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1 変貌


 「リツカ様・・少し雰囲気が変わられたわね」

 「ええ、何というか・・ワイルドな感じになられましたわ」

 「相当お酷い事故だったようよ。・・心配ね」

 「そうですわね。・・ああ、そういえば、それで思い出したのですけれど。知ってまして?実は・・」


 「リツカ王女・・・なんだか前とは雰囲気が違うな」

 「ああ。前は誰にでも優しく、溌剌と元気な方だったが・・今の王女様はなんというか、手負いの獣のように鋭い雰囲気があらせられる」

 「あんな人は急に変わるものなのか?・・まさか、国同士で何か動きがあるのでは・・。やっぱり、――様の言っていた通り、」

 「おいおい・・・考えすぎだろ。それに・・・あんなものはただの陰謀論に過ぎない」


 某日――学園内には異様なざわめきが沸き起こっていた。

 無論、ざわめきの原因はひとつ――一か月に及ぶ療養を得て学園に戻った、ニュートラリア王国第四王女リツカの変貌。それに他ならない。


――


 (お高く留まったガキばっか・・)


 立夏はというと、生徒たちのざわめきなど知らず、一人屋上で持たされた弁当を食していた。

 (まあ、鼻にはつくが害はねえし。別にいいんだけどな)

 少なくともいきなり泥水の入ったバケツを頭にぶちまけられたり、上履きに画鋲を入れられることもない。弁当にも指一本として触れられていないようだ。

 (メシはウマいしベッドは柔らかい、きたねえジジイやうるせえオッサンとヤる必要だってねえ。それに、この体になってから妙に身体も軽いし頭も冴えてる・・魔法とやらが使えるかどうかはまだ試してねえが。・・まあ、面倒ごとも多いが悪くはねえな)

 柔らかな牛肉にがぶりつきながら、そんなことに頭を巡らす。


 遠くから学生の騒ぐ声が微かに聞こえた。二度と着ることはないと思っていたブレザーに身を包み、アスファルトの地面に座り込んで、ぼんやりと空を眺める。異様な世界だが、空だけは見慣れた青に染まっている。

 (眠い・・・サボったら流石にマズいか?)

 思えば、学生時代は本能のままに動いていた。腹が減れば授業中でも弁当を取り出し食らっていたし、眠ければ教室を抜け出してどこか適当な場所で眠りについた。そのうち学校に行くことすら無駄なことのように思い、サボるようになった。

 きっとそういう人間はありきたりであるのだろう。山というのは登るのは難しくとも、ただ転げ落ちるだけなら余りにも容易だ。思えば、広瀬立夏の人生とはそういうものだった。


 (・・・授業、受けるか・・・)


 無断で授業をサボったとあれば、あの執事の坊やもきっと口やかましいに違いない。弁当箱の蓋を閉め、現世にいた時よりも長い脚を曲げて立ち上がろうとした。その時だった。

 扉が、がちゃりと音を立てて開く。誰もいなかった空間に突如として現れた訪問者。その存在に、反射的に身体を硬直させる。


 現れたのは、今迄立夏が見たことのないほどに美しい青年だった。――美しいと言えばあのイヴァンもかなりの美青年であったが、彼は比ではない。すらりと高い背丈を包む制服、陽の光に当てられきらきらと輝く銀髪。通った鼻筋に、色素の薄い肌に乗った自然的な紅色の唇。作り物のように整った顔に、ぎらぎらと輝く赤色の瞳。

 ――職業柄、美しい容貌の人間は男であっても女であっても、それなりに見てきた。今自分が手にした肉体、モニカやイヴァン、ついでにあの女神を名乗る痴女レベルの存在――つまり芸能人レベルの美形であれば、――彼らは自然的にこうなったこの世界の住人とは異なり莫大の金と努力を掛けているのだろうが、それでも――観測はしたことがある。

 だが――目の前の男は、次元が違う。精巧な人形であると言われても信じられるほどの圧倒的な美貌。それは最早芸術品の域に達していた。最早、劣情や嫉妬すらも生まれない。


 (バケモン級のイケメン・・・)


 「・・・リツカ」

 「アタシ?」


 男がこちらを鋭い視線をくれる。

 ――リツカの冴えた頭が、すぐに結論を導いてくれる。――並外れた美貌。自分を認知する存在。彼はすなわち、「攻略対象」というやつなのだろう――と。

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