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◇◆◇◆◇


 公園まで来ると、私はベンチに座っていた。別に体調を悪くしたわけではなく、どうしてか、ここで待っているよう言われてしまった。ちょっと退屈し始めた頃、自分の方に走って来る一人の姿が見え――それが次第に、あの少年だというのがわかった。


「ごめんねぇ~。はい、コレお詫び」


 そう言って、少年は私にフルーツの缶ジュースを差し出してきた。


「そんな、あなたにそこまでしてもらうなんて」


「気にしないの。ってか、名前で呼んでよ。呼び捨てなら尚いいけど」


 私に缶を渡すと(半ば強引に)、少年は横に座り、ジュースを飲み始めた。

呼び捨てって言われても……。見た目、私より年上に見える。いきなりそんなことはできないし、なによりまだ、少年を信用しきれないでいた。


「呼び捨ては、ちょっと……。私より年上ですよね? せめて、「さん」付けでないと」


「年上なのは合ってるけど、な~んかよそよそしいんだよね。ま、美咲ちゃんがそれで呼びやすいならイイけどね」


 私のことをなぜ知っているのか気になるけど、少年が――もとい、雅さんがあまりにも普通に接してくるから、もういいかなと、諦めにも似た感情がわき始めていた。とりあえず今は名前のことよりも、核心をついたことを聞くべきだろう。


「……あのう」


 問いかける私に、雅さんは視線をこちらに向け、ん? と小さく首を傾げる。


「今日会いに来たのは……襲うため、ですか?」


「はははっ! ストレートだねぇ~。安心してよ、襲ったりしないから。オレが美咲ちゃんに、興味があるんだよ」


 笑顔で言われ、私は少し呆れたようにため息をついてしまった。

 デートの理由にはなってる気がするけど……なんだか納得いかない。


「別に……私に面白いところはないですよ?」


「オレからしたらあるんだよ。例えば――」


 手にした缶を置くと、すっと耳元に顔を近付けるなり、


「オレと同じ病気、とかね」


 と、なんとも艶のある声でささやいた。

 恥ずかしさと驚きで思わず後退すれば、さっきまでの雰囲気とは一変。雅さんが、あの夜のように大人びて見えた。


「お、同じ、って……」


「ウソじゃないよ。ま、急に言っても信じられないだろうけど」


 そう言った後の雅さんは、また明るい雰囲気に戻っていた。

 もし……もし本当に同じなら、私も、二人のように動けるの?

 確かに私は、二人に興味をもってる。あそこまでの身体能力が欲しいってわけじゃないけど、ちょっと長く走れるぐらいの体力は欲しいと、そう思った。


「ふふっ、興味持った?」


「……それが、本当なら」


「ウソなんて言わないよ。それにほら、こうやって話してるんだから、もう友達でしょ? 友達にウソなんて言わない言わない!」


 片手を握りながら、雅さんはなんとも嬉しそうに私を見た。同じ悩みを持つ友達ができるのは嬉しい、けど……。


「あ、顔赤いねぇ~。照れてるの?」


 口元に手を持って行かれ、どうなの? と、意味深な視線を向ける雅さん。

 私は声にならない声を上げ、ただおろおろとしていた。

 さ、さすがにこれ以上は……!もう限界だと、これ以上のスキンシップをやめてもらうために、なんとか言葉を振り絞った。


「あ、あのう……」


「今度はな~に?」


 相変わらず笑顔の雅さん。未だ私の手を離さず、しっかりと握り締めている。


「私……こういうのは、苦手です!」


「こーいうのって――コレのこと?」


 握っている手を持ち上げ、確認をとる。それに頷けば、渋々ながらも、雅さんは手を放してくれた。

 ――意外、だなぁ。もっとしつこいかと思ったのに。でも、やっぱり残念だったのか。雅さんは、どこか拗ねたような表情をしていた。


「これぐらいイイと思うんだけどなぁ~」


「そ、そうかもしれませんけど……そういった経験が無いから、苦手なんです」


 その言葉に、雅さんはすかさず興味を示す。


「そういった経験って、なんなのかなぁ~?」


 ニヤニヤと怪しげな表情を浮かべ、どういうことなのかと問い詰めてくる。


「だ、だから……男の人と手を繋いだり。――こ、こうやって過ごすことがですよ!」


 距離を詰めてくる雅さんの肩を押し返し、私は強めに答えた。


 少しでも隙があると、どうやらくっついてくるみたい。……気を付けないと。


「へぇ~。じゃあ美咲ちゃん、彼氏いなかったんだ?」


 当たっているだけに、なんと返していいものか困ってしまった。

 やっぱり、この歳で一回も付き合ったことがないって、珍しいのかなぁ。


「中学はあまり通っていませんし……そんなこと、できる状態じゃなかったですから」


「じゃあオレが初ってわけか。嬉しいなぁ~」


「!? も、もう付き合ってるんですか!?」


「オレは構わないよ? むしろ大歓迎!」


「わ、私はよくないです……」


「えぇ~オレじゃダメ?」


 ダメとかそういう問題じゃなくて……いきなり言われても、困っちゃうんだよね。

 多分、からかってるだけだろうし。あ、でももし本気で言ってたら――。

 う~んと悩んでいれば、雅さんはくすりと、小さな笑いをもらした。


「急にはムリか。――ま、初デートはゲットしたみたいだからイイや」


 語尾に音符マークでも付きそうなくらい、雅さんの声は楽しげで。こっちとしては、またどうやって返したらいいのか少し困ってしまう。

 とりあえずこの話題を変えようと、今思い付いたことを聞いてみることにした。



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