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ピチピチ☆ボタンを閉めて白洲さん大作戦①

 ――ねぇ、みんな。序章、長かった?……長かったよね???

 ラブコメディのつもりが、なぜかじっくりピュアピュア恋愛小説しちゃってたよ……!


 だからはい、切り替えターイム!

 ここからは私、月城(つきしろ)心愛(ここあ)の一人称でお送りします!


 私は今、服屋さんに来ている。


 普段の私なら、フリルとかリボンとか“可愛い”が暴発してるブランドショップにしか行かない。

 大人コーデなら、きれいめ清楚×ややお姉さん系……ちょっぴりハイ↑なブランドショップで揃えるのが定番。


 でも今日は違う。


 私が立っているのは――壁一面に無地のTシャツとカーディガンが整然と並ぶ、“シンプル量販系”のお店。

 安いし丈夫だし、確かに便利。

 でも!可愛さゼロ!トキメキ成分ゼロ!……つまり、“普通”しか売ってないお店。


 あれあれ〜?心愛さん?唐突な方向転換ですかぁ?

 白洲(しらす)さんに振り向いてもらうために、シンプルイズベスト路線に行っちゃうんですかぁ?


 ――ふふふふふ。


 安心してください、地雷です。


 今日の私はいつも通り。黒髪ツインテールに盛り盛りメイク。カラコンは左右で色を変えて、ミステリアス感マシマシ。

 フリル可愛い薄ピンクのトップスに、レース長めの黒フリルミニスカート。

 さらに黒ニーソで締めて――光り輝く絶対領域、ここに爆誕!!


 え?スカート短すぎじゃないかって??

 あー大丈夫大丈夫。

 今どきのミニスカートって中がズボンみたいになってるから、なんちゃってスカートで安全仕様なの。


 ごめんね?期待した? てへぺろ♡


 じゃあそんな私がなぜ、ここにいるのか!!

 それは――このシンプルな白ワイシャツを買うためなのです!!


 壁一面にずらりと並んだ、無地のシャツ。値札にはお手頃プライス「2,990円」「3,990円」の数字が整然と並んでいる。

 普段の私ならフリルやリボンが暴発してるブランドショップ一択。でも今日だけは違う。私は真剣に、「普通」を探しているのだ。


 ……だけど、この普通の服こそが、私の大作戦には必要不可欠なのだ!!


 「うーん……Mかな?それともL?」

 どっちがいいのか分からないから、手に取ったシャツを何枚か抱えて試着室へ向かうことにした。


 入口の前に立つと、店員さんが笑顔で声をかけてくれた。

 「お客様の体型ですと……Sサイズで大丈夫かと――」と口にして、店員さんの目がふと私の胸元に移る。そこで言葉が止まった。

 

 間。


 「……い、いえ。正直に申し上げると、着てみないと分からない感じですね」


 「そうなんです……!」


 なんか一瞬で分かりあった気がした。そう、この胸のせいで、私はこれまでどれだけ制服でもブラウスでも苦労してきたことか……。高校時代なんて、ボタンが弾け飛ぶたびにクラスが騒然となったんだぞ!?


 ……いや、今はそれはいい。私は色んなサイズのシャツを試しながら、鏡の前で入念にチェックを重ねていった。


 これは……緩すぎ。

 これは……そもそもボタンが全く閉まらない!!


 袖とか丈とか、そんなのは二の次。私が注目しているのは――ただ一点。


 「……むっ!! コレは……!?」


 胸元のボタン。ギリギリ閉まるかどうか。

 軽く胸を張ってみたり、逆に前かがみになったり。ボタンの様子を真剣に観察する私。


 「これで……勝つる!!」


 最終的に一枚を手に取り、出入口の店員さんへ他の服を返しつつ告げた。

 

「これにします!」


 店員さんは「サイズの合うものがあってよかったです」とほほ笑む。

 私も「ありがとうございます♪」と返して、軽やかにレジへ向かった。


 ――そのときだった。


 ふと、目に入ったのはメンズコーナー。

 無造作に並んでいる大きめサイズの白シャツたち。


 ……彼シャツ、ってやつ。


 もし私がこれを着たら……白洲さん、反応してくれるかな?

 白洲さんの匂いがするシャツ……。

 うわ、なんかえっちじゃない?


 脳内で勝手にシチュエーションが展開する。

 お風呂上がり、彼のシャツを借りて羽織る私。

 丈が長くてワンピースみたいになって、でも胸元はゆるく開いて……。


 「……っだめだめだめだめ!!」


 慌てて頭を振った。


 レジ待ちの列で、ひとり真っ赤になって妄想暴走する私。

 ……これ、絶対顔に出てる。恥ずかしい。


 自分の番が来た。

 服を会計用の窪みに入れると、一瞬で金額が表示される。ハイテクだなぁ……。

 しかしそんなハイテクも、私の暴走妄想を止めることは出来なかった!!


 「お風呂上がり、彼のシャツを借りて羽織る私。丈が長くてワンピースみたいになって、でも胸元はゆるく開いて……」


 想像の中の白洲さんが、私を見て少しだけ目を細めて――


 『心愛さん、その……似合ってますよ』


 「ぎゃあああああ!!だめだめだめだめ!!!」

 (※現実の私はレジでお会計しながら赤面バクハツ中)


 ピーピーピー!!


 クレジットカードの番号を間違えちゃった。てへ。


 ◇


 買ってきた紙袋を、リビングのテーブルにぽんっと置く。

 ふふふ、わざと見える位置にね。


 白洲さんって絶対、こういう細かいところ見逃さないんだよ。

 だからきっと気づいてくれる――「ああ、新しいシャツですか」とか、さりげなく突っ込んでくれるはず!

 うーん、想像するだけでにやけちゃう。


 そんなるんるん気分で、私はキッチンに立った。

 今日の夕ご飯、メインは簡単にできるやつにしておいて……副菜は……うん、失敗したら嫌だから、白洲さんが帰ってきてから一緒に作ろう。


 レシピ本をぱらぱらめくって、材料を再確認。本の端っこには色とりどりの付箋がずらりと並んでいる。


 この色は「作りたい」やつ。

 この色は「白洲さんと一緒に作った」やつ。

 で、この色は「一人でも作れた」やつ。


 スマホでもレシピは見れるけど……やっぱり紙の本だと、“進歩の跡”が目に見えて分かって嬉しいんだよね。

 ピンッと付箋を弾いて、さらに気分が上がる。


 ――その時。


 ガチャリ、と玄関のドアが開く音。


 「……ただいま戻りました」


 来た!!


 私はガスの火を止めて、水道が出てないかもチェックして……(指さし確認ヨシ!)

 スリッパをパタパタ鳴らしながら玄関へダッシュした。


 「おかえりなさい!」


 そこにいたのは、いつも通り落ち着いた白洲さん。でも今日はシャツの襟もとがほんのり濡れてて、額には小さな汗の粒。

 

 あ……夏の気配だ。


 「気温、上がりましたもんね」

 

 私がそう言うと、白洲さんは小さくうなずいた。


 「ええ。……もう夏が近いですね」


 ――汗もしたたる、いい男。ああもう……しゅき。白州さん、しゅきーーーっ!!


 ◇


 夕飯を食べ終えて、ふたりでリビングへ。お茶をいれて並んで腰を下ろす。

 食後のまったりした、いつもの空気――だけど私は、心の奥でずっとソワソワしていた。


 ……ほら、見えるでしょう?テーブルの横に、さりげなく置いてあるこの紙袋。

 いや、さりげなくっていうか――超☆計算済みのポジショニングですけど!?

 リビングに入った瞬間に視界に入る角度、白洲さんが座った時ちょうど目線が落ちる高さ。完璧!

 普通の人ならスルーしちゃうかもしれない。でも白洲さんは絶対に見逃さない。小さな変化でも、ちゃんと拾ってくれる人だから。

 だから――気づいて!お願い気づいて!!


 ――そして。


 「……夏服ですか?」


 きたぁぁぁぁぁ!!!

 白洲さんの視線が、ついに紙袋に落ちた。やっぱり見逃さない!スルーしない!!さすが!!!

 私は待ってましたと言わんばかりに、勢いよく頷いた。


 「そうなんです!ちょっとシンプルな白シャツを買ってみたんですけど……」


 心臓がドキドキして、声がほんのり裏返る。言葉を続けながら、私は立ち上がって紙袋を手に取った。


 「……ちょっと着てみても、いいですか?」


 自分で言ってから、心臓がばくんっと跳ねた。

 別にただのシャツである。何の変哲もないシャツである。種も仕掛けもないシャツである!!

 ……でもダメ……!すっごく緊張しちゃう……!!!


 白洲さんは、少し瞬きをしてから静かに頷いた。

 

 「ええ。もちろん」


 真顔である。これから始まるセクシー展開にも関わらず、真顔である!

 ラブコメの男主人公ならドギマギしちゃうし、普通の男ならゲッヘッヘと卑猥な笑みを……

 ……いや、作戦内容知らないんだから真顔だよね。そうだよね。早とちりしちゃった。


 その落ち着いた返事に、逆にプレッシャーを感じながらも――ここで引き下がるわけにはいかない。

 作戦開始であります!!


 「えっと……じゃあ、ちょっと着てみますね!洗面所、お借りしますっ!」


 紙袋を抱えて、いそいそと洗面所へ。

 鏡の前で深呼吸をひとつ。


 「……よし!」


 着ていたトップスのボタンを一つずつ外していくと、現れたのは――

 ……って、今ちょっとえっちなこと考えたでしょ?考えたよね??

 ふふん、この描写はカットしてやる!!


 ――そして。


 真新しい白シャツに袖を通し、ボタンを留めていく。だけど胸のあたりで、案の定ボタンが悲鳴を上げた。

 ぎゅううう……布がつっぱって、今にもパーン!って音がしそう。


 「……計画通り……!!」


 そう!これこそが狙い。

 つまり――白洲さんにボタンを閉めてもらう、絶好のチャンスなのだ!!

 私は胸の前でボタンを1つだけ開けた状態で、勢いよくリビングへ向かった。


 「し、白洲さぁん……! ちょっと……これ……」


 リビングで本を手にしていた白洲さんが、視線を上げる。

 その瞳に、一瞬だけ浮かんだ“戸惑い”の色を私は――


 「…………。」


 真顔……!?!?

 えっちょっ……ちょっと待って。私の胸の前のボタン。正確には上から3つめ。開いてるんですよ?胸の谷間がチラ見してるんですよ!?!?


 くっ……たしかに予想はしてたけど……!

 予想はしてたけど……戸惑ってくれてもいいじゃない!?


 ――しかし、私はめげない。

 むしろ、ここからが本番なのだから!

 私はそっと視線を落とし、指先で胸元のボタンをつまんだ。

 

 「……白洲さん、あの……ボタンが閉まらなくて……」

 

 少し頬を赤らめ、もじもじしながら言葉を続ける。

 

 「……閉めてもらえますか?」


 ――外の私は、恥ずかしそうな乙女。

 けれど心の中では、悪女な私がにやりと笑みを浮かべていた。


 作戦開始まで、あと数秒――。

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