ヒトの心は。(前編)
木製の一軒家から農具を持った大男が出てきた。重い農具を1度下ろし周辺の様子を探るように、ゆっくり首を動かし辺りを見渡す。
ところどころ霧が立ち込めている。元々山間部なのもあるだろうが、昨夜降った雨の分もある。ふぅ。
と一つ息を吐くとソウハーは少し芝の禿げた土の道を歩き始めた。
しばらく歩いていると地面に埋まっている板を見つけた。どうやら金属でできているようだ。小首を傾げたソウハーは板を掘り起こし、全体を覆っている土を払った。
板は殆ど劣化しておらず錆びもなければ傷もない新品同然だった。裏返すと何か文字が書かれている。「研究資材搬入口→」ソウハーが見てすぐに文字が青白く光り始めた。
「驚いたな。まだこんなものがあったのか。もうほとんど土に埋まっているものだと思い込んでいたが。」ソウハーは板をその辺の木に立て掛けて再び歩き始めた。
やがて到着したのは少し盛り上がったお椀型の土地。
植物が種類ごとに綺麗に並んでいる。
その一帯をぐるりと囲むように木の柵が設置されている。
ソウハーは被っていた帽子を柵へ引っ掛けて畑仕事を始めた。ウキンケには誰も来ない。
だから色々な物資は自ら調達するか作り出すしかない。商人から買うなんてとんでもないことで一番近いところでも1週間夜通し歩いて着くかどうかという距離だ。
鍬を何度も何度も突き刺して2列ほどの畝ができた。
今回も新しく何かを育てるためだろう。
種を植えて灌水の作業に移ろうというときだった。耳を劈くような轟音が鳴り、その後を追うように何か相当大きな生き物の咆哮がやまびこになって反響してきた。
ソウハーは久しぶりの大きな音に耳を塞ぎ、さながら子鹿のようにその場にしゃがみ込んだ。音の方向をむくと山の中腹から土煙が巻き起こっていた。
メンタルオワッテル