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手紙と告白

『美樹ちゃんのことが好きです。可愛らしい赤縁メガネ。存在感ある赤いスカーフ。クールで清楚な無表情。時折みせる冷たい表情。かっこいいし、魅惑的だしその全てが大好きです。ミステリアスなところや、無限大に謎めいた性格、本当に魅力的です。どうか僕と付き合って下さい。放課後屋上で待っています――末永一平すえながいっぺいより』

 今日の朝、池田美樹いけだみきの下駄箱に入れる予定のラブレターである。

 末永一平は、そのラブレターの内容を読み返し。

「よしっ!」

 と一言。

 ラブレターをカバンに入れた。

 一平は、ギザギザ頭の黒髪に、少し長めのモミアゲ。凛々しさを感じさせる上がり眉。

 今日は勝負の日だとばかりに、自慢のギザギザ頭をいつもより入念に洗って乾かし、部屋の鏡を見て自身の身だしなみをいつもよりかっこよく仕上げるぞとばかりに、櫛を使って髪を整えた。

「よしっ!」

 再び一言。

 彼は今日告白する。池田美樹に告白する。広井学園に入学したときから一目惚れしていて、謎の多い彼女が入学当初の4月から現在まだ5月と一カ月しかたっていないが告白する。

 彼は、この1カ月彼女のことばかり考えていた。容姿に惚れた。ミステリアスな雰囲気、性格に惚れた。想いを伝えなければストレスがこの1カ月間襲いかかってきて、苦しかった。でも、恋をしているそんな苦しさが心地よかった。彼女の答えは分からないけど、付き合えなかったとしても、想いを伝えれば、きっとスッキリする――そう思った。

 しかし、彼はここ1カ月間1度も彼女と会話というものをしたことがなかった。というよりも出来なかった。その出来ない理由がミステリアスな部分にあたり、好きの要因にも繋がっているわけだが――

「さぁ学校にいこう!」

 玄関で靴を履き、玄関のドアに手をかけた。その時だった。ドアについていたポストから1通の手紙がフワッと地面に落ちた。

 白い封がされた特徴のない手紙。何だろうという表情で、一平は、その手紙を読んだ。 するとそこには、驚愕の内容が書き記されていた。

『この手紙を触れた者は、24時間以内に好きな人を殺しなさい。もし殺せなかった場合あなたは幻怪病という恐ろしい病気におかされます。以上』

 手紙を読んで怪訝な表情になる一平。

「誰だよっ! こんな悪ふざけの悪戯みたいな手紙送ったやつはっ!」

 嫌な表情で玄関後ろの廊下に手紙を放り投げた。

「本当困るんだよなぁ。今日人が大好きな子に告白するんだから、そんな日をこんな訳のわからない手紙で僕を不安にさせようってか!? もしかして美樹ちゃんを狙っているライバルの仕業か?」

 一平は思考をめぐらせる。だが、犯人が分からない。誰かが美樹を好きだという情報は入ってないし、入っていたら、もうとっくに彼はライバル視をしているはずだからだ。

「分からない……一応坪内に犯人に心当たりがないか聞いてみよう」

 坪内泰宏つぼうちやすひろのことで、彼の一番の親友である。

 投げ捨てて廊下に落ちていた、不幸の手紙を再び手に取りカバンに入れた。

「とりあえず、行くか」

 呟いて、玄関のドアを開け学校へと向かった。

 学校への登校道。

 空を見上げれば照りつける太陽。

 快晴となった今日の天気により、先ほどの不幸の手紙を忘れたかのような安堵の表情を浮かべる一平。

「いい……告白日和だ」

 心地よい鳥の鳴き声に、柔らかな風が体を伝う。

 いつもの参道への入り口を越えて、その先にある並木道。学校までは、15分くらいかかる。出発してちょうど10分たったくらいだろうか、いつもどおりのこの場所で親友の坪内が現れた。

「坪内おはよー!」

「おお、一平おはよー!」

 坪内はベリーショートの黒髪に、黒メガネ。少し分厚い唇が特徴的。

 坪内は、再開するなり、カバンからあらかじめ持っていたビックリクンチョコを取り出し、頬張った。

 チョコを食べるなり、坪内が

「ビックリクンチョコはやっぱうめぇーなぁ」

「あんま食いすぎると虫歯になるぞ」

「おまえの分もあるぞ、ちょっと溶けてるけど」

「いいの? 貰って?」

「おう食え食え!」

 そう坪内が言うと、カバンから少し溶けたチョコを取り出し、一平に渡した。

「ありがと……あ、やべ、チョコマジで溶けてるじゃん、チョコ手についた……」

 溶けたチョコが一平の右手の人さし指に少しついた。それを一平がポケットから取り出した、ハンカチで拭き取るなり、唐突にきりだした。

「なぁ、坪内。聞いてほしい話があるんだけど」

「何?」

「俺今日告白するんだ、池田美樹ちゃんに」

「何を告白するんだ? 持病の痔が悪化したとか?」

「バカ、そんな話じゃねぇよ。好きだってことを告白して、彼女にするんだよ」

「ほぉー……お前もモノ好きだねぇ、あの地味メガネ潔癖症女のどこがいいんだ?」

 池田美樹はクラス一の地味な女の子で、極度の潔癖症である。日常から消毒用エタノール常備していて、普段の生活でその潔癖から異常とまでいえる清潔意識を周囲にみせている。

「普通に可愛いし、ミステリアスなところ。魅力たっぷり」

 ニコニコしながら幸せそうに微笑みながら語る一平。

「ラブレターでも渡して呼び出すの?」

「そうそう、その手紙なんだけど、ちょっとこれ見てくれよ」

 言いながら、一平は自分のカバンの中からラブレターではなく、朝届いていた不幸の手紙を取り出した。 

 不幸の手紙を坪内の目の前に広げて、見せる一平。

『この手紙を触れた者は、24時間以内に好きな人を殺しなさい。もし殺せなかった場合あなたは幻怪病という恐ろしい病気におかされます。以上』

 その内容を見て、思わず坪内は驚きの声を上げる。

「なんだこれー!」

 といいながら、坪内は手紙に触れそうになる。すると、一平が、

「バカっ! 触んな、お前も触れてしまったら、もしかしたら病気になるぞっ!」

「おおっと!」

 いいながら、触りそうになっていた手を戻す。

「なぁこれ怖くないか? 好きな人殺せとか、それに幻怪病ってなんだよって感じ」

 一平が言うと、坪内が、

「怖いな、いったい誰がこんなことを書いたんやら」

「犯人は坪内でもわからんよなぁ?」

「わからんね、うちの学校のものではないというか、この世のモノとも思えないんだが……」

「そっか。まぁ坪内も犯人が分からないならどうしようもないな」

「で!? その幻怪病!? ってやつにならないためにお前は今日中に美樹ちゃんを殺めるの?」

「な訳ねーだろっ! こんな悪戯まがいな手紙を信じて、大きな犯罪を犯したくねーよ」

「そうだよな、で、ラブレターは書いたの?」

「書いた! 一晩考え抜いてシンプルにまとめた。放課後屋上で会って結果を待つ」

「そうか、俺は、あの子の良さが全然わからんけど、うまくいくといいなっ!」

 話ながら歩いていると、学校に到着した。

「手紙入れてくるっ!」

 学校に到着するなり、一平は玄関で池田美樹の下駄箱を探した。美樹はいつも一平の学校到着より10分近く遅いのが普通だった。だから今日も美樹より早く学校に来ることができ、美樹が靴を履く前に、手紙を下駄箱に入れることが出来た。

「セーフ! やっぱり、まだ来てないっ! 手紙にきっと気づいてくれるはずだ」

 坪内が、

「よかったな」

 一言。

 教室に一平と坪内が到着した。教室に着くなり、自分の席に座る一平と坪内。一平は教室の左後ろあたりに座っていて、一平の隣の席が坪内だった。そして左後ろ最後尾の席――一平の後の席が池田美樹の席である。彼女がいないことを確認して、一平が、

「まだこないかなぁ……もうこの教室に入ってくるころには俺の想いはもう伝わってしまっているからなぁ……」

 小声で一人呟く一平。美樹が来るのをドキドキしながら待ち遠しくなる。

 教室は授業前の喧騒で溢れていた。男子生徒同士の笑い声と女子生徒同士のおしゃべりの声。

 あと、5分でチャイムがなる時間になっており、朝のホームルームはもうすぐ始まる。

 しかし、彼女は来ない。

「……」

 3分前。

 まだ来ない。

 先に先生が教室に入ってきた。女教師の立沢梨花先生だ。ショートカットヘアーで、スラリとした足がタイトスカートから床へと伸びていた。

(あ、先生きちゃった)

 一平が言う。

 5分前くらいには美樹はいつも来ていたのだが。何をしているのかと心配になる。

 1分前。

 まだ来ない。

「キーンコーンカーンコーン!」

 チャイムが鳴ってしまう。元々登校は遅い方だが、遅刻するほどの美樹ではない、きっと何かあったのだろう。もしかして体調不良で欠席かと心配する一平。

 立沢先生の朝のホームルームの挨拶が始まった。

「はいっ! 静かにっ! ホームルーム始めます」

 立沢先生が朝の連絡事項を告げたその時だった。

教室のドアガラスの向こうに美樹が入ってくる姿が見えた。しかし、すぐには教室に入って来ない。美樹は、カバンから消毒用エタノールを取り出し、ドアをいつものように消毒し、ようやく、教室に入ってきた。入ってくるなり、言葉少なに、

「すいません、遅れました」

 小声で先生に謝罪した。息切れもしていないし、寝坊とかで走ってきた訳でもないように見える。

 美樹は、あまり似合わないと思われる赤いスカーフで縛られた長い髪に、地味な印象を受ける赤縁メガネ。顔は少々整っているが、自信のなさそうな瞳は、女性としての品をあまり高く感じさせないような印象がある。しかし、その自信なさげな瞳とは裏腹に、豊満なバストと、スラリとしたスレンダーで華奢なイメージを受ける足は、少しは自信を持ってもいいのかなと思わせるような体つきだった。

「2分遅刻」

 立沢先生がそう指摘すると、

「1分54秒です」

 自分の腕時計を見ながら正確な時間を言う。

「細かい事はいいのっ! なんで遅刻したの?」

 立沢先生がそういうと、ちょうど席についていた美樹が、突然指をさし、

「末永くんのせいです」

 指をさされたのが一平だった。

「え!?」

 思わず声を上げ、驚きの表情を見せる一平。

 再び小声の暗い声で、美樹が、

「私の下駄箱になんらかの痕跡があったんです。中を調べてみたら手紙が入ってありました」

 とそこで、

「フゥー!」

「ラブレターだ! それっ!」

 教室の男子生徒の黄色い声。美樹は続ける。

「手紙の封には差出人の名前は書いてなく、手紙を手に取るとチョコでついた指紋がついてありました。私の推理ではこの段階でこの手紙の差出人はチョコをよく食べてる坪内くんか、それをもらってよく食べる末永くんだと思いました。でも、どちらかはっきりさせたいので中身をみる前に、理科室へ行って、顕微鏡で指紋を調べました。そしたら、指紋は末永くんのものだとわかりました。時間がなかったので中身はまだ読んでいません。ここで読みましょうか?」

「ああああああああ! やめてぇぇぇぇぇぇぇ!」

 一平の悲鳴の声。みんなの前でラブレターを読まれたら、恥ずかしくて死ぬ。そんな全裸公開処刑同等の行為を彼女は一平にしようとしている。

 すると立沢先生が、

「それはやめてあげて、末永くんの名誉にかけて。それにしてもよく指紋なんてわかったわね池田さん」

「重要なデータですから」

 こう言うところが美樹がミステリアスと言われる所以である。クラスのみんなの指紋など把握してもなんのメリットもないと思われるが、彼女にとっては重要なデータであるそうだ。

 クラスの男子の誰かが、

「一平も隅に置けないなぁ、ラブレターとか」

「ヒューヒュー! 付き合っちゃえよ」

 そんな声が聞こえる中、立沢先生が、

「はい、それではホームルーム終わります」

 ホームルームは終わった。

 その後一平にとってはあっという間に時間が過ぎた。

 授業中も告白の返事はどうなのかドキドキしながら時間が流れた。

 そして放課後の時間。

 一平が教室から出ていくなり、屋上へ向かおうと廊下を歩いていたら、後ろから美樹がついてきた。

 屋上に来てくださいとラブレターに書いたから、二人とも屋上に向かうのだろう。

 一平は少し早めに行って先に待っていたかったが、まぁいいかと、美樹の前を歩く。

 屋上へ繋がる階段を歩き、屋上へのドアを開ける。

 美樹はやはり、潔癖症のため、屋上のドアも消毒してからドアノブを掴みあける。

 屋上の中へ二人は入って行く。

 屋上を少し歩き、一平の後に美樹がいる。一平が振り返り、美樹に向かって意を決して

「池田美樹ちゃん、手紙読んでくれましたか? 返事を聞かせてくださいっ!」

 右手を差し出す。

 すると美樹は、その右手に消毒液をぶっかけ、一平の右手をバンっと美樹の右手で振り払い、

「あなた。これ。どういうこと?」

 その時美樹が一平に見せたのは今朝美樹がもらった手紙だった。

 しかし、それは渡したはずのラブレターではなかった。

 内容はこうだった。

『この手紙を触れた者は、24時間以内に好きな人を殺しなさい。もし殺せなかった場合あなたは幻怪病という恐ろしい病気におかされます。以上』

 不幸の手紙だった。

 どういうことだと、一平は焦った。思考を巡らした。じゃあ自分の手元にあるのは、不幸の手紙ではなく、渡すはずだったラブレターで。

「そうかっ!」

 そういえば、チョコがついた手紙は不幸の手紙だったんだと。

 一平は、大きなミスにようやく気付く。

 それに、美樹が、淡々とした口調で、

「これは、私に遠まわしに死ねと言っているのかしら?」

「ご、ごめんなさい」

 そこで一平は思った。ラブレターを渡してないことになっているのならどうして、屋上まで美樹は来れたのか?

「美樹ちゃんどうして屋上まで?」

「こんな手紙渡してくるから、尾行していただけ」

「怖っ!」

 一平のリアクションに、思わず美樹は、

「怖いのはどっちかしら、好きな人を殺せとか」

「それは……冗談というか……じゃなかった、なんというか……」

 弁明しようといい訳の頭が働かなく

「その朝届いた手紙を間違って渡しちゃって。本当はラブレター渡そうと思ってたんだけど……」

「あなた自身が誰かから受け取った手紙ということ?」

 美樹の問いに大きく頷く一平。美樹の問いは続く。

「で、あなたは私が好きでラブレターを渡そうとしたのね? でも手紙の内容は好きな人を殺せって受け取ったってことは……」

 少し美樹が考えてから、

「つまり、わたしを殺さない限り、あなたもこの訳のわからない病気になる可能性があるってことかしら……」

 理解が早いなとばかりに、頷く一平だったが、

「でも、安心してっ! 美樹ちゃん。僕は美樹ちゃんのこと好きだけど、美樹ちゃんを殺したりはしないよ。それに、この訳のわからない手紙や訳のわからない病気なんてそんな信憑性の高いものじゃないし、きっと誰かの悪戯だよっ」

「そうかしら……」

「そうだよ」

 とそこで怖そうな顔つきで、美樹が言う。

「これは、本物だと思う……」

 ヒューッと冷たい風が流れる。

 普段ミステリアスな彼女が言うとなんだか物凄い説得力を感じてしまって。

 急に怖くなる一平。

「ラブレターは渡せなかったけど、ここで、口頭で、想いを伝えますっ!」

 再び勇気を振り絞って

「好きです。付き合って下さいっ!」

「……」

 しかし彼女はすぐには、答えない。

「返事を聞かせてほしい」

 すると美樹が、

「私の事が好きだって? 私を本当に愛してくれる人なんて誰もいない。どうせ卑怯に裏切られ、捨てられ、蔑まれる身。昔からずっとそうだった。私を愛してくれるのは、私一人で十分。でもこの手紙に触れてしまった以上、私が好きな私を、私自身で死なないといけない。でも、死ぬのは嫌。まだ死にたくない。だから、あなたを怨みながら病気になるのを待つしかない……」

「美樹ちゃん……?」

 彼の想いとは裏腹に、重たそうに言葉を口にする美樹。美樹の生い立ちは一平も分かっていた。母親を早くに病気で亡くし、父親からは暴力などの虐待を受け、小学校中学校時代もイジメを受けていたという。

 苦しい過去を持つ彼女が言うだけあって、言葉の一つ一つが重たく感じる。

「さようなら……もう関わらないで……」

「美樹ちゃん? へ、へんじをきか……」

 言い残し、再び屋上のドアノブを消毒し、その場から出て行く美樹だった。

「さようなら……もう関わらないでって。これ絶対フラれたに等しいよなぁ……」

 こうして、不幸の手紙を受け取った一日目の学校は終了した。

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