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クリスマスイブの十八時五十分、時計が丘駅中央改札前。繁華街が目の前のここは、待ち合わせらしき人々でごちゃごちゃ状態であった。俺は改札から出てくる人から良く見えるように、例の今年のクリスマスカードの表を改札方向に向けて、胸の前に右手で持っていた。それと同時に周囲にも目を配った。祖父母より少し若い世代の女性が立っていないか。しかしこの日のこの時間、改札周辺は若者が多かった。俺から見ておばあさんと呼んでしまいそうな世代の人は見当たらない。考えてみれば、夜の繁華街をうろつく高齢者など元からそう多くはないだろう。ならばこの人ごみの中でも探しやすいかもしれない。
しかし。小久保美津代は毎年、この華やかなイルミネーションが目の前にある駅前で一人佇んでいたのだろうか。クリスマスイブなんて恋人や友人や家族とわいわい過ごす楽しい日なのに、待ち合わせ相手と出会えて笑顔をかわす人々を見ながら、来るかどうかもわからない男性を寒さに耐えて待ち続けていたのだろうか。もしそうなら待、そんなイブが何十年も続いているなら、あまりにも悲しすぎる。気の毒過ぎる。
十八時五十五分。約束の時間まであと五分だ。改札前の人々も、繁華街の方へ去る人、新たに改札から出てくる人と、順々に入れ替わっていく。俺は改札周辺の人々を、何も見逃さないよう、慎重に観察し続けた。そしてふと、五メートルほど離れた場所に立っている、一人の女性の手元が目に留まった。その女性は俺と同じように、胸元に紙のような物を持った手を当てていた。俺の目はその紙に釘づけになった。その紙に描かれている絵と俺の胸元のカードに描かれている絵。その二つの絵は全く同じ。そう、その女性も俺も同じカードを持っているのだ。俺の視線は彼女の胸元から顔へと移る。俺の視線と彼女の視線がかち合った。彼女も俺の手元に気づいたのかもしれない。口を少し開けているが言葉を発することなく、印象的なかわいらしい大きな目を、さらに大きく見開いていた。
俺は一歩一歩彼女へ向かって行く。彼女は逃げるでもなく歩み寄るでもなく、寒そうに身を縮めその場に立ち尽くしていた。俺と彼女の距離が一メートルになった時、俺は歩みを止め、腕を伸ばし、クリスマスカードの表紙を彼女へ突き出した。
「あ、あの、これ」
しかしなんと話しかけようか困ってしまった俺が、自分で思っているよりも小さな声でとりあえず声をかけると、彼女の視線はゆっくりと下がり、俺のクリスマスカードを見た。そして次は自分の手にしていたカードを顔の近くへ持ってきて表紙を見る。それから再び俺のカードを見て、そして彼女の視線は俺の顔に戻ってきた。
「あなたは蓮田信二じゃないわね。一体誰?」
彼女は俺にそう尋ねた。
「君も小久保美津江じゃない。それと君は関口フラワーの店員さんだよね」
彼女は頷いた。そう、俺の目の前にいる彼女は、俺の花束を作ってくれた忘れもしない、あのかわいい店員さんだ。花屋ではポニーテールだった髪を解き、まっすぐな黒髪を肩から胸へ垂らしていた。
「私を知っているの?」
「この間、関口フラワーで花束を作ってもらったんだ。花のことよく知らなくて、お祖母ちゃんにって言って、君に作ってもらった……」
ちょっと首をかしげて視線を外したがすぐに彼女は思い出したらしく、「ああ」と言って俺に視線を戻した。
「俺は山上勇樹って言います。山上家の息子です」
『山上様方』と宛名にしているのだから、彼女も俺が住所の住人か関係者だとわかるだろう。
「私は関口博美。関口フラワーの娘です」
ただの店員ではなく、関口フラワーの娘だった。
「ここは寒いから、どこか室内で話さないか?」
彼女は無言で頷いた。俺たちは駅前のコーヒーショップに入った。
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