1.普通の青年
ここは異世界転生相談所・地球支部
転生者と転生先についての相談を行う場所である。
今日も今日とて、転生希望者がやって来た。
今日の客はごくごく普通に生きた青年。
彼はどのような転生を望むのであろうか?
そして彼の進むべき道は?
ここは異世界転生相談所・地球支部
地球で死んだ人間を、違う世界に転生させる為の相談を行う場所である。
ちなみに、転生が行われた場合、ここでの記憶は消去される。
逆に地球に転生したい人も来ることがあるが、チート持ちを基本受け入れない地球は、転生先としての人気はかなり低いのであまり来ない。
私はここで転生希望者の話を聞く転生相談員である。
今日も今日とて、転生希望者がやって来た。
「どのような異世界転生をお望みですか?」
「はい!剣と魔法の世界で、チート無双したいです!」
また来たよ。最近多いんだよね。この手の人。
「ですが、近年この手の転生希望者が多く、異世界側との合意がなかなか成立しないと思われますが……」
「は?なんなんですか?その合意って」
「当地球支部は他の支部と連携をとり、異世界が欲しい転生者をこちらの支部から紹介し、転生希望者と異世界側及びチート内容を双方合意したうえで、転生を行う、という仕組みになっております。
ちなみに、転生手順は次の様になっております。
1.転生希望者にどのような世界、どのような能力等の希望条件を聞く。
2.希望条件及び転生希望者の現在の能力や性格、地球での生活記録等を、各支部に送る。
3.転生させてもいい異世界があれば、転生希望者はそこの転生相談員と具体的な打ち合わせを行う。
4.両者が合意すれば、仮転生が行われる。
5.十数年後、その世界の転生相談員が問題無しと判断すれば、本転生が行われる。
このようにして、転生は行われます」
「その…… 仮転生ってなんですか?」
「ます転生していただき、その世界で暮らしていただきます。
問題無しならば、そのまま暮らしていただきますが、問題有りと判断された場合、その世界から退場してもらいます。
つまり、死んでいただきます」
「ふざけるな!」
「ふざけておりません。
そもそも、自分の世界で生まれ変わればいいものを、わざわざ他の世界に今までの記憶を持って生まれるのです。
その位のリスクは背負って当然かと思いますが?」
「……判断基準はなんですか?」
「異世界によって様々ですが、あなた様が望まれるような剣と魔法の世界では、どの程度結果を出したか、という判断理由が多いです。
ちなみに、異世界がそもそも末期的な状況だったり、ハードな状態だと判断のハードルは下がります。
逆に、スキルがすごすぎたり、生まれた環境が良すぎたりすると、ハードルは上がります。
このあたりのバランスはとても重要です」
「…… わかりました。ちなみにいつ頃転生できるんですか?」
「わかりません。やはり異世界側も性格や本人の能力等を総合的に判断して転生者を選びます。
あなた様の場合、失礼ですが性格面に問題はありませんが、能力面では並み以下で際立った技術もありません。
ですので、転生は難しいかと。」
「そこを何とかするのがあなた達の仕事では?」
「転生相談員は転生希望者を診断し、適正な転生を行うのが仕事です。
可能な限り転生できるよう、転生相談者へ提案をしたりすることもありますが。
転生はいくらチートがあろうと、やはり本人の素質が重要ですので。
よりいい人、優秀な人が転生者として選ばれます」
「じゃあ、転生できないんですか?」
「合意できない場合、転生は出来ません。ちなみに、近年地球支部での転生希望者は大幅に増加傾向にありますので、転生成立率は10%を切っております」
「そんな……」
この転生希望者は、ようやく現実を理解したようだった。
多いんだよね。
彼のように普通に生きてきた人はまだいい方で、まったく能力のない人や努力すらしたくないくせに転生したがる人も多い。
チートがあればなんとかなると思っている馬鹿が多いのだ。
そういう人は、仮に転生してチートを与えても大概1度の失敗や人間関係で挫折するんだよね。
まぁ、まれにニートでもいい、と言う異世界もあるんですけれど。
その場合、本人の性格や可能性を見極みて呼ばれることが多いのだ。
彼は大きくため息をつくと、
「……わかりました。
じゃあ、転生できるまで何年でも待ちます。
どうせ死後の世界なんだから、年取らないですし」
「わかりました。
転生希望者は、転生先が見つかるまで地獄での強制労働となりますので、その為の手続きに入ります」
「ちょっとまってください!なんなんですかそれ!!」
「転生希望者はいっぱいいるのです。特に地球人は。
転生する可能性がある人を、いちいち死者の裁判を行うのは手間がかかります。
ですので、転生するまでの間、地獄での下働きをしてもらいます。
天国より地獄の方がはるかに人手不足なので」
「それって…… やっぱりハードなのか?」
「ええ、ハードです。地獄の鬼ですらやりたがらない仕事ですから。」
彼の顔が青ざめている。
まぁ、大概の人はこうなるんだけど。
「ちなみに、転生を希望せずに帰った場合はどうするのですか?」
「その場合は死者の裁判が行われ、天国生きか地獄行きが決定します」
「そんな……」
彼は落ち込んだ後、しばらく考えた結果、
「わかりました。転生は諦めます。
ありがとうございました」
こう言って帰っていった。
職務規約上言えないが、彼はおそらく天国行きだろう。
彼のような人間は、転生よりも天国に行った方がいいだろう。
天国で暮らした後、地球で生まれ変わる事も出来るのだから。
こうして今回の転生相談は終わった。
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