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今年のクリスマスリースシリーズです。イブになってしまいましたが順次投稿します。

 それは、十一月中旬の休日のとある朝のこと。


「う~ん」


 右手の親指と人差し指で一枚の封筒を摘まんだ親父が、顔を顰めてそれの住所側をじっと見ながら唸った。


 親父の世代はまだ年賀状文化が色濃く残っている。年賀状のやり取りを当たり前と思っている高齢者も沢山いる。親戚仕事友人合わせて総勢百枚近い年賀状を、親父は毎年『めんどくせ~』と言いつつも用意していた。この十一月も同様、今年の正月にもらった年賀状のチェックを始めたのだが。でもつまんでいるあれは年賀状ではなく、封筒?


「今年もくるかなぁ、この人」


 毎年恒例、親父のその作業を手伝う俺は、あいている方の腕で片肘ついて顎を寄りかからせ、封筒を持った手をゆらゆらと揺らし始めた親父の、かったるそうな独り言が気になった。


「毎年きているならくるんじゃない? 年始の挨拶を封書で送ってくる人なのか?」


 気になったので尋ねてみたが。


「いや、これは年賀状じゃなくて、クリスマスカード。しかも知らない人からなんだよ」

「は?」


 親父からの返事があまりにも常識外だったので、俺は思わずそんな声を発してしまった。そういえば今年って言ってた。


「しかもこちらからは一度も返信してないんだ」

「はあ?」


 更なる情報に更に間抜けな声が出た。


「でも毎年クリスマスカードがくると?」

「うん。でも宛名が俺じゃなくてなぁ」

「宛名が親父じゃない? じゃあ誰の名前できてるんだよ」

「全く知らない人」

「はああ?」


 呆れて先程よりも大声の反応が出てしまった。


「昔ここに住んでいた人だと思うんだが。なんせ、曽祖母ちゃんが死じゃってるから情報が得られなくてな。俺たちが住んでいるこの土地については、お前も由来は聞いているだろう?」

「ああ、大体は」


 俺たち家族が暮らしているこの土地は昔、曽祖母が一人で暮らしていた土地だった。なぜ曽祖母はここで、一人で暮らしていたのか、どうして俺ら家族がここに住むことになったのか。俺たち家族のもっと上の世代の人々たちの複雑な関係を、俺は一つ一つ思い浮かべた。





 『曽祖母ちゃん』と呼んではいるが、この女性と俺たちとの間には血縁関係はない。この女性は俺の曽祖父の後妻さんであった。俺が生まれた時にはどちらも他界していたから、俺はどちらにも会ったことはないし、単に写真で顔を見たことがあるというだけの人たちだ。

 戦後間もないころ曽祖父は病気で奥さんを亡くし、曽祖父は一人で、高齢の両親と三人の子どもたちを抱える身になってしまった。そこで当時よくあったことらしいが、後妻になってくれる女性を探していると周囲にお願いして回った。結果知り合いから女性を紹介してもらえることになった。後妻さんは一度結婚していたが夫との間に子どもはなく、その夫を病気で亡くして義理家族から実家に戻され、実家で再婚相手を探していた。そして話がまとまりこの二人は夫婦となった。


 やがて月日は流れ。高齢の両親は病死、二人の間に子どもはできず、先妻の三人の子どもたちは大人になり家を出た。そして曽祖父の方が先に亡くなり、曽祖母は一人暮らしとなった。

 今まで七人で暮らしてきた家に一人暮らし。元から性格が世話焼きの人だったらしく、広い家に一人は寂しかったらしい。そこで、空いている部屋を改装して下宿屋にした。学生や社会人、様々な人たちに部屋を貸した。若い下宿人の世話を焼けるし家賃収入も入る。一石二鳥の生活。しかし、何年か経つと曽祖母も年を取り、病気で体の自由が利かなくなり、下宿屋を続けられなくなった。そしてしばらくして亡くなった。


 曽祖母の死後、残った土地と家をどうすべきかとなった。元は曽祖父の持ち物で、長男が相続し曽祖母には貸している、という形に表向きはなっていた。だが長男と曽祖母の関係は良好だったので、実際はそんな形式ばった契約があるような貸し借りではなかったらしい。

 さてそこは家族の思い出の詰まった家と土地。売るか、誰か住むか、どうするのが一番いいか。そんな時、長男の長男である、若かりしころの俺の親父が『住む』と手を挙げた。

 そして古い家を解体し、親父はそこに家を建てた。それが、俺たちが今住んでいるこの土地の歴史だった。





「で、多分。下宿人の誰かだと思うんだよ。この蓮沼信二って」


 俺は親父から年賀状を受け取って住所と宛名をじっと見る。


『時計が丘〇-△ 山上様方 蓮田信二様』


 そして今度は差出人を。


『二又台(ふたまただい)□-× 小久保美津子』


「で、これっていつから届いてるんだ?」

「この家が建った時からずっと、毎年欠かさず」

「それで、今までの手紙はどうしたんだ?」

「う~ん」


 親父は眉根を寄せて困ったように笑う。


「まぁ、その辺は令和とは違うからさ、緩いっていうかぁ」


 間延びした小声で言うが、何が言いたいんだ?


「最初の十五年くらいは、封筒の中身も見ず、ゴミ箱へポイッと」

「捨ててたのか?」

「だってその蓮田って、知り合いに住所変更言ってないなんて、受け取ったこっちはいい迷惑なんだよ、としか思えなかった」

「駄目だろそれ、縁があった人なんだからさ。一度くらいは送り返してやれよ。もう住んでいませんって書いて」


 俺は融通の利かない真面目タイプと人からはよく言われる。何事にもいい加減な親父とは真逆タイプ。俺の性格は何事にも細かい母親の方に近いのかもしれない。



読んでくださってありがとうございましたm(__)m

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