第6話:リクガメ?
朝になり目が覚めた。いやこの表現はおかしい。ダンジョンなのでずっと薄暗い。光苔のようなものがあるおかげで真っ暗ではない。
そしてその光苔より明るいのがあたしである。
よく魔物に見つからずに寝れたな?
自分の思いもしない神経の図太さに意外であった。
自分一人ではないことを思い出し、アクアの方を見つめる。
するとそこには水色のリクガメのような魔物がいた。ディテールはのっぺりとしているが。あたしは驚き硬直する。すると声をかけてきた。
「おはようございます。シトリン」
その声に聞き覚えがある。アクアだ。
「え? アクア? その姿どうしたの?」
「魔力操作で自分の身体を操作したんですわ」
「姿を変えられるってこと? 人間の姿にもなれる?」
「いえ、まだ魔力操作が低いのでこのくらいが限界ですけどね」
あたしも試してみることにした。
「ぐぬぬ」
相変わらず力む。すると少しずつ変化していく。そして変化の終わりを感じた。
自分の身体を見回してみる。四本足という感覚はあるが全貌はわからない。
「ねぇ、あたしの姿どうなった?」
「ちょっと待って下さいね」
そう言うとアクアは岩に寄り添って水鏡になってくれた。
水鏡を覗き込む。アクアと同じくのっぺりとしたリクガメの姿をしている。ただし、あたしの方は光るリクガメだが……。
「これ、何かに変身したの? こういう魔物がいたりする?」
あたしは疑問を口にした。
「さぁ? どうなんでしょうね? 実在するかはわからないですけど、移動はしやすくなったと思いますわよ?」
言われてみると今までふわふわ漂っていた感じよりもズシンと体重を感じる。これなら安定して進めそうだ。
ズシンと言ってもそんなに重くないよ?
「では行きましょうか」
アクアに促されて移動を開始する。今までの身体――と言えるかわからないが――よりも速く移動出来る。
まぁ速くと言っても形がリクガメなので、そのくらいと想像して欲しい。
歩いていると危機察知スキルが反応した。後ろの方からだ。
首を曲げて後ろを振り向く。既に背後には頭が魚の魚人が、手に銛を持っていた。
「ア、アクア! 後ろ!」
あたしの叫び声に反応して、アクアが後ろに振り返る。
「あら、こんにちは」
魚人は黙って立っている。アクアは平然としているようだが、それは口調で判断したにすぎない。なにしろのっぺりしているから顔もないしな〜。
すると魚人はくるりと背を向けて帰って行った。
「え? なんで攻撃されないで無事なの?」
「同じ水中生物だからでは?」
まぁ確かに属性で言えばアクアは水属性だろう。ということは、ここはアクアにとっては地元みたいな場所だけど、あたしだけアウェーなのか?
アクアの側にいればこのフロアでは攻撃されることはなさそうだ。
あたしは友達アピールする為に、アクアにぴったりと寄り添うように歩いた。