夏休み、白洲さんが斜め上すぎる件
どこまでも広がる青い海。
真っ白な砂浜には、誰の足跡もない。
左をみると、色とりどりのタイルで飾られたプール。
プールサイドにはビーチチェアが2つ。その横には、白い天蓋のついたベッドのような段差――座禅組むところなのかな?とりあえず寝転べそう。
右を見ると、2階までの大きな窓を備えたペンション。
吹き抜けのリビングは開放感に満ちていて、室内にいても海と空と星がまるっと見えるらしい。
そして後ろを振り返ると。
珍しくサングラスをかけた白洲さんが、ポツリと一言。
「若い子と二人でプールというのが、どうしても恥ずかしかったので……すみません」
何度聞いたかわからないセリフを、また聞いた。
「いえ、それはもういいんですけど……」
――実物を見ると、とんでもない。
白洲さんが用意してくれたのは、プライベートビーチつきの貸し切りペンションで過ごす、沖縄旅行だった――!?!?
話は、ほんの2週間ほど前に遡る――。
* * *
「来月の話なのですが……」
プールかな? プールだよね?? わーいプール♪
白洲さんはカレンダーを目の前に出すと、キュッと油性ペンを滑らせて、とあるブロックを四角く囲んだ。
「こちらの日程で、沖縄のプライベートヴィラを予約させていただきました」
……????
おきなわ??
「心愛さんの行きたがっていたプールもありますし……周囲の目が気になる私と、その折衷案ということで……」
白洲さんは旅行代理店のスタッフのようにいくつかの資料をテーブルに広げる。
“専用プール!”“満天の星空を独り占め!”“目の前のビーチ!”とか、見出しの主張が強い。説明の仕方も仕事できる男って感じで、尊い。……じゃなくて。
「し、白洲さん……」
「はい」
「おきなわって……飛行機で飛んで行くタイプの沖縄ですか?」
「そうですね。……飛行機はお嫌いでしたか? であれば――」
「いえいえいえいえいえ!! 飛行機大丈夫です!!」
「ふむ。――海外でも良かったのですが、お母さまに相談したところパスポートをお持ちでないということで」
「いえっ! 月城心愛、日本生まれ日本育ちなので、国内旅行を愛しておりますっ!!」
……なんかテンパりすぎて、変なセリフが出た。
白洲さんの規格外すぎる提案に、ウキウキとドキドキとビックリと好きがごちゃ混ぜになって、気づけばヒャハヒャハしていた。
これ、なに? パニック? 恋? もう感情が渋滞してて、正解がわかんないよぉ……。
――だから、そんな目で見ないでってば! もうっ!!
* * *
大学は夏休み。いつものメンバーと会うのも久しぶり――と思いきや、この前ショッピング行ったからそうでもないかも?
今日はカラオケに来ている。といってもこのメンバーだと、歌うよりもジュース飲んでフード食べて、ずっとしゃべってる。
「一応ダメ元で聞いてもいいかな?」
かすみが眼鏡をクイッとしながら皆に問いかけた。
「来月、私の好きな芸術家の展示会が美術館であるんだけど……誰か興味ない?」
「ないなぁ」
あかねは面倒くさそうに即答。
「美術館って叫んじゃダメなところでしょ?」
のぞみは当たり前のことを聞く始末。
美術館かぁ……。
「心愛は? この中じゃ心愛くらいしか、こういうの理解してないし!」
どうやら、最初から私を狙い撃ちしていたようだった。
「んー、ちょっと興味あるかも。日程は……」
かすみのスマホを覗きこむ。
あー、旅行終わりなら行けるかな? でも体力的にしんどいかも? うーん……。
「初日あたりは私、白洲さんと沖縄旅行だけど……最終日とかなら行けると思う!」
体力の心配をしてどうするのだ、心愛よ! 夏休みは今しかないんだぞ!!
そう自分に言い聞かせた。
「最終日でも全然いいよ! ありがとう!!!……って」
「うん?」
「すけべな話が聞こえたぞ?」
のぞみがから揚げを齧りながら言った。
「うん。間違いなく聞こえた」
あかねはウーロン茶で喉を潤した。
「破廉恥旅行帰りに美術館って、心愛しんどくない?」
かすみがニヤニヤして言う。
とりあえず、詳しい話を聞こうか――となったので、私はことのあらましを詳細に語ることになった。
* * *
「どう考えてもスケベ旅行なのに、白洲さんのせいでスケベ感が台無しだねぇ……」
「白洲さん、気温が上がるとスケベになる体質とかない??」
「あー、プライベートヴィラだし、屋外の方が燃えるタイプ……とか?」
言いたい放題である。だがしかし――ッ!!
「下心丸出しで誘ってくれたら……どんなにいいだろう……とは、思うよ」
私はストローの氷をくるくる回しながら、遠くを見つめた。
――ああ、どうしてあの人は、あんなに誠実なんだろう。
しばしの沈黙。
……からの。
「とりあえず、ポロリしやすそうな水着選べばいいのかな?」
「いやー、プライベートビーチあるなら全裸も行けるんじゃない?」
「あえて海辺でセーラー服着てみるとか??」
やっぱり言いたい放題であった。
* * *
旅行の前日。私は必要な荷物を詰め終えて、スーツケースを閉めようとして――手を止めた。
スーツケースの横に並ぶ、小さな紙袋が三つ。
それは、かすみ・あかね・のぞみ――あの3人から、餞別として渡されたものだった。
「旅のお守り♡」だの「一応、念のため」だの、意味深な笑みを浮かべながら。
恐る恐る袋の中を確認した私は、静かにフリーズした。
――全部、コンドームだった。
いやいやいやいや!? いる!? これ本当にいるやつ!??
……いや、いらないよね?
でも、全員からもらったってことは、もしかして「女子として当然の備え」とか……そういう意味……?
要らない派の私と、全部持っていけ派の私が、脳内で激しく殴り合っている。
「うん、たぶん要らないんだろうなぁ……」
私はそう呟いて。
そのまま、三つの紙袋をスーツケースに押し込んだ。




