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迂闊うかつだったのは、私も同じです。もう少し早く気付いていれば……」


「いえ。アナタに非はありませんよ。アナタはもう、充分過ぎる程やっています――?」


 ふと、視線を下に落として見れば、エメの腕に、上条は変化を感じた。よく見れば、その腕は肘から下が黒く、変色し始めていた。


「エメさん……その腕は」


「っ! だ、大丈夫です。まだ、気にするほどのことじゃないですから。――それよりも」


 伝えることがあると、エメは真剣な表情で上条を見た。




「もうすぐ――レイナ様が現れます」




 途端、上条は間の抜けた声を出した。

 レイナが……現れる? そんなこと。

 どういうことだ、と上条は困惑した。


「これは、私たちに伝えられた予知なんです。王華の長は、いずれ箱を手に入れ、レイナ様を蘇らせます」


「!? そのような、こと……一体、どうやって」


「赤の命華の血と、レイナ様の子の血があればいいんです。幸か不幸か、レイナ様の子は赤の命華として生まれ、尚且つ女。蘇らせる以外でも、あちらにとっては好ましい存在になっていますがね」


「しかし、箱に触れられるのは、華鬼の長だけではないのですか? 封じたのは、彼女なわけですから」


「――――だからこそ、ノヴァがいるんです」


 悔しそうに。けれども愛おしそうに。エメは、どこか遠くを見ていた。


「ノヴァは、華鬼の長と、王華の長の子どもなんです。だからあの子なら、箱に触れることが出来る。とは言っても、無傷で済むことは無いでしょうがね。――私もそろそろ」


 行きます、と言い外へ出ようとするエメ。それを、上条は腕を掴み止めた。


「そのままでは危険です。今、薬を持って来ますから」


「私には不要ですよ。まだ、落ちるには時間がありますし。――それに、あちらにいる者たちをまとめるには、このままの方が都合がいいですよ」


「そうだとしても、万が一、理性が戻らないとも限りません。影ならまだどうにか出来るかもしれませんが……やはり念の為、薬を飲んで下さい!」


 何度も勧められ、エメはようやく、上条の言葉に頷いた。


「本当、リヒトさんは優し過ぎます。私は本来、生きてるはずの無い者なのに」


「それは、アナタが自ら望んだことではありません。アナタだってまだ、生き続ける可能性があるのですよ」


「……だと嬉しいですけどね。精々、足掻いてみます」


 そう言い、エメは外へ出た。姿が見えなくなるまで、上条はじっと、外を眺めていた。




「シエロ……君は、私を恨んでいるだろうか」




 自分のしてきたことは、果たして正しかったのか。

 そんな考えが、上条の頭を駆け巡る。ここまで来たら、最後まで進むしかないことはわかっているのに。心の整理が、なかなかついてくれなかった。


 ◇◆◇◆◇




「――この辺りでいいでしょう」




 連れて来られたのは、小さな川が流れる場所。周りには高い木々が生い茂り、空を見上げれば、青い月が輝いていた。


「ここで、何をするんですか?」


「すぐに分りますよ。――決して、そばを離れないで下さいね」


 危ないですからと、私を下ろすなり、不吉な言葉を言う少年。すると、遠くから慌ただしい音が聞こえ始めた。

 草木を踏み鳴らし、獣のような声が木霊する。

 怖くなった私は、少年の背中に隠れるように身を隠した。


「――――来たようですね」


「来たって一体っ?!」


 何が? と言いかけて、私は言葉をやめた。

 周りには、いつのまにかたくさんの獣や、あの時の影のような者が集まっていた。


「みな、あなたの匂いに惹かれたのですよ」


「私の、匂い……?」


「そうです。あの部屋にいれば、これらは侵入してきません。――ご理解いただけましたか?」


「こ、こういうことなら、わざわざ連れて来なくてもっ」


「説明するより、体験する方が早いと思いまして」


「グルゥ……グルゥ……」


「っ! も、もうわかりましたから!」


 早く帰りましょうと言いながら、少年にしがみ付く。

 その間にも、獣や影は距離を詰め、私たちを狙っている。


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