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心愛さん、学校ではこう見えてます

 そのころ――


 ――メゾン・ド・ベル女子大学・学食テラス。

 トレーを囲むのは、付属高校からの腐れ縁カルテット。


 ギャル系の村井あかねは、高2でギャル化したものの成績は上位。

 体育会系の中谷のぞみは、元バスケ部主将で、スカートはやたら短い。

 清楚系の小野寺かすみは文学部で眼鏡っ子。モテるが全スルー主義。

 そして、“盛れ地雷”界の無自覚女王、月城(つきしろ)心愛(ここあ)


「でさ、心愛。“同棲”ってマジなの?」


「ガチなの? ほんとに40代? もう“パパ”じゃん。パパ活じゃん」


「ち、ちがうもんっ! 白洲さんは、パパじゃないし! 変なこととかしないしっ!」


 その“変なこと”という単語に、三人の視線が一斉に心愛の胸元へと集中した。


「…………」


「……コレが家の中にあって、自我を保てる男がこの世にいるのか……?」


「むしろ“見てこない”って、ホラーじゃない?」


「そう!それはそれで怖い!!! むしろしっかり見てほしいわ!ピッチピチの女子大生やぞ!!」


「……ほんとに、見ないの……。胸とか、視線感じたこと、1回もない……」


「え、それ逆にスゴくない? だって心愛の胸、あれ、常に話しかけてくるサイズだよ?」


「私、マジで顔より胸と会話してる時間の方が長いもん」


「うぅ〜〜〜〜〜〜……(机に突っ伏す)」


「しかも身長152でしょ? バランスおかしいって。“ちいかわ巨乳”って心愛しかいないよ」


「てか、思い出してみ。ウチら高校女子校だったじゃん?」


「付属だったから、ずるずる大学まで来ちゃったねぇ……」


「校門前、男子校の子らめっちゃ来てたよね〜!!」


「あれ! いた! いたいた! よく来てた!」


「心愛、よく目立ってたもん。“ちっちゃいのにでかいのいる”って超有名だったって!」


「男子校の子ら、よく学園前に来てたじゃん? 心愛、めっちゃ目立ってたし」


「てかヤツらが勝手に“伝説のF”とか言ってたの聞いたことあるもん私。たしか高3の時!!」


「なんで私のカップ数具体的にばれてんの!? そんなあだ名嫌すぎるううう……!!」


「てか今それどころじゃないよね……? 何カップ……?」


 心愛が顔を赤らめて言いよどむ。


 「え、えと……その……」


「まさか……神の領域に……!? GODの……Gの領域に達したというのか!?」


 顔を手で覆って、恥ずかしさに身を捩る心愛。その仕草を見た三人は、改めて現実を噛みしめた。


「でさ、そんな心愛がよ? 男耐性ゼロだったのに、よりによって白洲さん?」


「てか男に興味持ったの初めてじゃね? そう考えると……」


「……え、心愛……もしかして……」


「「「オジ専だった!?」」」


「いやいや違うしっ!! 白洲さんは……その……」

「なんかこう……“内角高めのストレート”がドンピシャで来て、カキーンって打っちゃった、みたいな……!」

「気がついたらホームラン? 打っちゃってた? みたいな……!」


「いや、たとえ雑っ! でも、分かる……気がする!!」


「てか、心愛ゾーン特殊すぎじゃない? “昭和系無感情スーツ男子”とか……マジで恋の打率上がらないから!」


 心愛はツインテールを両手で掴んで顔をうずめた。

「しゅき……なんだよぉ……(膝抱え)」


「うわ〜〜〜沼入った沼入った〜〜〜!!」


「卒業するまでに“その壁”突破できなかったら、もう一生“Gのまま成仏”やで」


「やだぁああああ〜〜〜〜!!」


 ――女子校時代からの腐れ縁。


 ツッコミは激しく、笑いは容赦ない。でも、その中に少しだけ、本気の心配と――娘の巣立ちを見守るような、名残惜しさが混じっていた。


 周囲の席では、いつの間にか耳をそばだてる学生たちの姿がちらほら。

 気づけば、学食の一角にほんのりざわついた空気が漂っていた。

 その空気にノって、ギャルの村井あかねが勢いよく立ち上がった。

 

「それではお待たせしましたー! こちら、恋の泥沼に両足突っ込んだ心愛さんをお迎えして、特別企画〜〜〜!」

「“恋ってなんだろう?”ヒーローインタビュー!! いえ〜〜〜〜い!!」

 

「ちょっ、なに勝手にインタビュー始めてんの!? 誰がヒーローよっ!!?」


 ワッと盛り上がるテーブル。周囲の学生たちからも、つられるように拍手や歓声が巻き起こる。

 

「じゃあズバリ聞きます! 月城心愛選手、これは――恋ですか!?」


「えっ……え〜〜……うぅ〜ん……まだ、分かんないよぉ……っ」


「じゃあじゃあ! 好きか嫌いかで言ったら!? 好きか嫌いか!?」


 口をパクパクさせ、真っ赤な顔で涙目になりながら、心愛は両手の人差し指をツンツン合わせて――

 

「…………しゅきっ(小声)」


「えーっ!?聞っこえませ〜〜ん! 学食テラスの皆さんへ向けて!大きな声でいきましょう!!」


「もぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!////」


 顔を真っ赤にしてカバンで顔を隠す心愛に、テラスは一瞬ざわつく。


「見た!? いまの!? 照れ逃げしたあの顔!」


「これは確定演出きました〜〜〜!」


「月城心愛、恋愛ゾーン入ったなこりゃ!」


「恋は始まってしまったのだよ……オジ専の小動物……!」


「オジ専じゃないしぃっ!!」


 心愛の絶叫が、学食の温度をさらに上昇させる。

 

「頑張れ〜〜〜!」「心愛〜〜〜!!」「しゅきって言ってぇ〜〜!!」


 \\ コ コ ア ! コ コ ア ! //

 \\ コ コ ア ! コ コ ア ! //


 湧き起こる、謎のコール。


「や、やめてええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!」


 盛り上がる学食、叫び声、拍手、謎コール。

 でもその中心で、心愛の心はぐるぐると渦を巻いていた。


 ――やっぱ恋? これって恋? いきなり恋? 始まっちゃったの? 恋??

 誰か教えて……! ねえ、これ……恋ってことで、いいのかなぁ……っ!?


 ◆

 

 夕方。


 講義が終わり、皆と別れてから心愛がスマホを開いて「今日の買い物リスト」を確認した。


 卵、牛乳、鶏ひき肉、玉ねぎ、ケチャップ。


「うん、今晩はオムライス作ってみよっ。あとスープと、昨日のサラダ残ってるし――あれ?持つのかな??」


 白洲さんのために、何を作ろうか。

 それだけで、自然と帰り道の足取りが軽くなる。


 ――でも同時に、ふとした不安もよぎる。


(……今日、“おいしかった”って言ってくれるかな)


(あの穏やかな優しい笑顔が見たいなぁ……)


 彼は優しい。でも、何を考えているのか、分からないことも多い。


 ――それでも。


「……がんばるぞっ」


 どんな食材を選んで、どんな味付けにするか。

 彼の好みを想像するだけで、胸の奥がほんのりあたたかくなった。

 

 ◇


 心愛は最寄りのスーパーに入り、買い物かごを取ると、ぎゅっと両手で抱きしめた。

 その手つきはまだ慣れていないけれど、どこか意気込みに満ちていた。


(よし、今日は……私がちゃんと、夕ごはんを作るっ)


 今朝のことが、まだ胸の奥に残ってる。


 白洲さんと並んで作った朝ごはん。

 無駄のない動きで卵を割って、プロの料理人みたいにベーコンを焼いていた白洲さん。

 あの背中が、なんだかもう、映画のワンシーンだった。


(あれは……まちがいなく、奇跡の朝だった……っ)


 そして今度は、自分の手で、もう一度――。

 “ちょっとだけ特別なごはん”を作りたいと思った。


(えっと……卵、牛乳、鶏ひき肉……)


 肉売り場で立ち止まり、パックを一つひとつ見比べる。

 むね肉ともも肉。どっちも同じように見えるけど、よく見ると、ちょっとだけ色も質感も違う。

 

 白洲の顔が思い浮かぶ。


 (うーん、あの人、脂っこいのってあんまり食べなさそうだし……)

 (なんかこう……油より、ダシとか、旨味? そういうのを大事にしてそうっていうか……)

 (たぶん、脂とかカロリーとか気にするタイプ……だよね?)


(わかんないけど……なんか、“脂質控えめ”って感じだし、こっちにしよっ)


 “たぶん健康にいい”の基準で、むね肉をかごへ。


 そのまま野菜売り場で玉ねぎを手に取り、最後に向かったのは調味料コーナー。


 ケチャップの棚の前では、またもや立ち止まる。


(わ、いっぱいある……。でも、この前……)


 白洲さんが真顔でラベルを見てたのを思い出して、心愛も真似して裏面をチェック。


 糖質、塩分、原材料名……でも結局、よく分からない。


(もういいっ! 悩んでも分かんないし、“高いほう”!)


 決意の勢いで、金色のトマトが描かれたちょっといいケチャップをかごに追加。


 メモを見直しながら、満足げにうなずく。


(よーし、卵、牛乳、鶏むねひき肉、玉ねぎ、ケチャップ……!)


 でもそのあと、ふと。


(……オムライスに、“しらす”って書いたら、どんな顔するかな)


 想像した瞬間、ぷくっと口元が緩む。


(怒られちゃうかな……いや、たぶん何も言わずに“片付けてくれそう”な気がする……)


(それでも、ちょっとだけ……にこってしてくれたら、嬉しいなぁ……)


 スーパーからの帰り道。

 かごの中には、“まだ少し心もとないけれど、きっとちゃんと届けたい気持ち”が詰まっている。

 

 そんな小さな勇気と想像だけで、足取りはもうひとつ分、軽くなっていた。

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