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「曾お祖母さんは庭を大事にしていた。曾お祖父さんの仏壇に供える花を調達したいと言って」


 俺は今の家で生まれ育った。それ以前に建てられていた家の外観は、写真ですら見たことがない。俺が知っているのは今現在の姿だけ。あのコンクリートとインターロッキングで作り上げられた、車を停めるためだけの、緑とは無縁の、おしゃれだが無機質な空間だ。でも何十年も前のあの空間には、木や花を愛でる、四季を感じられる庭があったのだ。

 両親からはそんな話を聞かされたことはない。あの二人は以前の姿など気にも留めていない様子だった。そしてそれはあの家でただ生活しているだけの俺も同じだ。


「それでね、曾お祖母さんは考えた。庭師を下宿人にして、家賃を安くする代わりに、庭木の手入れをしてもらおうと。でも条件に合ったいい人がなかなか見つからなくて、それで探して探してやっと見つけたのが、庭師の若者、蓮田信二君だった」


 蓮田信二が何者なのか、やっとその正体がわかった。


「俺は一人になった曾お祖母さんが心配で、よく様子を見に行っていた。それで休日によく庭木の剪定をしている彼を見かけたな。世間話もした。家賃の安くなった分は、田舎の両親に送るんだとか言ってたよ。俺は立派な心掛けだと感心していたんだ」


「そのうち蓮田信二にはかわいい恋人ができた。それが小久保美津代(こくぼみつよ)さん」


 祖父は顔を俺に向けた。ずっと俺を見ていた祖母が、なん度も頷いた。


「確かにそうだったわ。勇ちゃんから美津代さんの名前を聞くまで、私はすっかり忘れていたわ。言われてみれば蓮田君には恋人がいたわね。そう、美津代さん」

「俺も今、勇ちゃんから話を聞いて、記憶の底から引っ張り出したって感じだ。なんたって、十年二十年前なんてもんじゃない、昭和終わりごろの話じゃないか?」

「そういえば、美津代さんって花屋の店員さんじゃなかった?」

「そうだったか?」

「そうよ、私そう聞いたわ。それで曾お祖母さんが、お似合いだって言って。あの庭で、蓮田君が切った枝を片付けてくれていたわよね。気立てのいいお嬢さんで、曾お祖母さんも気に入ってて」


 話がどんどん出てくる。


「それで、二人はどうなったんだ?」


 俺がそう尋ねると途端に二人は押し黙り、困ったように顔を見合わせた。そして二人同時に眉を顰めてみせて複雑な表情。そして数秒見合わせた後、二人はアイコンタクトで何かを納得したのか俺の方へ顔を戻す。


「曾お祖母さんが下宿をやめる少し前かな、蓮田君は田舎へ戻ると言って出て行った。お父さんが急病だったか、バタバタいなくなったから、美津代さんのことは聞けなかったな。それに蓮田君がいなくなれば美津代さんも下宿に来なくなったし、二人のその後はもうわからないな」

「でもこの話の様子だと、まさか、美津代さんには何も言わずにいなくなったのかしら。その後も彼女に連絡せず?」


 祖父母は再び顔を見合わせる。

 二人からこれ以上の情報は得られなかった。俺はたっぷり小遣いをもらい(花束代をはるかに超える額だ、ワハハ)、その日は家に戻った。





 そもそも、お袋が祖母と仲が悪くなければ、もっと早くに相談して、この話が聞けていたのではないのか。そうしたら、こんな何十年もカードを受け取り続けることもなく、もっと早くに解決できていたのではないのか。

 とりあえず、お袋には祖父母に会っていた話はしない。祖母という単語を聞いただけでお袋は超絶不機嫌になるから。でも親父には話をしなければならない。あのクリスマスカードを借りなければならないから。

 俺は二十四日の夜七時に、時計が丘の改札前に行こうと思う。あのカードを持って立っていれば、差出人の小久保美津代に会える気がするのだ。年齢的に俺の祖父母とほぼ同年代の女性だろう。

 思うにあのクリスマスカードの内容から、彼女は蓮田とクリスマスイブに時計が丘で会うはずだったのではないか。しかしクリスマスイブに時計が丘で会えなかった。そして田舎へ戻った蓮田と連絡が取れなくなってしまった。俺は彼女が、突然蓮田がいなくなった理由を知りたがっていると思った。だから毎年会いたがっているのではと。





 俺は二十四日の朝、祖母から電話をもらった。そしてあれから祖父母はお互いに記憶を確認し合いわかったことがあった。二人ともあまりに昔の話で、追加情報をすっかり忘れていたのだ。祖母は当時のことで思い出したことを話してくれた。


読んでくださってありがとうございましたm(__)m

続きはまた明日。

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