プールデート交渉決裂!?白洲さん、まさかのサプライズプラン
蝉がミンミン、ジリジリ、カナカナ、ツクツク、シャンシャン、チー!
――はい、ありきたりな語り出しじゃありません。心愛です。
同棲を始めて、はや数カ月。季節はすっかり夏になりました。
白洲さんとの生活は相変わらず、全年齢完全対応。ラブコメとしてはほぼ清廉潔白、健全すぎるくらいの毎日が続いています。
年齢制限がかかるとしたら、私の胸くらい?……ふっふっふーん。まあそんな自虐ができるくらいには、元気にやってます。
外は灼熱、室内はエアコンでひんやり。
そんな極端な気温差の中で、私たちはめずらしく――争っていた。
「行きたいです」
「ダメです」
「でも、デートはしてくれるじゃないですか?」
「それはまあ、場所によっては」
「じゃあ、いいじゃないですか?」
「いいえ、そこだけは違います」
「なにが違うんですか?」
「……私のような年齢の人が、あまり行かないといいますか」
白洲さんが珍しく、困っている。
でも私は、押し続ける。押し続けられるくらいの関係を、築いてこれたから。
――ね?すごくない? えっへん。
「でも、白洲さんくらいの歳の人も普通にいますよ。むしろ多いと思います」
「いえ、カップルや若い団体がメインでしょう」
「うーん?子連れのパパママさんとか、だいたい40歳前後じゃないですか?」
「……しかし、私は家庭を持っていませんし」
「じゃあ私と家庭、作りましょう?」
「社に持ち帰り、検討させていただきます」
「最近そればっかり!!」
――そう、最近はこんな感じ。
私がアタックして、白洲さんが華麗にスルー。
最初はけっこう凹んでたけど……最近は、この感じがちょっと好きだったりする。
え? お色気作戦はどうしたのかって?
……それは、たまに。物理的に、体当たりとかしてますけど?ふふん。
というわけで、心愛さんが行きたい場所──それはもちろん!
プール!!!
ウォータースライダーに乗ってよし! プールサイドでかき氷食べてもよし! 流れるプールで、ただただ流されるもよし!
なにが楽しいって? ぜんぶ楽しいに決まってるじゃん!!!
なのに――白洲さんったら、なんか恥ずかしいとか言って乗り気じゃない!
……なにが問題なのだ。もしかして原因は……コレか!?
「私の胸が原因です?」
白洲さんの表情が固まる。明らかに図星の反応だ。
「いえ、そういう訳では」
「もしかして白洲さん、私が“悩殺エロビキニ”でプールサイドを練り歩くとでも思ってます?」
「……エロは分かりませんが。まあ、周囲の視線を集める格好には、なるだろうと」
……やっぱりか!!!
「ちょっと待っててください!」
私は自室へとダッシュし、タンスから去年買った白のビキニを取り出す。清楚カラーの清純派ビキニ。
まあ、白って水着になるとえっちな色になるんだけどね!
チャチャっと着替え、ラッシュガードやらカーゴパンツやら、説得アイテム一式を手にリビングに戻る。
「ハイこれ!」
大の字ポーズで、水着姿を披露。
Iの字谷間! 清楚な白! 可憐と悩殺の二刀流スタイルである。だが――。
白洲さんは、じっと見たあと、深いため息と共に眉間に皺を寄せた。
「白洲さん的には、この格好で常にウロウロしていると思ってた、と。そういう認識なんですね?」
「……まぁ」
珍しく歯切れが悪い。
「ちっちっち。白洲さん、残念ながらそのご期待には応えられないのですよ!」
「……期待?」
やや戸惑う白洲さんを無視して、私は淡々と語りだす。
「実際、こういうビキニだけでプールサイドを歩くなんて、あんまりないです。海だと別ですけど、プールではラッシュガードとか羽織るのが定番なんです」
私は持参したラッシュガードをサッと羽織って見せる。
「さらにこれ、カーゴパンツ。上下着たら、ほら──ほぼレジャー施設の一般人って感じになります」
長袖+短パンで完全武装。まさに全年齢対応、健全安心セットである。
ソファに座る白洲さんに目線を合わせるように、前かがみポーズで迫ってみる。
視線は……あっ、胸元に来てる!
チャンス! と思った瞬間――。
キュッと、胸元のチャックが上まで引き上げられた。
「次は、開けてみます?」
「結構です。しかし……」
白洲さんは目を逸らしながら、小さく唸った。
谷間なんてどうでもいいのかって? そんなわけ、ないと思う。だから私は、前かがみポーズのまま、チャックを上下にリズミカルに動かして、ちょっとだけ挑発。
――シャッシャッシャッシャッ……。
「チャックが壊れますよ」
やんわり注意──かと思いきや、声のトーンが微妙にいつもと違う。ちょっとだけ、冷たくて、真剣。
「国産の高品質ジッパーなら耐久性はありますが、それ以外は……信頼性に難があります」
……えっ、そこ!? どこ見てんのよ!? 胸とかじゃなくて、まさかのメーカー審査!?!?
「い、今その話ですか!? 私の胸じゃなくって、チャックのメーカー!?」
「はい。だから、あまり雑に動かすのはやめましょう。壊れたら修理が大変です」
真顔。まっすぐな目。照れも、動揺も、一切ない。
――やっぱこの人、理性っていうより機械みたいに冷静なんですけどぉ!!!
そして白洲さんは、ゆっくりと立ち上がり――言った。
「……プールの件、とりあえず善処してみます」
「はい♪」
ちなみに。白洲さんの「善処してみます」は――。
99%OKという意味である!(※心愛調べ)
それから数日後――。
突然、白洲さんが私のスケジュールを確認しにきた。
「来月の上旬なのですが……このあたりの予定は、空いていますか?」
そう言いながら、彼が差し出してきたのは――。
壁掛けカレンダーの一枚だった。
端がきれいにミシン目でちぎられていて、端っこに「〇〇建設」「令和七年」とか書いてある。
(……客先でもらったやつだ、これ)
いつもスーツのポケットにスマホを入れてるくせに、こういうときはアナログな人なのだ。
でもそんな白洲さんが、わざわざこうしてカレンダーを手にして、わざわざ私に予定を確認しに来るなんて──
もしかして、ついに、ついに……プールの話!?
「えっと……ここ以外は、ぜんぶ空いてますっ!」
内心そわそわしながら、できるだけ平静を装って返事する。
「では、このあたりの期間で空けておいてください」
白洲さんが赤ペンで囲って示したのは、わりと長めのブロックだった。
お仕事の調整があるから、日程を前後させるつもりなのかもしれない。
――忙しいもんね。私、ちょっと強引すぎたかな。
「はいっ!」
変に気を遣うと、余計に気を遣われてしまうので、私は元気よく、ただ返事をした。
――それから数日間。
来たるプールデートのために、私は水着を見に行ったり、日焼け止めを探したり。
こっそり腹筋を鍛えたり、ラッシュガードの新作を試着してみたり。
万全の準備をしていた、ある日のこと。
「ちょっと……いいですか」
夕食前、白洲さんが改まった様子で声をかけてきた。
「はい? なんですか?」
「来月の話なのですが……」
そう言って、再びカレンダーを出す白洲さん。
――そして、彼の口から語られた計画は。
とんでもない、想像の斜め上をいくものだった。
「――――――――ッ!?!?」
私は声にならない悲鳴をあげた。




