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幻聴と幻覚

 タイムリミットが迫っていた。

 24時間。

 手紙に触れ、開封してからの時間である。

 24時間以内に一平は美樹を殺さないと幻怪病という病に侵される。

 そんな事を意識しているのか、いないのか。

 一平は朝を迎えた。

 ベッドで寝ていた一平はゆっくりと目を開ける。カーテンの隙間から差しこむ眩しい光に思わず一平は、

「眩しい……」

 一平は昨日事を思い出す。告白の際、美樹が最後に言い放った言葉。

(さようなら……もう関わらないで……)

「きっついなぁ……もう関わらないでとか……」

 時計を見る。今日は少し動きだしが遅い。時計の針がもう7時45分である。昨日の手紙に触れたのは、7時50分くらいだっただろうか?

 ともかく、8時30分までに学校へ行かなければならない。急いで、着替えて、ご飯を食べ、歯を磨き、学校に行く準備を整える。

 時計の針が8時を過ぎた頃だっただろうか?

「ピンポーン」

 インターホンが鳴った。

「誰だ、登校前に?」

 一平は玄関まで行き、玄関口の扉を開ける。

「……」

 玄関口の外を見るが、そこには誰も立っていなかった。

「なんだよ……これもまた悪戯かぁ?」

 訝しい表情で、ドアを閉めた。

「昨日の朝から誰かの悪戯のせいでとんだ迷惑だよ……本当にもう……」

 愚痴を言うなり、玄関の靴を履き、学校へと向かった。

 学校への道中。

 一平は、いつもの参道を越えて、並木道を歩いていた。

 昨日の朝届いた不幸の手紙。そのことを一平は考えながら、

「もうきっと24時間たったよなぁ……でも、なんの病状もないぞ」

 幻怪病。24時間以内に好きな人を殺さないと幻怪病という病気になるはずなのである。

「まぁ、あんな悪戯で病気になんてならないよなぁ……」

 そのときだった。横断歩道を渡る美樹の姿が見えた。それを見て、一平の表情は一瞬緩んだが、

(もう関わらないで……)

 美樹の言葉が脳裏をよぎる。

 しかし、そのとき。

 歩行者用の信号が青のはずだったが、美樹めがけて車が突っ込んでいった。

 クラクションの音。

「!」

 とっさに、一平が走り、美樹に体当たりする勢いで体を横断歩道の道路の向こうまで、押しのけた。

 歩道で、豪快に転げる二人。

「いったぁ……末永くん痛いじゃないの! 何よいきなり、危ないじゃない!」

 美樹が怒りながら一平に言うと、一平が、

「危ないのは、あの車だ! クラクション鳴らしながら突っ込んできやがった、本当あぶねぇ……」

 言いながら、車の方を指さしたが、そこには何の車も無くて。

「え!? 車は……」

「どういうこと!?」

 ひゅーっと、風の音だけが聞こえる。一平はさっき突っ込んできた車が何故ないのか不思議な表情。

 美樹は、一平が何を言っているのか、なんでタックルするように突き飛ばされたかわからず、思案顔で。

「車なんて無いじゃない! どういうこと!? もう関わらないでって言ったよね!?」

「そうじゃない、確かに車が突っ込んできてて……」

 とそこで、遠くからその様子を見ていた坪内が現れて、

「おいおい、何してるんだ、朝から二人とも体くっつけて! お盛んだねぇ! 派手に二人とも吹っ飛んでたけど、何かあったのか?」

 すると、一平が、

「美樹ちゃん目がけて車が突っ込んできたんだよ、俺は危ないと思って、助けようと思って……」

 坪内が、怪訝な表情になり、

「何言ってんだ? 車なんてきてなかったぞ。俺には、凄い勢いで一平が勝手に美樹ちゃんに抱きついて吹っ飛んでいったようにしか見えなかったんだけど……」

「え!?」

 第三者の坪内も言うように、車は来てなかったみたいだ。驚きの表情をみせる一平。

「きっと病気だわ……」

 細い声で美樹が言った。

「あなたは、幻覚を見たの。手紙に書いてあった幻怪病の症状が今出たんだわ」

「クラクションの音は?」

「幻聴よ」

「じゃあ……まさか、朝のインターホンの音……」

 小声で言う一平。全て繋がりだした事実に、驚きの顔で、

「美樹ちゃんは大丈夫? どこか痛いとか、幻覚、幻聴とかはない?」

「今擦りむいた足の傷以外は、痛いところはない」

「ご、ごめん……」

 謝る一平。

「それに、私が手紙に触れたのは、昨日の授業中の10時30分頃、症状が現れるとしたらそれ以降だわ……」

「じゃあ、あの手紙は……本物!?」

 不安な表情になる一平に、美樹が、

「だから言ったじゃない!? あれは、本物だって」

 そこで、坪内が、

「どうやら、やべー手紙だったみたいだな。この世のものではない、何かの呪いに一平はかかっちまったみたいだな」

「そのようね……」

 美樹が言う。

「きっと10時半以降にわたしも病気になるんだわ……」

 暗い表情で言う美樹に対して、一平が、

「大丈夫! 美樹ちゃん。病気だろうと何だろうと襲いかかってきても、僕が立ち向かうから……」 

 そんな事を言う。

「あなたに、なにが出来るの? もう関わらないでお願いだから……」

 そう言って、美樹は足早に学校へと向かっていった。

 走り去っていく様子を見届ける一平と坪内。

「おい、お前昨日フラれたのか? もう関わらないでって言われてたけど……」

「坪内、実は僕、昨日間違って、あの不幸の手紙を美樹ちゃんに渡してしまったんだよ。ラブレターと間違って」

「まじかよ、アホかお前!? 好きな人を殺せとか書いてあった、あんな物騒な手紙を彼女に渡したのかよ」

「ああ……」

「終わったな……お前の恋も。で、今一平は病気になっちまったって事は、美樹ちゃんはどうなんだ?」

「さっき言ってたろ、10時半以降に病気の症状が出始める可能性があるって……」

「そういう意味だったのか、さっきの会話」

「そうだよ……とりあえず、もう学校行かなきゃ遅刻の時間だ、急ごう」

 二人も、足早に学校へ行った。

 授業開始して現在時刻10時15分。

 あと15分後くらいで、美樹の病気が出てくる可能性がある。

 そんな状況で一平は授業中、周囲を見渡していた。

 なぜか声が聞こえる。しかし、幻聴とも違う。周囲の人間が悪口を言っているように聞こえる声。

 実際には聞こえないが、そういうふうに言ってるように聞こえる。

『じゃまなんだよ、おまえどっかいけよ』

『おまえなんか生まれてくる価値ねぇんだよ』

『おまえのこと嫌いなんだよ』

『嫌いなんだよ……嫌いなんだよ……嫌いなんだよ……死ねよ……』

 どんどん言葉が一平の頭の中に聞こえて、

『死ね……死ね……死ね……死ね……死ね……死ね……』

 頭が痛い。頭痛がする。脳内の声がどんどん大きくなり、

『もう関わらないで……』

 限界を迎えて。

「うるさーーーーーーーーーーーーーいっ!」

 授業中にも関わらず、叫び声をあげた。時計の針は10時32分だった。

 しかし、叫び声をあげたのは一平ではなく、池田美樹だった。

「はぁ……うるさい、うるさい、うるさい! どいつもこいつも、わたしの事をバカにしやがって……」

 ノイローゼ気味に、美樹が周りに言うと授業中の先生が。

「池田さん? どうしました? いきなり大声出してっ!」

「何でもないです……ちょっと頭痛がして……」

「池田さん保健室へ行ってなさい」

 先生が言うなり、一平も

「先生俺も頭痛がして……保健室に行きたいです」

「行ってなさい」

 他の生徒が、

「末永、美樹を保健室で襲うなよ」

「ヒューヒュー!」

 なんてことを言う。

「違うんだってば、本当に頭が痛いんだ」

 そう言って、二人は、教室を出て保健室へと向かった。

 保健室への廊下を歩いていると、一平の前を歩く美樹が言った。

「末永くんにも聞こえたの? さっきの声?」

「うん。幻聴ではないと思うけど、頭の中を取り巻く声みたいなのが聞こえた」

「妄想ってやつかしら……」

「多分そうかも」

「どんな事言ってた?」

「あまりよく覚えていないけど……嫌いだとか……死ねだとか……」

「やっぱり同じね」

「そっか……」

 どうやら美樹もまた、本当に病気にかかってしまったようだ。二人は保健室にたどり着き、保健室の中にいた保険の先生に症状を説明した。

「統合失調症の疑いがあるね二人とも」

 保険の先生--阿部那津子あべなつこ先生が言った。

「統合失調症は、100人に一人がかかると言われている精神疾患なの。その陽性症状で、妄想、幻覚、幻聴などがあるの。原因はよくわかっていないけど、脳のドーパミンが過剰に分泌しすぎて症状を引き起こしてしまうというのが一般的だわ」

「そうですか……」

「やだなあ。あくまで可能性の話よ。そういう病気もあるってこと。まあ、ひどいようだったら病院に行ってみるといいわ」

 先生がそう言うと、美樹が、

「そうですか……わかりました。今日病院に行って診てもらいます」

 先生が心配そうな表情で二人を見つめたが、少し休んでから、二人は再び授業へと戻った。

 その後、二人は病院へ行った。

 帰りの道中。一平の前を美樹が歩く。後を歩く一平に言った。

「幻怪病--一応この地上では統合失調症のような病気として、扱われているみたいだけど、末永くんどうしてくれるの」

「ご、ごめん……」

 ただただ謝るしかない一平。元々手紙を受け取った最初の人物は一平であり、その手紙さえ彼女に渡さなければ、何も起こることはなかったはずなので、彼女が問い詰めるのも無理はない。

「謝ってすむ問題? 治らないかもしれないのよこの病気」

 二人とも病気であるが、一平は自分の病気以上に彼女を病気にしてしまったという責任感で頭がいっぱいになり深く反省した。

「治るよ……きっと」

「何を根拠に治るなんて言ってるの」

「ごめん……」

「きっと統合失調症以上にこの幻怪病と呼ばれる病気は恐ろしい病気なんだと思う」

「どんなに怖い病気でも、美樹ちゃんの事助けるから、なにか力になるから……」

「やめて、あなたに関わられるときっと、私……不幸になるから、さようなら……」

 そう言って美樹は、一平との帰りの分かれ道から、自分の家へと帰って行った。

 一人、家路へと向かう一平。

「私……不幸になるからか……完全に嫌われたな」

 そう呟いて、家に帰った。

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