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ピチピチ☆ボタンを閉めて白洲さん大作戦②

 「……閉めてもらえますか?」


 白洲(しらす)さんは――やっぱり相変わらず真顔だった。

 静かに本の合間にしおりを挟む。そのしおりは、この前の水族館で買ったイルカさんのやつ。

 ……最近、気づけば白洲さんの小物がどんどんイルカ化している。

 もー可愛い!可愛いんだけど……でも今はそんなことどうでもいい!!


 本をテーブルに置いた白洲さんが、ゆっくりと私の方へ歩いてくる。その視線は――胸元に釘付け……じゃない!?

 真っ直ぐに私の目を見つめている。


 歩きながら、白洲さんは着ている自分のワイシャツの袖ボタンを外し、スッと腕をまくった。

 すらりとした印象の彼だけど、近くで見ると実はしっかり鍛えられている前腕。あぁ、これぞ大人の男の余裕……。


 え?「枯れオジ」じゃなかったのかって?ちっちっち。年齢だけで判断してはいけないぞ☆

 真に素敵な“枯れオジ”とは――ワイルドな男の性を、年相応の紳士的な雰囲気で包みこんだ存在なのだ!


 ――なんて考えていたら、気づけば目の前に白州。あ、敬称略しちゃった!白洲さん!


 「このボタンですか?」


 間近で問われ、ふんわりと香る整髪料の匂いにクラクラする。見上げた先には――


 <<男前フェイス!!!!!>>


 「……心愛(ここあ)さん?」


 怪訝そうに眉を寄せられ、私は慌てて返した。

 

 「あ、すみません……! えっと、そのボタンです。お願いしてもいいですか?」


 白洲さんは眼鏡をチャッと整えると、その指先を私の胸元のボタンへ伸ばす。


 ――つん。


 「――――っ!!」


 思わず身体がビクついた。ち、ちがうもん!感じてなんかないもん!!

 でも白洲さんは、そんな私の挙動不審など気にも留めず、相変わらず真顔だった。


 「……少しサイズがキツいのではないでしょうか?」


 真剣に心配してくれている。その眼差しが、逆に申し訳ない……。

 ごめんなさい、わざとなんですぅ……。


 罪悪感を押し殺しながらも、私は作戦を遂行する。


 「そうかもしれないんですけど……とりあえず、閉めてみてもらえますか?」


 白洲さんは小さく頷き、再び指先に力を込めた。

 右手でボタンを、左手で布の端――ボタン穴のある方をつまむ。その仕草は無駄がなく、まるで古い懐中時計を修理する職人みたいに慎重だった。


 私はその動きを、超高速で回転している私の脳内コンピューター(※ちょっとポンコツ)で観測していた。

 ……なぜか時間がゆっくりに見える。ほんの数秒なのに、私にはスローモーション映像のように映るのだ。


 ぐっ……と布地が引き寄せられる。

 シャツが胸の上でピンと張り詰め、わずかな圧が肌にまで伝わって――


 「ひゃっ……」


 あ、ちょっと変な声出そうになった!

 慌てて口を噤み、必死に誤魔化す。今のナシ!今のナシだから!!


 そして――。


 思いのほかスムーズに、ボタンが留まる直前まで穴に入りかけた。


 あと、ほんの数ミリ。布と布が寄り添えば、完全に留まってしまう。

 

 えっ。えっ!?!?


 違う!そうじゃない!!

 こんなにあっさり閉まっちゃったら、私の作戦が意味ないじゃん!!

 

 私の作戦はこうだった。

 白洲さんが、ギリギリ閉まらないボタンに悪戦苦闘!

 その間、目の前で揺れるのは私のたわわに実った武器。

 彼はその様子に理性を削られ、少なくとも頬を赤らめるくらいはする――


 ……はず、だったのに!!


 私の脳味噌が音を立ててさらにその回転速度を増していく!!

 カランコロン音がする気がするけど、たぶん気のせいだ!!

 そして導き出された対処法は――


 ――ハッ!!


 私は咄嗟に両肩を後ろに引き、胸を張った。入りかけていたボタンが、スッと穴から離れていく。

 これだ……!これは名案だーーー!!!

 

 白洲さんに気づかれないよう、慎重に慎重に胸を張って、ボタンが留まらないよう調整する私。

 白洲さんの指先にさらに力がこもる。


 ふふふ。ねえ見て?白洲さん。私の心はもう白洲さんのものだし……この体も、白洲さんのものにしていいんですよ???

 ……おっと、まだ笑うな。白洲さんの頬がわずかに赤く染まったとき、私の勝利が確定するのだから……!


 その時。


 ――パーン!!!


 一瞬、何が起こったのか分からなかった。


 私の視界はいまだにスローモーションである。四方八方に飛び散る白いボタンたち。

 そのうちのひとつが白洲さんの眼鏡に当たり、コツンと音を立てて――


 「……。」


 白洲さんは真顔で、右手にボタン、左手に布の端をつまんだまま動かない。


 一方の私は――。


 薄い水色のおろしたてのブラジャーを胸ごとさらけ出し、口をポカンと開けて固まっていた。


 「……。」

 

 なにか……なにか言わなきゃ……!


 「……へ、へにゃ」


 変な声が出た。どうしようどうしようどうしよう!?私がパニックになっていると。


 「……縫製不良(ほうせいふりょう)、というよりはやはり、サイズが合ってないのだと思います」


 白洲さんは静かに、しかし真剣にそう呟いた。


 「……返品した方が良いですよね……」


 私がそう返すと、白洲さんは一拍置いてから答える。


 「返品は……少し厳しいかと」


 その表情は、心底気の毒そうな顔。

 眼鏡にボタンをぶつけられた人のはずなのに、逆にこちらを気遣うような視線でじっと見つめてくる。


 ……うわああああ!!やめて!!その優しさがいちばん刺さるんですけどぉぉぉ!!!

 

 水色ブラ全開のまま、私は心の中で絶叫した。


 くそう!もう知らない!ヤケだヤケだヤケだ!!

 私は半泣きで叫んだ。


 「し、白洲さん!!見てください!!どうですか!?!?」


 ……いやいやいや。傍から見たら完全にヤバい図だよね!?

 ブラ丸出しでおじさんにレビュー迫る女子大生!? 通報されたら一発アウト!!


 白洲さんは静かに服の裾から手を放し、1歩、2歩と下がる。

 そのままソファに置かれていたブランケットを手に取り――無言で私にかけてきた。


 「……とりあえず、その服はもう着られないと思いました」


 超絶に気まずそうなトーン。なんか逆に刺さるんですけど!?!?


 「……そうですよね」


 私は全力で後悔モード突入。自爆だこれ完全に自爆だ!!


 「ボタンは拾っておきますので、先にお風呂へどうぞ」


 「お手数をおかけしますぅぅぅ……」


 こうして――


 ピチピチ☆ボタンを閉めて白洲さん大作戦、


 ……大☆爆☆死!!


 ◇


 私は三角座りの体勢で、いつもより少しだけ湯船に浸かりながら、脳内反省会を繰り広げていた。


 「今日のお風呂、ちょっと熱いかも……?」


 いや、たぶん熱いのは顔だと思う……。ぴえん。

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