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1 黒白少年少女は部隊の名物

 

「キスト! カエルいたよ! カエル!」


 全身真っ白な服で包まれた白髪の小さな女の子が、黒髪の男の子の黒い服の袖をそう引っ張る。


「カエルを見つけたのか?」

「うん!」

「そっか、じゃあもうすぐ春だな。ビレ、よく見つけたな」

「へへ、すごいでしょ!」


 元気な返事に男の子は優しく笑って白い頭を撫でる。女の子はそれが嬉しいかのように無邪気に笑う。


「春になったらお父さんたち帰ってくるんだよね!」

 ぴょんぴょんと二個下の女の子が地面の岩を飛び移りだすと、男の子もその後をついていく。


「そうだな。おじさんもうちの父さんも帰ってくるな」

「お父さん達帰ってきたら、お母さんもきっと元気になるし、みんなでご馳走食べられるね」

「おばさんは心配性だからなぁ。父さんたちは強いのに」


 女の子の言葉に男の子がそう仕方ないなと言う風に反応すれば、女の子は明るい声で「でも、もうすぐ帰ってくるから大丈夫だよ! ビレ、お留守番中良い子にしてたもん」とまた返す。


「そうだな、あ、そこ気を付けろよ――って⁉」

「⁉」


 女の子が足場にしていた岩が昨日の雨の所為で緩んでいたのか崩れる。


「言った傍からやりやがって」

「落ちてないよ!」


 ふるふると首を全力で横に振る自分の腕の中の女の子に対して、男の子はため息を吐く。


「そりゃ落ちずに済んだからな。オレが間に合ったから良かったものの……」

「ナイスキャッチ!」


 男の子に抱っこされ足が宙に浮いている状態で、女の子は指でグッジョブと形作って見せる。


「そうじゃねーだろ。気をつけろ」

「でも、キストいれば大丈夫だよ」

「オレは便利道具か」


 当たり前のように言って見せる女の子を安定した足場に置いた後、男の子は彼女の白い頬っぺたを引っ張ってみせる。


「ひはいひはいっ、ほっへはほひふっへはー!」

「はは、何言ってんのか分かんねーよ……わかったわかった離すからそんな睨むな」


 ぱっと男の子がそう手を離せば、女の子は引っ張られて少し赤くなった頬をさする。


「便利道具じゃないけど、ボク、キストが一緒に居ればなんも怖くないよ」

「そうかよ……とっとと帰るぞ」


 女の子がぽつりと口にした言葉に、素っ気なくそう言うと男の子は先に行く。


「うん!」


 元気に返事をした女の子は気づかなかったが、男の子の耳は寒さのせいか赤くなっていた。


 これが5年前の話。






 ***





 俺の部隊には名物とも言えるような二人の若者がいる。


 一人はキストという17歳の少年だ。

 きりっとした顔つきに、黒い短髪に金の瞳。最初、入ってきたときには偉く綺麗な子が入ってきたと思ったのだが、その綺麗さとは裏腹に性格は粗雑だった。

 これには、彼を見て噂していたお嬢さん方も幻滅するかと思いきや、「その差がいい」らしい。駄目だ、女心はさっぱり分からん。顔が良いとなんでもいい方向に解釈される。


 もう一人はビレという15歳の少女だ。

 可愛らしい童顔に、白い長髪に銀の瞳。その容姿と低身長もあって最初は妖精だとか天使だとか部隊の男どもは騒いでいたが、これがとんでもない跳ねっかえりだった、一人称もボクだし。

 見た目とのギャップに引く連中もいるが、その素直で天真爛漫な様子に絆された連中もいる。可愛いってなんだかんだで正義なんだよな。って、こっちも結構見た目修正が入ってんな。他人のこと言えない。


 さて、この二人が有名なのはその容姿の良さもあるが、一番はこの二人の絡みが原因である。




「おい、ビレ! 落とし穴なんてわざわざ作りやがって!」

「わあ、さっすがキストは馬鹿だね! 見事に嵌ったんだぁ、ざまぁみろ!」


 白の隊服を土まみれにしたキストが怒り心頭で訓練場にやって来れば、端に座って休憩をしていたビレが待ってましたとばかりに手を叩く。

 銀色の瞳を輝かせて笑うその顔は愛らしいものの、笑っている理由が全く可愛くない。


 その様子を見ていた他の連中は巻き込まれるのは面倒とばかりに二人から離れる。


「正攻法で勝てねーからって、卑怯な手を使いやがって!」

 そう言いつつ黒髪の少年は白髪の少女の腹に蹴りを入れる。


 相変わらず女の子相手に容赦の無い一撃だ。

 最初は流石にそれはいけないと思って止めてたんだが、今となっては日常茶飯事だし、止めたら止めたでそっちの方が厄介だ。それに少女の方も黙ってやられないしな。


「ぐえっ……いったぁ……つーか、正攻法でボクがお前に勝てねぇとかなんで勘違いしてんだし、ボクの方が強いだろ!」

 そう言うやキストの胸倉を掴んだ後、頭突きをかます。


「いっつぅ! 中身スカスカなのに固い頭しやがって! てか、はぁ? 誰がオレより強いだって? オレの方が強いに決まってんじゃんおチビちゃん」

「そっちの方が頭スカスカじゃんか! チビでもないし! そっちが頭の養分吸い取られて無駄に身長に回ってでかいだけだし! バーカ、バーカ!」


 頭を押さえながらキストが挑発すれば、同じく頭を押さえたビレが挑発し返す。


 子供か、お前ら。


「誰が馬鹿だ。近所のパン屋に行くまでの道で迷子になったのはどこの誰だ」

「五歳の頃の話持ち込んでくるなし! そんならボクだって知ってんだからな、お前がおねしょした時に『昨日雨が布団の中に降ったの』って誤魔化そうとしたことがあるっておばさん言ってたぞ! 雨降ってたって、お前が降らしたんだろ」

「あんのババア! つーか、それこそオレが4歳の頃の話じゃねぇか! 持ち出してくんじゃねぇ!」




 しかも、こいつら同じ村出身の幼馴染なので争うネタを昔からでも容赦なく引っ張り出し合う。


「おお、流石に恥ずかしかったでちゅかー、顔真っ赤でちゅねー。あとババアはよくないよ」

「おまっ……ババアって言うのは確かによくねぇけどよ、そうかそうか、お前がその気ならこっちだって言ってやんよ」


 べーと舌を出して揶揄う少女にやられっ放しなのは気に食わないのか、黒髪の少年がにやりと笑う。


「は? 何を?」

「あれは確かお前が五歳の頃でした『キストが世界で一番恰好いいね』……あの頃はまだ可愛げがあったのになー」

「そ、そっちの妄想だろっ? あ、あることないこと言いやがって!」


 顔真っ赤にしてしゃがみ込んでる時点でビレの言葉に説得力はない。

 なんだかんだでキストの方が微妙に上手ではあるんだよなぁ。ビレにそう思っているとバレたら拗ねられそうだけど。

 あと、ビレをいじる為とは言え、自分への褒め言葉を照れもせずに言えるって凄いな。


 そんで黒歴史暴露大会だな。二人とも結構な声量で言い争うもんだから、ここにいる俺の部隊の連中に筒抜けだぞ。

 まぁ、こっちとして何か反抗してきたときの切り札として使えるから良いんだけどな。普通に面白いし。


「本当に……なんでこんなクソ生意気なガキになっちまったんだ……オレはとっても悲しい」

「うるさいな! このっ」

「いって⁉ 噛むんじゃねーよ! お前は獣か!」


 15歳の美少女が17歳の美少年の手に噛みつくなんて異常な光景、普通だったら一生見ることは無いだろうに、俺や他の隊員は見慣れてしまっている。


「お前の所為で歯形ついたじゃねーか! くそっ」


 ここで文句を言って普通は終わりにするだろうが、うちのキストはビレにそんなに甘くない。

 むしろ容赦の無さは同期の男が喧嘩を売ってきた時より強い。勿論、噛み返した。


「いった! やったな!」

「お前が先にやってきたんだろうが! 落とし穴なんて作りやがって!」

「そっちが朝食のプリン奪ったからじゃん! 月に一回しか出てこないのに!」

「お前が昨日――」




 あーあ、取っ組み合い始まったか。

 身長的にも男女差的にもキストが有利だから、ビレがマウント取られてる。それでも闘争心は強いから、普通に応戦しているな。


 絶対こいつら訓練より力使ってる。まぁ、二人とも真面目に訓練はやるんだけどさ。


「なぁに、あの二人またやってるの?」

 訓練場に入ってきた副隊長のビアンカが赤毛の髪を振り払いながら、そうため息を吐く。


「ああ、やってんな」

「ビレの隊服は黒だからいいけど、キストの隊服は白だから汚れが目立つから私服に着替えてやって欲しいわね」


 そういう問題じゃないんだよな。相変わらずこの女は見方がズレている。

 昔、負傷したせいで右目は眼帯されてるが、左目は視力を保っているのにから物理的な問題じゃなく、思考回路的な問題だろう。


 まあこの女がぶっ飛んでるのは昔からだし、そこを突っ込むのも面倒だ。


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