表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/11

愛を最後に

 その後、あっという間に時は流れた。

 ミスコンの6月8日から、今日の6月25日まで。

 本当に時間がすぐ経過していた。

 第二の手紙のタイムリミットの、一日前と迫っていた。

 時間から逃げたいと何度も思った。

 なんとか誤魔化せないかと。

 あのミスコンの日から、一平と美樹は二人でしっかりと話あった。

 お互いが、もうお互いのことを好きである、ということ。

 それを素直に認めあい、今後どうしなければならないのか。

 自らの死を選ぶという選択肢は、お互い絶対にとらないこと。

 美樹の悲劇の朗読のように、自分らの未来もああなってしまったら。

 それは、最悪の出来事の他ならない。

 とにかく、未来を幸せにするためにはどうしなきゃいけないのか。

 お互いの気持ちに嘘をつくのは、辞めよう。

 お互いの気持ちを誤魔化すのは、辞めよう。

 好きならば、好きと素直に伝えよう。

 好きなことを、好きなときに、好きなようにして、生きていこう。

 そうした、気持ちのなかで、なんとか、二人が生きていくためのヒントを探していこうって。

 そういうことになった。

 彼らが考えだしたこと。

 手紙の効果の発動を止める。

 そういう結論にいたった。

 効果の発動を止めるためには、二つがあると考えていた。

 その方法を、一平が美樹に確認する。

 場所は、人気のない、夜の学校の教室の中で。

 時計の針は22時だった。もう日付変更まで2時間。

 夜の学校ならば、人気はない。

 もしかしたら、勝手を知る学校なら、暗殺者からその身を隠し、逃げ切れるかもしれない。人がそもそもいないため、暗殺者が来たときすぐに気がつくことが出来る。だからこの場所を選んだ。武器は何も持っていない。もし持っていて、それを凶器として相手に奪われたら、殺されてしまうかもしれないからだ。それに、万が一、美樹が読んだ悲劇の朗読のようなことも起こりかねない。

 一平が、

「6月26日に何者かに殺される前に、その相手を殺す、もしくわ、殺さないようにとしむける」

 言い、さらに一平が、

「6月26日の効果発動までに、再び、あの幻怪病の影響からか現れた甲高い声の主と話をし、効果の発動をやめて貰う」

 この二つが彼らの考えだった。

 まず、後者の考えから、順序として、実行しようとしていた。

 幻怪病。

 まず、これを起こさないといけない。

 ミスコン以降も、ちょくちょく幻覚や幻聴なる、幻怪病の症状はお互いあったが、やはり、あの甲高い声の主は、現われなかった。

 一平が美樹の家の前で見た、妹の姿も、あれ以降見ていない。

 あの甲高い声の主は、『いつもみているよ』と言っていた。

 つまり、自分の行動を逐一観察しているということだ。

 こちらから、話かければ、もしかしたら、現われるかもしれない。

「おい! どこにいる! 現われろ! 高い声のガキ! おい!」

 一平が、教室のあたりを見渡し、そんなことを言う。

 時間が過ぎる。

 焦りが募る一平。

「お願い! 現われて! あなたの話が聞きたいの!」

 そう言い、やはり周囲にくまなく目をやる美樹。

 しかし、なにも現われない。

 しかし、一平が続ける。

「お願いだよ。出てきてくれよ! お前の話ききたいんだ!」

「……」

「なぁ……!」

「……」

「なぁってば!」

 そう大きな声で教室に響くくらい叫ぶと。

 あの時とどうように耳鳴りがする。

 これは、幻怪病のときの症状だ。

 もしかしたら、あいつが現れるかもしれない。

 耳鳴りに苦しく顔をゆがめるが、何とか立て直し、周囲を見渡す。

 そして。

 どこかわからないところから、

「なんだよ……」

 あの甲高い子供のような声。実態は見せないが、確かにその声が聞こえた。

 一平も美樹も、その声を聞いて。

「おい! 期限のときまでもう2時間ない……お願いがある聞いてくれないか?」

 一平がどこにいるかわからない声の主に言う。

「聞かないよ。どうせ、願いはわかってるよ、手紙の効果の発動を辞めて欲しいんだろ」

「お前が、あの手紙をやはり送ったんだな?」

「だったらどうなのさ……」

「なんであんな手紙を送ったんだ?」

 即答で声の主が答える。

「退屈だったから、面白かったから……」

 その言葉に憤りを隠せない一平。

 強い口調で言う。

「ふざけるな、そんなくだらない理由で、僕達の未来を壊されるのは、たまったもんじゃない!」

 言うが、声の主が答える。

「ふざけることが僕の仕事なんだけどなぁ。あくまでもこれは、運命イタズラ。この運命イタズラのなかで君達は生かされているんだよ。運命イタズラなくして、君達の生きている理など存在しない、だから感謝すべきなんだよ」

「どういうことだ……」

「僕個人は、ほとんど関係ない話なんだが、君達がしらない世界がこの世の外にまだあるんだよ」

 すると、美樹が……

天異界てんいかいかしら?」

「お!? よく知ってるね?」

 一平も美樹が天異界という言葉を知っていたことに驚きの顔を見せる。

「以前幻聴で、聞いたことがある」

「そっか。天異界は言ってたっけ。君達の命が保たれているのは、その天異界の神々のおかげなんだよ。もっと感謝しないとだめなんだよ」

「全く意味がわからない、感謝すべきとか、生かされているとか」

「世の中の仕組みのことさ、説明すると、天異界の神が運命イタズラで、君達から、エネルギーをあるものから受け取って、そしてそのあるものを自分の力にかえて、その力をまた地上へと送り手助けする流れになっている。雨が降ったり、空気があったり、地球が回転したり、あたりまえな自然現象は神々が手助けしてくれてるから、起こっていることなんだ」

「あるモノを僕達から受け取って、地球を動かしているということだな? じゃあ、そのあるモノとはなんだ?」

「それは……愛だよ。人間達の愛。人が好きだという愛の力。愛のエネルギーは強力で、その気持ちを受け取って、神はエネルギーに変え、神も生きながらえ、地球を支えている。そういう仕組みになっている」

 初めて知るその事実に、一平も美樹も驚きの顔になる。

「俺達が、なぜ死ぬ必要があるんだ?」

 一平が聞くと、声の主が答えた。

「愛を人から受け取るのは、死ぬことで、受け取ることが出来るし。生きながらも、愛を人から喰らうことはできるけど、喰らわれたものはもう愛を2度と知ることは出来ない。人を愛したい、人に愛されたい、そんな感情の抜けた機械のような人間になる。そんな人間の心は、もう神の餌にもならないから、用済みなんだ。だったら、死んだほうがマシだと思って神々や権限を持つやつらが、人間達へ運命イタズラを施して殺す」

 一平が尋ねる。

「死んでいった人は、みんな、自分の愛を神々に奪われて死んでいったってことか?」

「そうだよ。神のため、あるいわ人のため、世の中のため、地球のため」

 美樹が言う。

「感情のない機械のような人間は、生きてる意味がないって、言ったよね? わたしは違うと思うの」

 そこで、声の主が言っていた生きてる意味がないということを否定し、

「わたしは元々愛など知らなかった。生きてる意味なんてないとも思った。それこそ、機械のような感情のない心だったけど。末永くんと出会って変わった。感情がないはずのそんな自分に愛を教えてくれた。初めて愛したいって思える人に出会えた」

 それに、声の主が、

「それは、まだ心の核の中に、息づくきみの感情があったからだと思うよ。どんなに、心が弱くても、愛は生まれる。人は愛するために生まれるし、愛されるために生まれる。でも、その核となる愛の心を失った人間は、もう本当に、自分自身がなんなのか、なんのためにいるのか分からなくなる。一生迷い続け、その心に誰も触れることは出来ないし、誰の声も届かないんだよ」

 一平が、

「でも、あの手紙の通り、死の運命イタズラから抗う術は、とりあえず、一つは残ってるんだろ、その愛の心だけを喰らうとかっていうの」

「それを君達が選択するのか?」

「ああ……お互い死ぬよりは、マシなはずだ」

「わかってないなぁ、こんな説明してあげてるのに、本当に死んどいたほうがいいよ。それに、君の妹ももう死んでて、妹も僕の存在に気づいて話をしたことがあったけど。君達と同じ条件を妹に突き付けたけど、迷いなく自分の命以上に、大好きなお兄ちゃんの命を選択したんだよ。選択肢の中で愛だけ、抜き取ることも出来ると説明したが、お兄ちゃんを愛せない自分はもう自分じゃないと言って、それは諦めた。彼女の愛こそが正真正銘の愛だと思うんだけどね」

 なんてことを声の主が言ってくる。

「妹が僕の事を……」

 一平は、妹が自分のことを愛してくれていることに、なんとなくだが、気づいていたが、自分の命を躊躇なく、投げうってまで愛されていたことに気づいていなかった。妹の愛情が、遠まわしに妹自身を死へ追いやってしまったことに責任を感じた。それでも、よりいっそう命を投げうってまで、守ってくれたこの命を大切にしようと、そんな気持ちが、芽生えた。

 時計を見る。

 23時42分。

 もう時間がない。

 18分しかない。

 18分後自分達は死ぬ。殺される。あるいは殺しあう。

「もし、6月26日を迎えたら、俺達はどういうかたちで殺されるんだ?」

 声の主が、説明する。

「それこそ、この前の朗読していたときのように、君達は愛に狂ってお互い殺しあうよ」

「そうか……」

 そんなことは、絶対に認められない。

 許容できない。

 許容できるわけがない。

 美樹をこの手に抱いたまま、美樹を殺し、殺されるなんて。

 そんなことは絶対にできないのだ。

「なぁ、透明人間……」

 初めて、そんなふざけた呼び名でよんでみる。

「俺達の愛を喰らってくれ」

「覚悟はあるのかい?」

「はなから1択しかないだろう……」

 一平が言うと美樹も言う。

「うん……お願い……」

「あと、16分準備はいい?」

 声の主が言うと、美樹が言う。

「ちょっと待って。最後の最後。遺書ではないけど、せめて、どのくらい末永くんのことを愛しているか、私に書き残させてほしい? いいでしょ? 末永くん」

 言って、美樹が末永の顔を見る。

「うん……俺も書く」

「そんなことしても無駄なのに……あと15分」

 声の主が言うが、美樹と一平が自分達の最後の思いをお互い書き合う。

 15分後は、もうお互いの愛は失っている。

 お互いの愛はもう忘れさられている。

 

 末永くんへ。

 初めて渡してくれたラブレター。

 ラブレターじゃなく、不幸の手紙だったね。

 でも不思議だね。

 不幸の手紙のはずが。

 今日のこの日を私はこんな幸福で嬉しい気持ちでむかえているよ。

 あの間違いがなかったら。

 きっとこんな奇跡のような出会いはなかったし。

 奇跡のような、愛情は生まれなかったと思う。

 自分は最近徐々にだけど。

 潔癖症が克服されつつあるよ。

 初めて観覧車で触れてくれた手。

 温かく、優しい温もりを感じたよ。

 あの手を触れてくれたことが。 

 潔癖的なわたしを少しずつだけど変えてくれたと思う。

 地味な自分を少しずつ変えてくれたと思う。

 ミスコンでは、ギター一生懸命弾いてくれてありがとう。

 怖くて、恥ずかしくて、好きだとか、愛してるって最初は言えなかったけど。

 なんだろう。

 形は違えど、城ヶ崎さんが素直に言う気持ちの大切さを教えてくれました。

 今なら、伝えても伝え足りないくらい、あなたに思いを伝えられます。

 ありがとう。

 本当に本当にありがとう。

 私の思いを変えてくれた末永くん。

 ずっと大好きだよ。

 愛、絶対に忘れないから。


 美樹の文章はそこで終わっていた。


 美樹ちゃんへ。

 愛の反対は無関心。

 最初はどこまでも、無関心だった美樹ちゃん。

 僕の愛がようやく届いてこの日を迎えられたのは、本当によかった。

 自分の思いを綴りたい。

 でも、もう時間がないんだ。

 残りもう5分。

 この文章を書いて、お互い見せあいっこして。

 そのときは、もう3分前くらいかな?

 タイムリーな今の気持ちを表現すると。

 愛してる、大好きだよ、ずっと一緒にいたいね。

 こんな簡単な言葉でしか表現できないけど、

 あらたな造語を自分が作る権限を持っていたら、

 大好きだよを超える最上級の言葉をつくりたいな。

 ああ、もう3分か。

 もう読みあいっこしようか。

 僕も、忘れないよ、美樹ちゃんのこと。


 そんな文章をお互い紙に書きあい。

 お互いがその紙を読んで。

 残り1分。

 声の主が言う。

「もう時間だね。じゃあ喰らうよ。君達の愛の心。さよならを言わなくていいの?」

 一平が言う。

「ああ……さよならじゃない! また、変わらない気持ちで会おう」

 美樹も言う。

「そのときは、またね……末永くん!」

 そして、二人は抱き合った。お互いの耐熱を感じながら。愛しあいながら。時計の針は24時をさした。

 

 そして。


 6月26日。


――彼らの深き愛は終わった。お互いの愛の心は、天異界へと旅立って行った――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ