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2 喧嘩の見解


「ああなる前にキストは落とし穴の所為で服汚してたぞ。

 つーかなんであいつは白なんて目立つ色の服なんだ。隊服の支給とかお前が管轄だったよな、あいつの希望か?」

「特に本人のこだわりが無かったら、あたしの案みせてOK出たのにしてるだけよ。キストは割と自分の恰好とかに無頓着だから」

「職権乱用にも程があるぞ、しかも隊服は経費から落ちてんだぞ」


 いくらうちの部隊が傭兵上がりから出来た隊で他の部隊に比べてゆっるゆるにしても、副隊長が私情でそれぞれの隊服について決めるなよ。


「あら、他の隊の隊服費用の平均を超えた分は自分の給料から足してるに決まってるじゃない。

 今のところビレのが一番の出来だわ。女の子って少ないから張り切っちゃったわ。ショートパンツにニーハイにロングブーツって最強だと思うわ。かわいい、ほんとかわいい」


 私情しかない。後半の声がマジなんだよなぁ。


 ビアンカも別に俺と同い年のわりに見た目は若いのに、こういう発言するからなんつーか残念だよなぁ。


 長ズボンが多い中、なんでビレだけショートパンツ何だろうと思ってたけど、この女の仕業かぁ……どうりで服の汚れを気にするわけだ。


 昔からこういう人の見た目に関することこいつが横でべらべら喋ってんのは散々聞いてきたけど、私費切り崩して何やってんだと思っちまうな。




「給料切り崩してまでするかぁ? にしても、お前の趣味で部下の隊服が決まっているのは変わりねぇし」

「一応本人の意向は取り入れているわよ。ビレのは元はスカートにする気だったもの。でも、ショートパンツもいいわよねぇ。あの子、髪や瞳の色素が薄いし、肌も白いから黒の隊服が映えるのよねぇ」


 スカートとか、完全に戦闘むきじゃないだろうが。

 完全にお人形扱いだ。ま、ビレは見た目が良いからお人形にしたくなるのも分からなくもないような。中身はあれだが。


「つーか、キストはなんで白なんだ? 目立って仕方無いだろうが、それこそ黒とか似合うだろうが」

「差し色に黒はあるからいいじゃない。まぁ、あたしも黒と思ったけど、なんとなく白って勘が言っててね。で、数か月後にビレが入隊してきたから、正解だったわ。二人、お互いの髪色で白黒コンビになって最高だわ」


 その白黒コンビは現在乱闘中だ。


「ビアンカ、お前隊服そういう目線で選ぶなよ。目立ってどうすんだよ目立って」

「どうせ、あの二人はどんな格好してようが素材が良いんだから騒がれるわよ。だったら中途半端に目立つより、とことん目立たせた方が良いわ」


 なんなんだその理論。でもまぁ、ここまで堂々と言われるとこちらが言い返すのも馬鹿らしい。相変わらず自分勝手な可愛がり方すんなぁ。


「そうですか……そういや、ビレとキストって入隊時期近かったんだな」

「隊長なんだからそんくらい覚えておきなさいよ」

「偶然って凄いな」

「なんで、偶然だと思うのかしら。普通に考えてビレがキストの後を追って入ったに決まってるわ」


 呆れたように彼女はそういう。


「え、追って入ってきたのか?」

「ビレがここに入って説明を受けた後の初めての自由時間にしたことがキストに殴りかかることだったしね」

「わざわざ追いかけて喧嘩売るなんて……どんだけビレはキストが嫌いなんだ」

「そこでその結論に至るから、あんたはいつまでも朴念仁なのよ」


 流石にビアンカの言葉に俺はムッとする。お前にそれは言われたかねぇよ。人の心の理解度テストしたら多分お前の方が点数低いからな。


「あのなぁ、俺も普通にビレとキストが仲良くしてりゃあお似合いだ―とかおもうけどよ。あいつら、ああだぞ」


 お互い噛みついたり、引っ掻いたりして、傷だらけの二人を指さして文句を言う。つーか、そろそろ止めねぇと。


「嫌いな相手だったらそもそも関わろうとしないわよ」

「それもそうか……にしてもなんで喧嘩すんだ?」

「さぁ……とにかく止めにいくわよ」

「おう」


 そうだなまずはあいつら止めねぇと。噛み傷から汚れでも入り込んで膿んだりしたら面倒だ。




「ビレ、キスト、そろそろ止めないと飯抜きにするぞ。これ以上怪我されるもの困る」


 そう声を掛ければ、二人の動きがピタリと止まる。

 けれど、目はお互いから離されないし、まだ闘志は消えていない。


「ビレ、プリンなら今度俺の分も上げるから、キストもそろそろ止めような。二人とも怪我治療しなきゃだし」

「本当ですか? 隊長!」


 するりとキストの下から抜け出てきたビレは俺の元へ来る。単純なその様子は子犬のようで可愛らしい。



「おう、俺はプリンはそこまで好きじゃないしな」

「めっちゃおいしいですよ! でも貰えるんなら有難く頂きます!」


 本当にビレは見た目の儚さには合わないけれど、キストさえ絡まなければ素直で単純で可愛いんだよな。俺には妹がいないけれど、こんな妹が居たら絶対に可愛がる。

 キストもキストでビレさえ絡まなければ少し粗雑だけど元気な好青年だ。


「あんたはビレに甘々ね。多少はいいけれど、甘やかしすぎはやめてよね」

「お前はビレの母親か」

「ビレがあたしの子供……いいわね」

「冗談を真面目に受け取ったうえ、嬉しそうにすんな」


 唐突に始まった俺とビアンカのやり取りを、ビレは最初はポカンとその銀の瞳で見つめていたものの、


「じゃあ、隊長がお父さんで、副隊長がお母さんの家族ですね。へへ、楽しそう」


 そう照れくさそうに笑って見せるものだから、思わず頬が緩んでしまう。


「あら、うちの娘は可愛いこと言ってくれるわね」

「ビアンカとペア認識されているのはよく分からんが……まぁ可愛いわな」


 そんな風になごんでいたらキストが不満そうに立ち上がる。



「おい、さっさと医務室いくぞ。のろま」


 なぁ、なんでさっき俺らが鎮火させたのにまた着火する訳? 

 折角、にこにこ笑っていたビレの顔も一瞬で曇ったぞ。


「誰がのろまだ! そっちの傷増やしてやろうか? なんなら顔にでかい傷でも負わせてやろうか? 

そうすれば『なんでお前ばっかモテるんだ? 顔か? 顔なのか畜生!』って同期の男どもに妬まれないで済むしね! わぁ、ボクって親切ぅ」

「顔面のこと褒めてくれてどーも。おら、さっさといくぞ。それとも、血の気が多いお前は喧嘩しないと気が済まねーのか?」

「そっちが先にのろまとか言うからだろうが!」


 今のはビレの言う通りだ。

 でも、なんだかんだギャーギャーと言い合いしながら医務室に向かっているから、いいのか?


「二人とも可愛いわね」

「ごめん、今のやり取り見た後にそれを言う感覚は俺には分からん。めっちゃギスギスしてるぞ」

「あら、あたしにはとても仲良しに見えるわ。あのまま付き合えばいいのに」


 青い目で諍う二人を見てそんなことを言って見せるビアンカの感覚が俺にはよく分からん。あんなに仲悪いのに付き合えとか鬼か?



 ――翌日、医務室から「あの二人が頻繁に怪我をするもんだから、包帯やらの減りが早くなる」と苦情が入った。




***





「うんまぁ、流石に喧嘩は減らさないとだな……減らさないとだけど、どうすりゃいいんだ?」

「あたしはあの二人の喧嘩微笑ましくて好きだけどねぇ……流石に隊外から言われちゃあ仕方ないわね」


 あれを微笑ましいとか言える気が知れない。あの後、お互い噛み痕が酷くて現在二人そろって手やら腕やらに包帯を巻いている状態だ。


「……そもそも、なんであんな二人は喧嘩するんだ? しかも全力で」

「お互いがお互いに構って欲しいんじゃない? ほら、小さな男の子が好きな子に悪戯するような感じよ」


 今更ながら、ビアンカが二人をどんな風に認識していたのか知った。

 だから、微笑ましいとか言ってたのかこいつ。俺自身、好きな子虐めるとかいう経験持ってねぇからピンとこない。


「それにしてもお互いに容赦が無さすぎだろ。しかもその理論だとお互いが悪戯っ子で収集が付かねぇ」

「実際、ついてないじゃない。だから、どっちかに素直になって貰えば喧嘩も減るんじゃないかしら?」


 あ、うん。もうビアンカがあの二人をそういう目で見ていることには突っ込まないようにしよう。


「素直にって言うか、もう少し態度軟化させて貰いたいな。

 あの二人、他の連中には異性だろうが、同性だろうが、あんな過激な対応しないしな」

「ビレは普通にみんなに可愛がられてるし、キストは正直、ビレ以外の女の子には紳士対応だからモテるわ」



 知ってた。キスト滅茶苦茶モテるんだよな。

 いや、ビレもモテるんだけどよ。

 やっぱ同性な分、キストのモテ具合の凄まじさは自分や他の男隊員と違いで日々実感してるんだよ。遠征とかで町に立ち寄ると、必ず女の子に声を掛けられてるのを見るからな。


 お陰で日々、その格差を感じている男どもは、キストに容赦なく攻撃していくビレへの好感度が異様に高い。ビレとの喧嘩である程度女の子たちからの評判が下がるらしい。

 まぁ、あんな子供みたいにかつ容赦なく女の子と喧嘩してりゃあな。でも……。



「その紳士対応、ビレにもしてくれないかな」

「あたしはあの喧嘩も微笑ましいけど、そうね片方が喧嘩を買わなきゃ減るでしょうね」

「そもそも前からキストのあの容赦の無さにはハラハラしっ放しだしな」




 ビレはうちの隊の中でも男女混合でも割と上位に入るほど腕は立つが、

 キストも同じく上位に食い込む上、男女の体格差というものもある。

 ビレの見た目が華奢なのもあって、二人が喧嘩しているとキストがビレに乱暴しているように見えることがある。その上、ビレは小さくて軽いのもあって割と喧嘩の最中にキストに吹っ飛ばされる。



 そんなこんなでキストにビレに他の女の子と同じような対応をしてやってくれと頼みにいった。


 俺とビアンカは嫌がられるだろうなと思って、それを口にしたのだが、

 キストの反応は意外にもあっさりしたものだった。



「別にいいですよ」

「あ、いいのか」

「したところで別にオレは損しませんし」


 てっきりビレには紳士対応したくないのかと。つーか、こんなあっさり引き受けるくらいなら元からそうしてやれよ。



「隊長の考えていること大体分かりますけど……ま、いっか、見れば分かりますから」

「?」


 訳も分からず俺とビアンカが混乱していれば、キストはくすりと笑う。



「良い機会なんで見て貰いますよ。特にビアンカ副隊長がビレがオレのことをそういう意味で好きなのかって勘違いしているようですし」

「キ、キストなんでそのことを知っているの? にしても勘違いってどういうことよ?」


「あいつ確かに、オレを追ってこの隊に入りましたけれど、恋なんて理由じゃないですから」


 真っすぐ向けられた金の瞳に俺とビアンカは気圧されて頷いた。



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