いて、りさっち。なにがあったの?」
まにぃたんは、りさっちの肩をやさしく抱きしめた。
こういう時のまにぃたんはとても頼りになる。さすがはトップアイドルだ。
「あのね、あんずがゴキブリを食べちゃったのっ」
「……はぁ?」
やっぱりか。そっちか。
「殺虫剤は?」
「そんなの、持ってないけど。どうしよう。獣医に連れて行かなくちゃいけないのかな? それとも、吐かせる方法があるのかな?」
「本当に食べたの?」
まにぃたんに確認されて、りさっちは、少しだけ、と答える。指先で示した先には、全人類共通の敵であるゴキブリが、むざんにもバラバラな状態になり、散乱している。
食べたというより、やっつけてくれたのではなかろうか?
「あのね、りさっち。あたしたちすんごい心配したの。今日のステージ休むほどの事件に巻き込まれてるんじゃないかと思って、すっごくね。……はぁ、もう帰ろっかぁ、きらりん」
「待って、帰らないで。ゴキブリの死体をなんとかしてっ」
それを片付けられないということは、一人暮らしをつづけられない、ということになるのではなかろうか。この先もおなじことがきっとたくさんあるだろう。
なにしろあいつは、どんなに清潔にしていても、どこからかわいて出るタイプの害虫だ。
犬を飼っていて殺虫剤が使えないのであれば、別の方法で仕留めるしかないのだ。
まにぃたんは、黙々とゴキブリの残骸を片付けると、あんずちゃんの口の中を覗いて大丈夫みたいだよ、と言った。
「りさっちさぁ。迷惑かけてくれたおわびとして、このマンションをあたしたちの秘密基地として使わせてくれないかしら?」
「嫌よぉ」
どの口が言うか。まったくあきれ返って声も出ないとはこのことだった。
つづく




