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真っ赤なドレス。

 急激に日が翳り、雨脚が強くなったのがわかる。

 中庭だけは宮廷術師の調べのお陰でどうやら雨から守られていた。


「皆さん。あいにくの雨でリカルドは沿岸の警備に出なくてはならなくなってしまいました。お詫びに奥の間に宴席を用意してありますので、そちらでくつろいでくださいね」


 そう、良く通る綺麗な声に皆の注目が集まる。


 あれは、王妃さま? わたしの記憶の王子様によく似たお方。確かジュディ王妃だったっけ。

 リカルド様のお母様は東方の血筋だと聞いた。黒髪に浅黒い肌。そして黒い瞳がステキな方だったって。

 もうお亡くなりになったんだよね確か。

 リカルドさま産まれて直ぐくらいだったとか。


 その後ジュディ王妃が嫁いでこられてほんとうのお母上の様にリカルド様を育て上げたのだとかいう話。

 でも。その王妃に男子の御子がいるという話は聞かない。その後産まれた御子は姫が二人と公式には発表されている。

 わたしの王子様はこの国には存在しないのだ。


 何処かの国の王子様なのかな。たまたまこの国にいらっしゃってたのかな。そうは考えるけどいまだにわからないのだった。




 宮廷術師達が頑張っているけれどぽつんぽつんと雨の雫が降ってくる様になり、皆はけっこう慌てて室内に戻る。

 わたしもお嬢様からはぐれない様にと思って優雅とは言い難い歩き方になってた。


 これだけ大勢の人間が一箇所の扉に集まると当然身動きが取りにくくなるもので。


「きゃぁ」


 あ、お嬢様!


 どうやらドレスの裾を誰かに踏まれたクローディアお嬢様が盛大に転んだ。

 ああ、ドレスも破れてる。


「大丈夫ですかお嬢様」


 そう抱き起こそうと詰め寄ったわたしにお嬢様、


「お前のせいよ! お前がちゃんとわたくしの背後を守っていればこんな事にならなかったわ!」


 そう、差し出したわたしの手を払って泣き叫んだ。


「せっかくのドレスが台無し! もう嫌! だから他のメイドが良いって言ったのよ! お前なんかどっか行っちゃえ!」


 しゃがみこんで泣き叫ぶ。


 他の皆はあらかた室内に戻りまだ外にいるのはお城の使用人と宮廷術師、そして、最後まで見守っていた王妃様だけになっていた。


「まあまあ。あなたクローディア・アジャンね。娘のドレスが合いそうだわ。貴方達、彼女を控えに案内して整えてあげて」

 そう、王妃様が声をかけてくれ、使用人達がわらわらとお嬢様を抱き起こし連れて行く。


 わたしもついていこうと思ったところで、

「アリアはついてこないで!」

 そういうお嬢様の剣幕に、思わず立ち尽くしてしまい。


「興奮しているのね。クローディアのことは任せて。貴女は奥の間にどうぞ」


「ありがとうございます王妃殿下。よろしくお願いいたします」


 わたしはとにかくそうお礼を述べ、屋内に入る。雨は激しさを増し、中庭にも漏れて降ってきていた。




 ついてこないでと言われても……。

 ……お仕事だからね?

 うん。フニウ。


 控えの間の前で待っているとギイと扉が開いた。

 顔をのぞかせたのはお嬢様の真っ赤なドレスを持った城の侍女だったのだけれど……。


「ああ、ちょうど良かった。貴女アジャン家のメイドね? お嬢様かなりの癇癪持ちで貴女も大変ね……」


「申し訳ありません、お嬢様に何かありました?」


「それがね、もうこんなドレス見たくもないから処分して! って怒鳴られて……。でも私達が勝手に処分する訳にもいかないでしょう? どうしようかと思ったんだけれど、貴女が居てくれてちょうど良かったわ。はいこれ、渡しておくわね」


 ああ、お嬢様……。


「ほんとお手数おかけします。申し訳ございません。ドレスはわたしがなんとかします」


「ありがとう。じゃぁ私は中に戻るわね。貴女は……、まだもう少し顔を見せない方が良いのかしら?」


「そうですね……。お嬢様をよろしくお願いします」


 侍女が部屋に戻るのを見送って。




 はぁ。どうしようこのドレス。かなり盛大に破れてるよね。馬車の荷台にでも持っていくかな。


 ……そんな悠長な事言ってられる時間なさそうだよアリア。龍がかなり大きくなって暴れてる。このままじゃ王子達も危ないかも。


 そっか。うん。ちょっと頑張らなきゃ、かな。

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