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私から出る匂いが、狙う人たちを惹きつけてしまう。今まで抑えていたわけだから、それが解禁される瞬間は、特に注意をしないといけない。自分ではどんな匂いなのかわからないし、その瞬間がどうやってくるのかもわからないから……だんだんと、恐怖が湧いてしまう。
「――――来て、くれないかなぁ」
今日は、先生以外誰とも会っていない。しんと静まり返った部屋が、恐怖を増長させていく。
――叶夜君、来てくれないかなぁ。
昨日来てくれたから、もしかしたら今日も、なんて思ってしまう。
ふと、視線が左手にいく。
離れても、呼べば来てくれるって言ったけど……こんなことで呼んだら、悪いよね。
――だけど。
ちょっとだけ。ちょっと思うぐらいは、いいよね?
そっと、左手を握り目を閉じる。
〝会いに――来てほしいな〟
心で思うと、じんわり、左手が温かくなるのを感じた。――すると。
「――――呼んだか?」
目の前に、今考えていた人物が現れた。
「な、んで――」
「声が聞こえた。俺に、会いたかったんだろう?」
「す、すみません! 特に用事もないのに、呼んでしまって……」
「問題無い。ちょうど、ここに来るつもりだった」
窓をくぐると、ベッドに腰を掛ける叶夜君。その様子はいつもと違って、どこか、神妙な面持ちのように感じた。
「もしかして……何か、危険があるんですか?」
不安を口にすれば、叶夜君は首を横に振る。
「危険は無い。ただ――今から、向こうに行くことになる」
向こうにって……ここから、出てもいいの?
「ま、まだ回復していないのに、外に出るなんて――?」
途端、体から力が抜けていく気がした。
体はベッドに倒れ、これでは行けそうにないと告げれば、叶夜君は問題無いと言い、私を抱えた。
「……こんな、状態じゃ」
匂いが強くなれば、襲われる確率だけでなく、叶夜君にかかる負担も大きくなってしまうのに。
「叶夜君、に。迷惑が……」
徐々に視界が歪んでいき、瞬きをするのも重くなる。
「早く――行こう」
そう言った後の叶夜君の表情が……どうしてか、泣いているように見えた。あまりにも辛そうに見えたから、なんとか手を動かし、
「どうし、たの……?」
そう問いかけ、そっと、叶夜君の頬に触れる。途端、手になにかが伝った。よく見れば……それは、叶夜君の涙だった。
なんで……泣いてる、の?
その疑問に答えることなく、叶夜君は黙って、部屋を飛び出した。




