見どころがいっぱいある!
王国最大の巨大庭園を回り、色とりどりの花を観賞していく。
それはもう本当に絶景の絶景。見事な枝ぶりの巨木、目が眩むほど鮮やかな花びら、とろけそうに甘い香りで誘うものもあれば、息を止めて駆け抜けざるをえない、悪臭を放つ奇怪な花まで。
歩くごとに見たことのないものだらけ。まさしく黄金郷、宝島そのものだった。
――とはいえもちろん、この私ははしゃいだりしない。今日はなぜか侯爵に与えられたドレスで着飾っているとはいえ、お嬢様おつきの侍女に過ぎないのだ。
大好きな植物を前にしたからって、決して我を失わないよう、自制していたのだが……。
「み、見てくださいお嬢様、あれはずいぶん珍しい花ですよ。あっちの花は北の海辺にしか咲かないはず、土に海水と似た成分を混ぜているのかもしれません……!」
「そ、そぉなの……?」
「ええそうなんです、まさかこの王国で見られるだなんてほんと信じられない、嘘っあっちにあるのは砂漠の薔薇! あれは植物ではないです化石の一種です、でもこの並びでおいてあるなんて粋な演出ですよねえ!!」
「んぁああ……?」
私に引っ張られて、お嬢様は眠たそうな声を漏らした。
「ふふっ」
という笑い声が聞こえた。音の方向を振り向くと、ラファイエット侯爵が、クックッと肩を震えわせていた。
「リナは本当に植物が好きなのだな。伯爵家の侍女なのに、ずいぶん詳しいみたいだし」
「い、いえいえ決してそんなことは――」
と、顔をそらした先に、奇妙な形をした巨大花。私はまたまた歓声を上げてしまった。
ああだめだ、無理だこれ。全然自制が利かないわ。
だって本当に夢見ていた場所だもの。いつかお金を貯めて、旅行で来ようと思っていた。まさかこんなタイミングで夢がかなってしまうなんて。
しかし、私と違って庭園にも興味のないお嬢様は、すっかり退屈してしまったようで、
「はあ……わたくし歩き疲れましたわ」
そう言って、その場にしゃがみこんでしまった。
「歩いても歩いても葉っぱばっかり。……もう帰りません?」
「ええっ!?」
と、悲鳴を上げてしまってから慌てて口をふさぐ。
ラファイエット侯爵は見るからに悲しそうな顔をした。それでもお嬢様を気遣い、自分も体を屈めて並ぶ。
「女性が歩いて回るには大きすぎただろうか。すまない、どこか休めるところまで行こう」
「というかわたくし、もう帰りたいです」
「……せっかく来たのに。まだ半分も回っていないぞ。ここから先にこそ面白いものがたくさんある」
侯爵から珍しく反論されて、お嬢様は明らかに機嫌を損ねた。眉を吊り上げ、顔をそむける。視線の先にちょうど、瀟洒な建物らしいものがあった。
「あれは東屋ですわね? わたくしあそこで休んでおります。興味がおありなら侯爵様だけで見て回ってくださいまし」
そう言って、さっさと離脱してしまった。
「……あー……」
呆然とする侯爵。
私は慌てて、侯爵に頭を下げた。
「たいへん申し訳ございません! お嬢様はその、なんというか、お嬢様育ちなもので。土の道に慣れておらず、足を痛めたのかもしれません」
「足を……?」
「いいえ私が靴の整備を怠ったせいでしょう。本当に申し訳ありません。……せっかくの機会ではございますが、今日のところはこれで……」
ひどくぶしつけなお願いに、意外にも彼は機嫌を損ねはしなかった。むしろ目を細め、またクスッと笑い声を漏らす。
「仕方がない。ならばベルメール嬢はここで休ませ、先へ進もう」
「えっ……? わ、私と二人でですか?」
「ああ。リナさんはこの先にも興味津々なんだろう?」
そのとおりですっ!
「で、でも」
「行くぞ」
「は、はい……畏まりました」
そう言われたら仕方ない。私はお嬢様を置いて、彼と共に庭園を歩き始めた。




