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侯爵様が恋したのはお嬢様ではなく身代わり侍女の私です。ごめんなさい。  作者: とびらの


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22/30

見どころがいっぱいある!

 

 王国最大の巨大庭園を回り、色とりどりの花を観賞していく。


 それはもう本当に絶景の絶景。見事な枝ぶりの巨木、目が眩むほど鮮やかな花びら、とろけそうに甘い香りで誘うものもあれば、息を止めて駆け抜けざるをえない、悪臭を放つ奇怪な花まで。

 歩くごとに見たことのないものだらけ。まさしく黄金郷、宝島そのものだった。


 ――とはいえもちろん、この私ははしゃいだりしない。今日はなぜか侯爵に与えられたドレスで着飾っているとはいえ、お嬢様おつきの侍女に過ぎないのだ。

 大好きな植物を前にしたからって、決して我を失わないよう、自制していたのだが……。


「み、見てくださいお嬢様、あれはずいぶん珍しい花ですよ。あっちの花は北の海辺にしか咲かないはず、土に海水と似た成分を混ぜているのかもしれません……!」

「そ、そぉなの……?」

「ええそうなんです、まさかこの王国で見られるだなんてほんと信じられない、嘘っあっちにあるのは砂漠の薔薇! あれは植物ではないです化石の一種です、でもこの並びでおいてあるなんて粋な演出ですよねえ!!」

「んぁああ……?」


 私に引っ張られて、お嬢様は眠たそうな声を漏らした。


「ふふっ」


 という笑い声が聞こえた。音の方向を振り向くと、ラファイエット侯爵が、クックッと肩を震えわせていた。


「リナは本当に植物が好きなのだな。伯爵家の侍女なのに、ずいぶん詳しいみたいだし」

「い、いえいえ決してそんなことは――」


 と、顔をそらした先に、奇妙な形をした巨大花。私はまたまた歓声を上げてしまった。

 ああだめだ、無理だこれ。全然自制が利かないわ。

 だって本当に夢見ていた場所だもの。いつかお金を貯めて、旅行で来ようと思っていた。まさかこんなタイミングで夢がかなってしまうなんて。

 しかし、私と違って庭園にも興味のないお嬢様は、すっかり退屈してしまったようで、


「はあ……わたくし歩き疲れましたわ」


 そう言って、その場にしゃがみこんでしまった。


「歩いても歩いても葉っぱばっかり。……もう帰りません?」

「ええっ!?」


 と、悲鳴を上げてしまってから慌てて口をふさぐ。

 ラファイエット侯爵は見るからに悲しそうな顔をした。それでもお嬢様を気遣い、自分も体を屈めて並ぶ。


「女性が歩いて回るには大きすぎただろうか。すまない、どこか休めるところまで行こう」

「というかわたくし、もう帰りたいです」

「……せっかく来たのに。まだ半分も回っていないぞ。ここから先にこそ面白いものがたくさんある」


 侯爵から珍しく反論されて、お嬢様は明らかに機嫌を損ねた。眉を吊り上げ、顔をそむける。視線の先にちょうど、瀟洒な建物らしいものがあった。


「あれは東屋(ガゼボ)ですわね? わたくしあそこで休んでおります。興味がおありなら侯爵様だけで見て回ってくださいまし」


 そう言って、さっさと離脱してしまった。


「……あー……」


 呆然とする侯爵。

 私は慌てて、侯爵に頭を下げた。


「たいへん申し訳ございません! お嬢様はその、なんというか、お嬢様育ちなもので。土の道に慣れておらず、足を痛めたのかもしれません」

「足を……?」

「いいえ私が靴の整備を怠ったせいでしょう。本当に申し訳ありません。……せっかくの機会ではございますが、今日のところはこれで……」


 ひどくぶしつけなお願いに、意外にも彼は機嫌を損ねはしなかった。むしろ目を細め、またクスッと笑い声を漏らす。


「仕方がない。ならばベルメール嬢はここで休ませ、先へ進もう」

「えっ……? わ、私と二人でですか?」

「ああ。リナさんはこの先にも興味津々なんだろう?」


 そのとおりですっ!


「で、でも」

「行くぞ」

「は、はい……畏まりました」


 そう言われたら仕方ない。私はお嬢様を置いて、彼と共に庭園を歩き始めた。


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― 新着の感想 ―
[一言]  ああ、すみません。  悪魔の尻尾を生やした(タチの悪い)どこぞの庶子が、裏で糸を引いているのかな、と。  
[一言]  うむ、スラックスの中に先の尖った尻尾を隠したどっかの庶子がいるらしい(^^)
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