天然くんはエリート彼氏にメロメロに溺愛されています
大学進学を機に田舎から上京して、一年目の夏。
一人暮らしにも慣れてきて、バイト先でも仕事を一通りこなせるようになった。
東京での大学生活には不安があったけど、楽しく過ごせているのは、将のおかげだ。
将は僕の一つ年上で、同じ大学の先輩で、バイト先も一緒。
そして、二ヶ月前に告白されて、お付き合いを始めた。
僕は今まで誰とも付き合ったことがなかったから、将が初めての彼氏だ。
将は、茶髪にキリッとした瞳がカッコよくて、顔立ちも整っている。明るくて気さくで、面倒見もいいから、すごくモテるんだ。
僕なんて、生まれつきのミルクティーみたいな髪色と童顔のせいで、今でも中学生に間違えられたりするのに。
子供っぽい僕とは違って、将は大人びていて、すごくしっかりしてる。
よく気が回るし、助けられることも多い。
この前、お盆のときに帰省したいって相談したら、バイトのシフトを調整してくれた。
そのうえ、僕が気づかないところまで、先回りして提案してくれる。
「五十鈴、実家に土産買って帰るだろ? 店分かんないだろうし、買い物付き合おうか?」
お土産のことは思いつかなかったから、慌てて将にお願いしたところだ。
今日は僕も将もバイトが休み。
午前中は洗濯と掃除、帰省の準備をする。お昼前に将が僕の家にやってきて、一緒に素麺を食べたあと、買い物へ行くことにした。
でも、その前にアイスを食べに行くんだ。
せっかく出かけるならデートしたいって言われて、将が好きなアイス屋さんに連れて行ってもらうことになった。
僕、アイスは有名なチェーン店のしか食べたことない。
田舎だから、アイス専門のお店って、そんなになかったし。
どんなアイスがあるのかな?
たくさん種類があるって聞いたので、楽しみ。
「五十鈴、次の新宿で降りて、乗り換えるから」
「うん」
座ってる僕に、将が声をかけてくる。
京王線から各駅停車の電車に乗って、新宿へ行くまでの行き方は慣れている。
バイト先が、新宿駅の近くだから。
でも、そのあとの乗り換えはいつも将任せだ。
上京してもうすぐ半年になるけど、いつも通ってる大学とバイト先以外のルートは、乗り換え案内のアプリを使わないと分からない。
将はずっと都内に住んでるから、道案内は頼りっぱなしになっちゃう。
しかも、将はいつも僕に席を譲ってくれるんだ。
今も、僕の前でつり革をつかんで立ってる。
将を見上げると、目が合った。
「どうした?」
「ううん」
目が合っただけなのに、ちょっとドキドキする。
だって、将はイケメンなんだもん。
着てる服もオシャレだなって思う。今日は紺色の半袖シャツに、黒のデニムを合わせているけど、すごく似合っていた。
僕なんて、いつもと同じミントグリーンのカットソーに、ベージュのサマーカーディガンだ。小柄なせいでオーバーサイズになってる。
それにピアノ柄のショルダーバッグをななめにかけて、クロシェットの小さいぬいぐるみを下げている。僕の大好きな羊のキャラクターなんだけど、子供向けのイメージが強いから、よけいに幼く見えちゃうかもな。
「五十鈴、降りるぞ」
「あ、うんっ」
ぼんやり考えていると、将に肩をたたかれた。
いつの間にか電車は駅で停まっていて、急いで立ち上がる。
さりげなく手を握られて、そのまま電車を降りた。
将の手のひらは熱くて、クーラーの効いた電車の中にいたのに、汗をかいている。
暑がりだって知ってるけど、大変そうだなぁ。
もちろん、将が繋いでくれた手を離すわけないけど。
「将、どれに乗るの?」
「山手線に乗ろう。少し時間かかるけど、あとは乗り換えしなくていいからな」
「分かった」
山手線は何度も乗ってるから、ちょっと安心だ。
将と一緒なら、時間が退屈なんてこともない。
乗り換えてから目的地まで、将とおしゃべりしていたので、あっという間に店に着いた。
駅直結の商業ビルの中に、目的のカフェがあった。
入り口の看板には、アイスのメニューが載っていて、写真を見るだけでもおいしそうだ。
アイスだからテイクアウトなのかなって思ってたけど、中に入って食べるスタイルらしい。
席は自分で選べるみたいで、将は窓側に近い、二人がけのテーブルに座った。
女性客が目立つけど、一人で来てる人や、男性客もちらほらいる。
辺りを見渡している間に、将がおしぼりと水を持ってきてくれた。
「はい、五十鈴」
「ありがと」
「メニュー表はこれ」
「うん」
アルバムみたいなメニュー表を渡される。
ほんと、将ってスマートで気が利くよね。
メニュー表を開くと、アイス以外にもいろいろ載っていた。
「ランチもあるんだね」
「俺は食べたことないけどな」
「アイスだけ?」
「あと、ドリンク。セットになってるんだ」
「あ、飲み物もいろいろあるんだ」
テーブルにメニューを広げて、将と一緒に見る。
アイスはいろんなフレーバーがあって、どれもおいしそうで迷う。
写真を見ながら悩んでいると、向かいに座った将がアドバイスをくれた。
「トリプルにしたらどうだ?」
「でも、そんなに食べないかもしれないし」
「五十鈴が残したら、俺が食べてやるよ」
「いいの?」
「ああ。せっかく来たんだから、色々食べたいだろ」
「うん」
将の優しさに甘えて、フレーバーを三つ選ぶことにする。
けど、選択肢が三つに増えても、まだ絞りきれない。
「うーん……」
食べてみたいのが、たくさんある。
季節限定のは食べてみたいけど、定番のだって、おいしそうだし。
メニュー表とにらめっこしていると、将が笑いながらたずねてきた。
「どれで悩んでるんだ?」
「えっと、これ」
悩んでるフレーバーを指す。
どちらも、この時期にしか出ないだろう季節限定のフレーバーだ。
「スイカもおいしいと思うけど、イチジクもすごく気になるんだよね」
「じゃあ、これは俺がスイカを注文するから、五十鈴はイチジクにすれば?」
「え?」
「俺の分けてやるから」
「いいの!?」
将を見上げると、笑顔でうなずいてくれる。
「やった! ありがとね、将」
どっちも食べたかったから、嬉しい!
将って、ほんと優しいよね。
「ドリンクは、ジンジャエールでいいか?」
「うん!」
僕の好きな飲み物も覚えててくれてる。
注文は、店員が聞きにくるんじゃなくて、スマホでするみたい。でも将があっという間に注文してくれた。
店内はそれほど混み合ってなかったから、すぐに番号を呼ばれる。
将は「取ってくる」と言って、カウンターまでアイスとドリンクを取りに行ってくれた。
こういうところも、カッコいい。
何をするにもスマートなんだよね。
戻ってきた将がトレイをテーブルに置く。
ワッフルコーンのアイスと、ガラスのカップに入ったアイス、それに飲み物が乗っている。
「五十鈴はこっちな」
「わぁっ、おいしそう!」
スタンドに乗ってるコーンが、僕のアイスだ。
選んだのは、バナナ、イチジク、ストロベリー。
将のは、白いお皿の上に、ガラス製のアイスクリームカップがのせてあって、中には丸い形のアイスが三つ乗っている。
お皿に金色のスプーンが添えてあって、可愛い。
将のフレーバーは、ダークチョコレート、スイカ、ヘーゼルナッツ。
飲み物は、僕がジンジャエールで、将はアイスコーヒーだ。
お店で食べるアイスは初めてじゃないけど、将と一緒だからワクワクする。
「じゃあ、食べようか」
「うん!」
スタンドからアイスを取って、早速スプーンですくう。
三種類のフレーバーだから、ぎゅっとおさまってるけど、ちょっとずつスプーンで食べた。
それぞれ味がしっかりしてて、夢中になる。
「んーおいしい!」
「良かった。スイカも食べるだろ?」
「たべる!」
顔を上げると、将がスプーンにすくったアイスを差し出してくる。パクッと食べると、スイカの味が口に広がった。
これもおいしい。
「スイカだね!」
「ああ」
将が嬉しそうに笑う。
スイカ以外も、味見させてくれた。
チョコレートとヘーゼルナッツも甘かったけど、アイスだからさっぱりしている。
「将のアイスも、甘くておいしいね」
「だろ」
将が得意げに笑って、アイスコーヒーを飲む。
僕はコーンの上に乗っていたアイスを食べ終わると、スプーンをおいて、こんどはそのままコーンにかじりついた。
ワッフルコーンだから甘みもあって、ザクザクした食感のおかげで、アイスがよりおいしく感じる。
「そういえば、なんで将はコーンじゃないの?」
「ん?」
「コーンタイプの、あんまり買わないよね?」
スーパーで買うのも、カップアイスが多い。
「カップが好きなの?」
「まあ、そうだな」
曖昧にうなずいているけど、なぜかちょっと遠い目をしている。
「何か理由があるの?」
「……これいうと、笑われるから嫌なんだけど」
「え? 僕は将を笑ったりしないよ?」
僕を他の人と一緒にして欲しくない。
そう思ってじっと見つめると、将は苦笑して口を開いた。
「俺、もともと体温が高いだろ?」
「うん。暑がりだもんね」
「手のひらもかなり熱いんだ。子供の時はよく、ソフトクリーム食べてる途中でアイスが溶けてさ」
「えっ、そんなにすぐ溶けちゃうんだ?」
「溶ける。ソフトクリームは最後まで食べられたことがないし、手も服も汚れて散々だったからな。食べないようにしてるんだ」
僕は自分の握っているコーンを見たけど、アイスは少し溶けてるくらいだ。
「でもこれ、下まではアイス入ってないよね?」
「そうだけど、苦手意識がな……」
将はまた遠い目になってる。
コーンタイプのアイスがトラウマになっちゃったのかな……大好きなアイスがすぐに溶けちゃったら、悲しいもんね。
「そっかぁ」
僕だったら、しょぼんってしちゃう。
切ない気持ちでコーンを眺めていたけど、ふとひらめいた。
「そうだ!」
「うん?」
「将、僕が持っててあげる!」
僕の手なら、アイスはすぐに溶けない。
右手に持っていたコーンを将の口元に向ける。
「はいっ。食べてみて、将」
これなら将も、安心して食べられるはず。
名案だよね!
将を見上げる、驚いた顔で目を瞬かせた。
あれ? 僕、変なこと言ったかな?
「将?」
首をかしげると、将はすぐニッコリと笑った。
「ありがとな、五十鈴」
「うんっ」
「じゃ、こうやって食べるよ」
将は、コーンを握っている僕の右手を、両手でぎゅっと包み込んできた。
「ふぁっ!?」
びっくりしている間に、将がパクッとコーンの先を食べる。
将の手は、とても熱かった。
手を繋ぐのは慣れてきたけど、両手で包み込まれるのは、また違ったドキドキだ。
アイス食べてるのに、体が熱くなってくる。
「あ、あの……将?」
「うまいな」
「う、うんっ」
「これからアイス食べる時は、五十鈴に持っててもらおう」
「あ、えっと、うん……いいよ?」
僕が言い出したことだから、イヤとは言えない。
でも、毎回こうやって握られるのかな?
それはちょっと、鼓動が速くなっちゃうから、遠慮したいな……!
「五十鈴のアイス、うまかった」
「あっ」
将が僕の右手からスッと離れた。
あの熱はなくなったけど、僕の心臓の音は落ちつかない。
アイスを食べに来たのに、将のせいで暑くなっちゃったよ。
残りのアイスを少しずつ食べていると、先に食べおえた将が笑顔でたずねてくる。
「五十鈴、ここのアイス気に入った?」
「うん。どれもおいしいよね」
他の味も気になるし、また食べてみたい。
もちろん、将と一緒がいいけど。
ちらっと窺うと、将は目を細めて、優しく微笑んだ。
「夏休みのうちに、またアイス食べに来ような」
「うんっ!」
将との約束に、大きくうなずく。
夏休みはまだ半分も残っている。
将と、いろんなところに行けたらいいな。
「あ、五十鈴」
「ん?」
「デートもいっぱいしような?」
「!?」
「楽しみにしてる」
将の言葉にカァッと顔が熱くなる。
でも、そっか。
将は僕の彼氏なんだから、ただのお出かけじゃなくて、デートになるんだ。
デートなんてしたことなかったから、ちょっとくすぐったい。
「僕も、楽しみだよ」
そう伝えると、将はとっても嬉しそうに笑ってくれた。
(終)
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