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「でも大丈夫だったんだ。ある年俺の、手紙をゴミ箱へポイ行動を、お母さんに見つけられてしまった。お母さんは人様の手紙になんてことをと俺に大怒りだ。俺は差出人の気持ちも受取人の気持ちも気にしないがお母さんは違う。気にし出したら諦めきれず、相手のために何かしてあげようと考える。で、お前が言ったそれだ、差出人に送り返すってやつ。勝手にやってみてくれた」


 細かいお袋はその封筒を一回り大きい封筒に入れ、さらに『もうこの人はここに下宿していないし、彼の行方を知っていそうな人(曾祖母)は亡くなっていて小久保さんの力にはなれそうもない』、という内容の丁寧な手紙をつけて送り返した。しかししばらく経ってその手紙は、宛先人不明として家に戻ってきてしまった。俺はそういう話を親父から、とつとつと聞かされた。


二又台(ふたまただい)ってここから電車で二十分くらいだよな。行ってみた? そこへ」


 俺がそう言うと、親父はニヤリと笑った。いやな笑いだ。何かあるぞ。でも行ったのか行っていないのかわからないし、いい加減な親父の行動なんて想像もつかない。


「行ってみてくれたさ、手紙が戻ってきて落ち着かないお母さんが」


 やっぱそっちかいー! と叫びそうになったのを堪えた。ここでそこまでの行動に移す根性があるのは、やはりお袋だったか!

 当たり前と言えば当たり前なのだが、少しだけ親父の行動に期待してしまっていた自分が情けなかった。


「そこには花屋があったそうだ。でも花屋の名前は小久保ではなく関口フラワー。丁度レジにいた店員さんに事情を話して、小久保って人を知らないかと聞いたらしいんだが、もうここは二十年以上関口さんの花屋だと言われて、小久保の手掛かりは全くなかった」


 こうして両親は差出人に対して詰んだ状態になった。毎年十二月に一体なんのつもりの手紙なのか、悪いと思ったが何か手掛かりになることが書かれてないか(後々何かわかったら差出人と受取人に開封を謝罪しようと。さらにお袋からは犯罪だと喚かれたのだがそれを無視して)、一度中をたしかめさせてもらった。すると出てきたのは何の変哲もない、クリスマスリースが表紙に描かれているクリスマスカード。そしてそれからもクリスマスカードは一年も欠かすことなく届き、年明けに届いた年賀状と一緒に束ねて数年保管するようになったというわけだ。


「何が書いてあったんだ?」

「う~ん、書いてあることか……そうだな、ちょっと切ないというか」

「切ない?」

「会えるのを待っています的な。その後も四、五年おきに封筒を開けて中を見てるんだが、内容は毎回全く同じで」


 昨年親父は開けて見たらしく、封筒は封が開いていた。俺は封筒からカードを引き抜いた。カードの表紙はクリスマスリース。実は開封したカード全て、表紙のデザインはクリスマスリースそのものか、クリスマスツリーなどがメインのデザインであっても、どこかにクリスマスリースが描かれているものだった。


『お元気ですか? 会いたいです。今年のイブも約束通り、時計が丘の正面改札で午後七時に待っています』


 今年のイブということは、昨年のイブということだ。


「毎年毎年その人は、時計が丘の改札で待っていると、クリスマスカードで伝えてきてるんだと思うんだ。カードが届くのは毎年十二月十日から二十日ごろだから、その年のイブの晩にそこへ行ってみれば会えるのかもしれないけど……」


 しかし実際会うとなると。イブの約束なんて重い言葉を書いているこの人に、イブ当日に関わりたくはない。それに行ったとしても時計が丘改札前のあの雑踏で、顔も知らないこの人を、目印なしで見つけられる自信はない。それに運よくわかったとして彼は来ませんと伝えて帰るのか。毎年連絡するのに蓮田の行方はわからないでは、これだけ会いたがっているこの人泣くのではないか。慰める? 無視してさっさと帰る? どうなるかが脳内をグルグル回り、こんな面倒でイブを台無しにしたくないと、さすがのお袋も改札前に行くのは避けたのだった。


「そして今も今後もこうして切ないカードは届き続ける」

「じゃあ、今年も多分届くんだな」

「ああ、きっと」


 俺はカードを封筒に戻すと、その封筒を親父の手元に置いた。親父はそれを今年の年賀状と一緒に束ねる。十二月二十日まであと一か月ある。俺はそのころまた親父に届いているか聞いてみようとだけ思って、年賀状分類の作業に戻った。





 十二月十八日、そのカードがポストの中に入っていた。封を開けてみると今年は、クリスマスリースの飾られた洋館に雪が降り積もっている西洋の田舎らしき風景の、表紙のカード。そしてカードには予想通りあの内容が書かれていた。

 このイブの午後七時に、俺は時計が丘の改札に行ってみようと思った。この小久保美津代、長年送り続けていることから考えると多分高齢だろう。このカードも近い将来届かなくなるかもしれない。親父たちもそれを狙っているのかもしれない。でも一度きちんと話をすれば、毎年末我が家を悩ますこのカード問題を、すっきり解決することができるかもしれないし、相手も現状をわかってくれるのではと思ったのだった。



読んでくださってありがとうございましたm(__)m

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