仮彼の性欲リサーチ大作戦!
翌日の大学。
しょんぼりした気持ちが、まだ胸の奥にくすぶってて……。
そんな私を、いつもの3人が取り囲むようにして座ってきた。
あれ? 昔は4人で仲良く輪になってお喋りしてたはずなのに、なんか最近……尋問されてる感、強くない??
――で、一番に口を開いたのは、やっぱりあかね。
「失敗でしたが、ご感想は?」
「もーーーーーーーーー!!!!」
私はツインテールをぶんぶん振り回しながら抗議する!けど、あっ、崩れちゃった……。
慌てて髪を整えてると、他の二人からも追撃が飛んできた。
「そもそもさ、色々と情報が足りないんじゃない?」
「うん。もっと白洲さんのこと知らないと攻めようがないよね」
……あれ? なんか、マトモなアドバイス!?
えっ、優しい。みんな、やっぱり私の親友だよぉ〜〜〜!!!
「ありがとう……みんなッ!」
「てか、とりあえず突撃しちゃう心愛がアホなんだよね」
「誰がアホだぁああああ!!」
私は勢いで叫び返す。
あかねはお腹を抱えて笑ってるし、ほんともう〜〜〜!
「ま、とりあえずさ。色々探り入れてみようよ?」
笑い終えたあとの、のぞみの提案にみんながうなずく。
「うーん……アンケート作って答えてもらうとか?」
私の案に、なぜか3人とも微妙な顔。
「なんでアンケートなの? 普通に色々聞けばいいじゃん?」
「でもさ、大真面目にアンケート作ろうとするのが心愛のアホ可愛いとこだよ」
「昔からやたらアンケート取ってたもんね〜」
ぐぬぬぬぬ。
確かに記憶あるけども!あるけども!!
「でも面と向かって聞くには……その、ちょっと恥ずかしい話題だし……」
そう言った瞬間、3人の顔がスンッと真顔になって――
「あなたには性欲がありますか?」
「あなたが最近一番興奮したのは何ですか?」
「あなたは最近、成年向けの――」
「わーーーー!!!ストップストップストップ!!!」
私は両手で耳ふさいで叫んだ。
駄目だよ!?そんな文字面、絶対アンケートにしちゃダメだよ!!??
ていうか今、一番恥ずかしいの私だからね!!!
「ま、軽いジャブからいこうよ」
のぞみがニカッと笑う。
「……たとえば?」
「えっちなビデオとか見ますか?って聞いてみたら?」
それ……ジャブ???
ボクシングのジャブって、もっとこう……当たってもノーダメージみたいな……
え?シャコのパンチってジャブだっけ?あれはもう粉砕骨折級……いや違う……???
――って、頭の中がごちゃごちゃしてるうちに、話はどんどん進んでいって。
結局、ちゃんと確かめる必要はあるんだって、思わされちゃった。
* * *
その日の夜。
なんかもう色々ぐるぐるしちゃって……気づいたら、めっちゃ中華料理作ってた。
《本日のメニュー》
・天津飯(カニカマ入り♡)
・プリプリ海老マヨ(いちごソースが隠し味!)
・春雨サラダ(見た目は完璧!……味はちょい薄)
・たまごとわかめの中華スープ(超シンプル)
・杏仁豆腐(缶詰フルーツごちゃ混ぜ♡)
……うん。
何を聞けばいいのか、モヤモヤしすぎて、気がついたらこうなってました。
今まではね?レシピ本とか、動画サイトとかで
「隠し味テクニック!」「彼を落とす魔法レシピ♡」みたいなやつばっかり探してたけど――。
……うん、それは正しくなかった。
今更だけど、無心でレシピ通りに作った方が、早いし、美味しいし、なにより……安全。
「……料理は“愛情のスパイス”が大事って言うけど」
私はテーブルを見下ろす。
そこに並ぶのは、どこからどう見ても無意識下で調理された“下心のスパイス”たっぷりな料理たち。
……なんかもう、申し訳なくなってきた。
ごめんね白洲さん。今日のご飯、ちょっと……いや、だいぶエロいです。
その時だった。
「ただいま戻りました」
――白洲さん。
私の、愛しの旦那様(※仮)が、帰ってきた。
「おかえりなさーい♡」
できるだけ平静を装って、私は何気ない風を装って、いつもの何気ない日常のつもりで、玄関まで出迎える。
……服装だって、普通だ。うん。普通のワンピ。
だけど――。
気持ち的には何ていうか、その……。
裸エプロンくらいの緊張感です、はい。
内心だけは全裸なんです!!(語弊)
――でも、言えない。
この天津飯に込めた欲望の重みとか、海老マヨの奥にある乙女の業とか、白洲さんに“食べてほしい”以外の気持ちとか。
見えないように、バレないように。
……でも、ちょっとだけ伝わったらいいな、なんて。
「上達ぶりがすごいですね」
ここ最近、白洲さんは私が家事を一つ覚えるたび、料理を作るたびに褒めてくれる。
しかもただ褒めるだけじゃなくって、私の味付けの好みを聞いてくれたり、「ここをこうするともっと美味しくなるよ」って、負担にならない感じで自分の好みも混ぜて伝えてくれる。
……え?細かい男なんじゃないかって?
う~ん、そうかなぁ?
苦手なものは苦手って言って欲しくない? 私だけ??いや、私だけかもしれないけど!
「ちょっと張り切りすぎちゃったんですけどね」
てへへ、と笑ってみせる。
食事も片付けも終わって、お風呂も終わって――。
……あ、お風呂はね! 非常に不本意ながら別々に入りましたけど!!
で、今はリラックスタイム。
白洲さんが「ちょっといい茶葉をいただきました」って淹れてくれた緑茶を飲んでいる。
「……香りが良い……んですかね?」
私には正直、よく分からない。けど、白洲さんなら分かるんだろうなーって思っていたら。
「……正直に言っていただいても良いですよ」
白洲さんから、まさかの本音要求!
「じゃあ……えっと……回転すしチェーンのお茶より、ちょっと不味い感じです!」
すると白洲さんはズズッとすすって、にこやかに言った。
「私も味覚に自信はありませんが……これは、不味いですね」
ふたりで笑いあって、またズズッ。
……ああ、なんか穏やかで良い時間。
でも、これって……“本音で話そうタイム”じゃない!?
今がチャンスじゃないの!?
腹を割って話そう!ってやつ!
……でも腹を割るって何? シックスパック的な? それとも切腹的な? 武士ぃ!?
いやそれはどうでもいい!! とりあえず今だ!!
頭がぐるぐるフル回転する。
よし、今こそぶつけるんだ、私の“本音”!!
「あの、白洲さん!」
「はい?」
声をかけて――気づいた。
……あれ? 私、何聞くんだっけ?
現実では3秒。でも私の脳内では25秒くらい経過してた。
で、出てきた選択肢は――
のぞみ(脳内)「えっちなビデオ見るか聞いてみたら?」
……それだッ!!!
「え、えっちなビデオって見ますか!?」
その瞬間。
ダイニングの空気が――ピタッと止まった。
それから何分――いや、何時間……ってことはなく。
「見たことはありますよ」
――まさかの即答ッ!!!?
え、え、ていうか……
「えっちなビデオ見るんですか!? 毎日!? 週1ですか!!?」
前のめりになった私の声が、もはや声にならない!!
なのに白洲さんは、茶菓子代わりのチョコビスケットをつまみながら、平然とした顔で答える。
「定期的には見ませんが。そういうビデオ好きな方が、たまにくださるので。一応、目を通してはいます」
目を通すって何ですかッ!?検閲ッ!監査ッ!みたいな感じなんですか!?
「え、えっと。それは、どこで、どんな感じで……見るんですか?」
もう一人の純情☆心愛が「やめてぇぇぇぇぇええ!?」って止めに入るけど、もう止まれないッ!!この地雷原、走りぬいてやるんだからッ!
「そうですね。以前は……心愛さんが家に来る少し前ですね。ちょうどこの部屋で見ていましたよ」
「ここ、ですか」
うん、まあそうだよね。一人暮らしの男性だし、くつろぎ空間はここだもんね。
広々リビングで、えっちなビデオ。うん、なんか絵面が強すぎて逆に静かになる。
「意外と長かったので、晩ご飯を食べながらでしたが」
「……えっ」
「はい?」
「食事中に、見たんですか……?」
「正確には……夕飯を作りながら流していたのですが、終わる気配がなかったので。そのまま食事中〜食後の片付けまで、ずっと流れていましたね」
「……感想は、どうでしたか?」
「映像が全体的に明るくて、あと……棒読みの演技が少し気になりましたね」
そう言って、白洲さんはふふ、と柔らかく笑って、お茶をすすった。
私は、ぽかんとしながら思う。
……えっちなビデオって、映像作品として見たら、そんな感想になるんだ……。
なんかもう、逆に尊敬かも。
(……これ、卒論とかに書けますかね?)
結局――白洲さんに性欲はない、ってことなのかな……?
うーん。ちょっとだけ、モヤッとする。
「興奮とか、しました?」
「いえ。興奮するような“熱いストーリー”とかは、なかったですね」
当たり前のことを、白洲さんは静かに――
でも、やんわりと教えてくれた。




