第3の手紙
先に読んでくれた方大変申し訳ございません。第七章の第三の手紙というお話が抜けておりました。
もう読んでしまった方、意味が繋がらないところがあったかと思います。申し訳ありません。
6月2日。
第二の手紙の発動期限まで、残りあと24日に迫っていた。
朝。
学校への登校時間。
一平と坪内はいつもどおり二人で学校へと向かっていた。
坪内は大好きなビックリくんチョコを頬張り、一平もそれをいただいて、二人で食べながら学校に到着した。
玄関を通り、下駄箱に向かう二人。
いつものように、一平は靴を上靴に履きかえようとした。
下駄箱の小さな扉を開け、中の靴をとろうとした時だった。
下駄箱の中の靴に目をやると。
そこには、一通の手紙が入っていた。
それに一平は気づいて、一旦再び下駄箱の扉を閉める。
その様子を見て、坪内が、
「あれどうした一平? 靴履きかえないの?」
聞いてくるが、唖然とした表情の一平が、坪内に尋ねる。
「なぁ、下駄箱に手紙が入ってたとしたら、これは、一体何だと思う?」
「それはもう、ラブレター一択に決まってるだろう!」
「そうか……」
一平が言うと、坪内が一平の下駄箱を勝手に開け、中を覗くと。
中の手紙が見えた。
「おお! ラブレターじゃん! 誰から!? 誰から!?」
と言いながら勝手に、そのラブレターをとりだそうと手を伸ばそうとすると。
一平が、慌てた口調で、
「馬鹿!! 触んな!! これは、ラブレターじゃなく、また不幸の手紙かもしれない」
そんなことを言う。
一平は第一の手紙、第二の手紙と不幸の手紙を二通受け取っているため、この三通目の手紙もきっとこの世のものではない、不幸の手紙であると考えていた。
坪内は、第一の手紙の存在は知っているため、その言葉に返す。
「それは、ないんじゃないか!? ここは学校で、手紙は学校の下駄箱にあって、それにこの手紙見ろよ!」
手紙の方を指さす。
手紙は、ハートマークのシールで封がされていて、明らかにラブレターのように見えた。
不幸の手紙のときとは、雰囲気が違うのは、一平もわかった。
「でもよ……ものは用心だ……本当に最悪の最悪、このラブレターに見える手紙は、僕を騙すためのカモフラージュかもしれない。もしまた、不幸の手紙だったら内容次第では取り返しのつかないことになってしまう」
そう警戒する一平。
坪内が尋ねる。
「じゃあ、どうするんだよ?」
一平は聞かれ、考える表情で言う。
「この手紙に触ることは出来ないし、開けることも出来ない。触らず捨てよう!」
「え!? 捨てるの!? もしラブレターだったらどうするんだよ!」
坪内が言うが、一平が、
「そのときはそのときだ。あとあとなんらかの形で誰がくれたか差出人はわかるだろう。まぁわかったところで、僕は、今は誰とも付き合うことは出来ないけど……」
「ラブレター送った子可哀想だよ、読まれずに手紙を捨てられるとか、本当最低だな! 一平!」
「なんとでも言ってくれ、僕はこの手紙が不幸の手紙だった時のことを考えている」
「まぁ好きにしろ」
そう言って、坪内はその場を離れ教室へ向かった。
そのあと、一平は、どこからか借りてきたピンセットでうまいことその手紙を触らないように、回収し、カバンの中にいれた。
もう早いところ、この手紙を捨てたい。
早くゴミ箱に処分したい。
そう考えていた。
教室へと向かう一平。
教室の中に入る。
教室はいつもの喧騒で賑やかだ。
教室には、ゴミ箱があり、燃えるごみ専用のごみ箱の前まで行き、そこで立ち止まる一平。
まわりをきょろきょろ見渡す。
ラブレターを処分するところを誰にも見られないように、きょろきょろと周囲を確認する。
「みんな会話に夢中だ、こっち見ていない……」
小声でそう呟いて、カバンの中の手紙をピンセットで掴み、そのゴミ箱へ入れる。
なるべくみつからないように、ピンセットでゴミで埋め隠すようにする。
無事ラブレターを処分し、一平は席に着く。
一平の前の席には坪内が座っている。
後ろの席が美樹。
しかし、美樹は今日もまだ来ていない。
右後ろの席が転校生の翼の席で。
翼はもうすでに、席に座っている。
すると、翼が席に座ったまま、一平に話しかけてくる。
「末永くん、おはよー」
朝の挨拶。
翼が可愛らしくウィンクしてくる。
「おはよう! 城ヶ崎さん」
挨拶を返す。
その後、少し坪内と世間話などしていたら、美樹が教室へ入ってきた。
今日は遅刻しなかったようだ。
やはり、ドアを消毒し入ってくる。
教室に美樹は入ってきたが、しかし、昨日の美樹の姿とはまた違い、いつもの赤縁眼鏡に赤いスカーフ。いつもの地味モードの姿で美樹は、席に座ろうとした。
その姿を見て、翼が驚きの顔を見せる
男子生徒たちも美樹に気づいて言う。
「あれ~今日はいつもと一緒じゃん!」
「今日は地味モードかよぉ」
「昨日の方が可愛かったのになぁ」
なんて素直な本音を言う男子生徒達。
美樹が席についてから、翼が声をかける。
「おはよ! 潔癖ちゃん。これが本来の潔癖ちゃんの姿ね! うん……いいと思う! とってもあなたにお似合いだし、昨日の格好は全然似合わないからやめたほうがいいと翼は思うし、今のこの格好で、今度ミスコンに出るといいと思うわよ!」
そんな皮肉としかとれない翼の発言。
美樹は、翼に一瞥もせず、答える。
「そう?」
言葉すくなに返した。
その姿を見ていた、一平が、
「美樹ちゃん、今日はなんで、いつもの姿に戻しちゃったの?」
「昨日のあれ……化粧時間かかるから……もう基本これでいいかなって……」
と、横からまた翼が、
「うん……いいと思う! それにしなよ!」
なんてことを言う。
そんな話をしていると、教室のドアが開く音がした。
担任の立沢先生が中へと入ってきた。
喧騒はやみ、立沢先生が教壇のところにつくと、朝のホームルームが始まった。
「はい! それでは、朝のホームルーム始めます! 今日はこの時間を使って、来週の6月8日にあるミスコン2020の出場者を決めたいと思います!」
先生が言うと、男子生徒達が、
「おおーー! 俺らはじめてのミスコンじゃー! 楽しみー!」
「よっしゃー! 可愛い子いっぱい見れるぅー!」
そんな声をあげる。
立沢先生が続ける。
「女子生徒なら何人でもエントリー可能なので、それでは、出場したいひと! あるいわ、して欲しい人?」
先生が言うと、席で頬杖をついて座っていた翼が、手をあげるのかと思っていたら、翼は動かない。何も言わず、じっと先生の方を見ていた。
翼の考えはこうだった。
(私が手をあげるまでもない、どうせ翼は可愛いから、だれかが真っ先に勝手に推薦してくれるだろう、それより潔癖ちゃんを私が推薦してあげないと、彼女恥をかかせてあげれない。ほんとうについでだけど、私が推薦してあげよう)
そう決意したとき、男子生徒が、
「美樹出たらどう!? 昨日の可愛いモードでさ! 今日の地味モードじゃなく、昨日の格好ででたらいいとこ行くんじゃない?」
即効で美樹の名前があがった。
他の男子生徒も、
「いいね! いいね! 昨日の格好なら優勝できるかも!」
そんなことを言う。
それを聞いていた、翼が、
(なんで最初にこいつの名前があがるのよ! 翼の方が可愛いし、綺麗なのに!)
少し怒りの怖い表情になるが、それを我慢して、翼が言う。
「そうですねー! 美樹さん! ミスコン出るといいと思います」
翼は、先生の前なので潔癖ちゃんとは言わない。
そう翼が言うと、男子生徒が閃いた感じで言う。
「あ、そうだ! ついでに転校生の翼ちゃんも出ようよ! ミスコン!」
他の生徒も、
「そうそう! ついでついで! ついでに出よう!」
ついでは潔癖野郎だろって翼は思ったが、それは言わずに、そのついでの言葉気にいらなかったのか、
「ついでかぁ……どうしよう……翼ブスだし、可愛くないし、自信ないし、ついでなら私やめとこうかなぁ……」
皮肉に聞こえるかなり浮いた一言。
きっと男子生徒達が、そんなことないよとか、可愛いよとか、綺麗だよとか、反語を言ってくれるだろうと翼は期待していた。
しかし。
「ごめんごめん! ついでは悪かったね! 強制はしないから」
「出てほしかったけど、嫌なら無理強いしないよ」
男子生徒達の優しさアピールなのかあっさり引こうする。
(バカヤロウ、わたしのブス発言をまず否定しなさいよ。受け流してんじゃねー! それに簡単に引くんじゃねー! もっとぐいぐいきなさいよ! 私はナンバーワンになるためにこのクラスにいるんだから!)
そんなことを思うが怒りの表情に出さないように、
「仕方ない。みんながそう出てくれって言うなら、私……出てあげてもいいよっ!」
困惑顔から、可愛く首を傾け、笑顔で言う翼。
「よっしゃ! 参加者まず1名!」
男子生徒が言う。
立沢先生も、参加者名簿に城ヶ崎翼と書きこむ。
「はい! 城ヶ崎さん参加っと!」
参加が決まったところで、再び尋ねる翼。
「結局美樹さんは、ミスコン出るの? 出ないの? 私としては、とってもあなたに出てほしいけど……」
そう美樹の方に翼が視線を送り、少し睨みつける。
「私は……別に興味ないので出ません!」
そう美樹が言うと、立沢先生が、
「じゃあ他に参加者いませんか? いないなら、うちのクラスからは、城ヶ崎さん1名で参加ということで確定しちゃうけどいい?」
「ちょ……ちょっと待っ」
小声で、焦りの表情で、うろたえる翼。
(潔癖ちゃんが出なかったら、直接対決で私が完全勝利を決めて、あの子に恥をかかせられないじゃない!)
そんなこと思う翼だったが、
「もう決まりでいいんじゃねーの!」
そう一人の男子生徒が、椅子を後ろに傾け、よりかかったまま鼻くそをほじり、その鼻くそをティッシュに包む。
「おい! きたねーぞ! おまえ!」
笑いながら、他の男子生徒が言う。
鼻くそをほじった男子生徒が、ゴミ箱めがけて、ティッシュを投げ入れる。
ティッシュはゴミ箱にぶつかるが、入らず、その様子を見た立沢先生が、
「こら! 投げない! それに入ってない! ちゃんと手で拾って捨てなさい」
そう言われ、その男子生徒は、ゴミ箱の前まで歩き、そのティッシュを拾い、ゴミ箱に手を入れ丁寧に捨てる。
そのやりとりには、全く興味のなかった翼は、
(どうしよう! どうしよう! どうしよう! このままでは、あの子に逃げられてしまう。私に負けるのが怖くて逃げられてしまう)
この状況を打開しようとなんとか推薦理由を必死に考えるが、思いつかない。
しかし、その時だった。
「なんだこれ~!」
ゴミ箱にティッシュを捨てに行った男子生徒が叫んだ。
男子生徒はゴミ箱から見つけた、拾ったそれを、高々と上げた。
それに教室の全員の注目を集める。
それを見た一平が、驚きの大声で!
「馬鹿! それに触んな!」
それは、ラブレターだった。
手紙の封のハートのシールも見えたので、誰もがそう思った。
「ラブレターじゃん!」
男子生徒の声。
「あーあっ」
言いながら、見つかっちゃったっていうような、あきれ顔になる坪内。
なぜかその光景を見た翼が、
「ちょ……それは……」
小声で言いながら、さっきまでの追いこまれていた焦りの表情から一変、今度は少し驚き動揺したかの表情になる。
「触んなって言うことは、一平の手紙か? 一平がこの手紙捨てたのか?」
そう男子生徒から、聞かれ、一平はバレてしまったという表情になり、動揺しながら答えた。
「あ……ああ……その手紙俺が捨てた……」
クラスの皆が驚きの顔になる。
「一平が書いて、仕上がりが気に入らなくて、渡す前に捨てたんだな! ってか一平この前、美樹にラブレター書いて渡したばかりじゃん! 何別の人にラブレター書いて渡そうとしてんだよ!」
なんてことを男子生徒に言われる。
それを否定しようと一平が言う。
「いや、違うんだ……その、あの、それ貰って読む前にさっき捨てたんだよ! 誰が書いたかも確認出来てない……」
と一平が弁解するが、
「そんなの信じる訳ないだろ、読む前に捨てる人なんて、いないだろ! どういうことだよ!」
すると立沢先生も、
「末永くんそれは本当なの? だとしたら、あなたは酷いことをしているわよ。誰が差し出した人かもわからず、読まずに捨てるなんて。末永君もラブレター書いたことあるから、わかると思うけど、読まずに捨てられたら嫌じゃない! それに、末永くんはそういうことする人には思えないけど……」
普通の人は、中身がなんなのか誰が差出人なのか確認する。
一平は、それを確認しないで手紙を捨てた理由を説明することは出来ず、
「それは……」
言葉が出てこない一平に立沢先生が、
「やっぱり末永くんが書いて捨てたんでしょ? 末永くんいろんな人にころころ心変わりするのは、良くないわよ! 男なら一途にいかなきゃ!」
もう勝手に一平が書いたと断定されてしまった。
「まぁ、中身を読めばわかることだ! 一平、公開処刑だぁー!」
そんなことを男子生徒が言う。
誰が誰に送ろうとした、どんな内容の手紙なのか。
読めばわかるので、男子生徒が声にだして読もうとした。
そこで、立沢先生が、
「うーん、末永くんの今後のために、仕方ない読んでもいいわよ!」
男子生徒が読みあげようとする。
なぜか、翼が顔を赤くしていたが、手紙は読まれてしまう。
「あなたの事が好きになりました。末永君に一目ぼれってやつです。かっこいいギザギザ頭の髪型に、凛々しさを感じるモミアゲ。とても似合っています。声も素敵だし、第一印象がすごく優しい印象を受けました。出会って、まだ一日しかたっていませんが、もし今度のミスコンで私が優勝出来たら、私と付き合ってください。城ヶ崎翼より」
それを読み終え、数秒の沈黙。
そして、驚きの生徒達の声が、
「え!? 城ヶ崎さんが送った手紙じゃん!!」
「え!? 転校して一日で告白とかすごー!」
「ええ~! 城ヶ崎さん一平のこと好きなの!?」
手紙を読んでいなかった一平が、今初めて内容を知る。
それに、一平も驚いた顔になる。
「翼さんがくれた手紙なの?」
一平が翼の方を見て、言う。
「う……うん。それは私が書きました……」
恥ずかしそうに言う翼。
しかし、翼はこれは逆にチャンスだと直ぐに脳内で開き直ることにした。
(ここで大きくこいつのことが好きだと宣言し、潔癖ちゃんに宣戦布告すれば、きっとダメージを与えることが出来るはず……)
意を決して翼が言う。
「そうよ! 翼の頭のなかはもう、末永くんのことでいっぱいなの! 末永くんは美樹ちゃんのこと好きみたいだけど、私がこの学園のナンバーワンになって、末永くんと付き合いたいの!」
一平は動揺を隠せない表情。
その言葉に、男子生徒が、
「城ヶ崎さんが一平のものになるのは、残念だけど、本人がこう言ってるし……一平! 読まずに手紙を捨てたんだから、酷いよ! 責任とって、城ヶ崎さんがナンバーワンになったら付き合えよ!」
それに、翼が、
「翼頑張ってナンバーワンになるから! 末永君! でも、このまま美樹さんなしでもしも私が優勝したら、美樹さんに悪いし、美樹さんもやっぱり出場しない?」
美樹が一平のことが好きなのか、ラブレターを一平が渡した後二人はどうなったのか、クラスの人達は知らない。
「ってか美樹って一平のこと好きなの?」
「美樹! 一平とられちゃうぞー!」
「いいのかー?」
男子生徒達が言う。
一平が困り顔になる。第二の手紙の存在があるため、誰の好意も邪魔でしかなかった。誰かに好意を寄せられ万が一好きになってしまったら、その子は殺されるかもしれないからだ。
「やめないか? そういうの! 美樹ちゃんもさっき出ないって言った訳だし……城ヶ崎さんもきっと転校の引っ越しとかで疲れててなんかの思い違いとかだと思うよ」
なんとかごまかそうとするが、翼がそこで、
「わたしの手紙を捨てた上に、そんなこと言うなんて……酷い! 末永君……」
そこで、驚いたことに。
なんといきなり泣き出す翼。
翼の瞳から涙がこぼれてくる。
(私は、元演劇部よ。泣くことなんて容易い……これでどう出るかしら……)
その涙を見て、一平はうろたえる。
「ご……ごめん……俺どうしたらいいだろう……」
男子生徒達が言う。
「ほら翼ちゃん、泣いてるじゃんか! 責任とれぇ! 一平!」
翼が泣きながら、声を震わし言う。
「それでも翼、末永くんのことが好き。美樹さんに勝って、優勝したら、絶対付き合ってください!」
勝手に参加させようと美樹の名前をだして言う。
それを見ていた立沢先生が、
「じゃあどうします? 池田さん、ミスコン参加しますか?」
みんなが美樹の方を見る。
一平も美樹の顔を見て、助けてくれという表情になり顔で訴えかける。
一平としては、翼が優勝する可能性はおおいに高いと思ったし、もし優勝したら付き合うことはもう断りきれない流れを感じてしまっている。そうなったら、今後どうなってしまうかわからない。大変なことが起きてしまうかもしれない。だったら美樹も参加して、それを阻んでくれれば、自分は助かると考えていた。
「私が……」
美樹は言葉を止める。ためらいつつも、言いかけたことを言う。
「私が……参加しなくてはならないなら、参加する……」
抑揚のない声色で、やる気なさそうにそう言う。
「しないとだめよ! これは勝負なんだから! 学園のナンバーワンと末永くんを賭けた、勝負なんだから!」
翼がそう言い、一平はさらに困った顔になる。
立沢先生が、
「じゃあ、美樹さんも参加ね!」
出場者名簿に、池田美樹と名前が記入され、美樹のエントリーも決まった。