表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/79

序 大社に伝えられし神世の物語①

 神がおられた。

 すべてにはっきりとした姿や形のない、おそらくは遥かな昔。

 一柱の神がおられた。


 神はひとつでありすべてであった。

 始まりであり終わりであり、隔てのない混沌であった。

 隔てのない混沌に優劣も美醜もなく、ただあるがままに穏やかにあった。

 その穏やかさこそが『神』であった。


 しかし神は、神自身であるのと同じくらい確かなこととして、救いのない病に苦しんでいらっしゃった。

 その病は、後に『孤独(さみしさ)』と呼ばれるものと大層似ていた。


 病の神は、やがて苦しみから逃れたいと思うようになられた。

 『望み』は『願い』を、『願い』は『隔て』を生むことを、もちろん神は御存知でいらっしゃった。

 だが火よりも氷よりも激しく苛む病の苦しみに、神であろうとも最後まで耐えることはお出来になれなかった。


 ついに神は『望み』を言霊にして願われた。


「我ではない者を、我のそばへもたらせ。我を苦しみから解き放つ者を、我のそばへもたらせ」


 神の願いは瞬くうちに形となり、神の許へともたらされた。

 『我ではない者』という願いから、その身に『孤独あお』を含まない、即ちなにものにも囚われぬ『いろなし』という男神が、『我を苦しみから解き放つ者』という願いから、その身に限りなく『孤独あお』を受け入れる『くろ』という女神が生まれた。

 二柱の神は婚姻よばいして子を成し、すべての事象の親となった。


 こうして、ひとつでありすべてである病の神『あお』、空であり海である大いなる神の望みにより、世界は生まれた。

 それらは麗しい夢にも似ていて、神の病の苦しみをひととき忘れさせ、優しく宥めた。


 かの方の望みのままに、様々なものは生み出された。

 しかし生まれたものはやがて衰え消えてゆく。

 神がお創りになられたとはいえ、それが『隔て』を持つものの宿命(さだめ)であった。

 『病』……寂しさや虚しさは、世界が華やぎ栄え、美しければ美しいほど儚く消えた後に深まり、際立った。

 せっかく生まれてもやがては泡沫(うたかた)のごとく儚くなるあれこれに、『あお』の病は深まりこそすれ、癒えることはなかった。



 幾多の移り変わりの末、『あお』は最後の『願い』を言霊にした。


「なにものにも染まらぬ色を持つ、誇り高き者を」


 その願いを最後に、『あお』は永遠の沈黙の中へと沈んだ。



 その『願い』が形となった姿こそ、真白き神の鳥たる『大白鳥神(おおしらとり)』である。

 何にも染まらぬ真白の翼と、金とも銀ともつかぬまばゆい瞳、燃えるような緋色に輝く嘴の神の鳥は、自ら輝きながら蒼ざめた空と海の間を飛翔し続けた。


 やがて神の鳥はひとつの土地を見出し、降り立って後に子を成した。



 それが今の世である。


 今の世をお創りになられたやんごとなき神の鳥『大白鳥神(おおしらとり)』の貴き末裔(すえ)大王(すめらみこと)の許でこの世は、すでに千年栄えている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 始まりからめちゃくちゃ壮大な世界観で素敵です! 確かにこれを書くのは骨が折れる~。 でも完結まで一気読みできるのは贅沢 *。・+(人*´∀`)+・。*
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ