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エラーナさん絶好調



 翌日は忙しくなった。

 まず普通に朝起きて家畜の世話をして食事して、昨日の夜から準備していた「こたつ」と「ストーブ」の竜石核と設計図を竜石職人学校に置いてくる。

 職人学校の方でそれらを分析、実際形にしてもらう間、俺とラナは児童施設に事情を説明しに行く。

 クラナたちに家畜の世話を頼まなければならないからだ。

 あと、その間の食事は職人学校の食堂で摂ってもらった方がいいだろう、とか……まあ、そんな話を。

 ファーラを『緑竜セルジジオス』の王都へ連れて行った時に経験済みだかろうから、話せばすぐに理解してくれるだろう。

 …………と、思っていた。


「ファーラも行く!」

「「なんで!?」」


 思わずラナと言葉が重なる。

 なぜ!? どうしてそうなる!?

 なんでその結論に至った!?

 そしてファーラがそんな事を言い出すと——。


「ずるい! ファーラばっかり! あたしも行きたい!」

「アメリーもぉ〜」

「はあ!? じゃあおいらたちも行きたい!」

「そーだそーだー! ふじょうどーだ!」

「不平等の事かしら?」

「そ、そう、それ」

「ちょ、ちょっとあなたたち! 勝手な事言っちゃダメよ! わたしたちはお留守番を頼まれてるのよ!?」

「そうだよ。家畜の世話、誰がするの。オレはするけど?」

「「「………………」」」


 ここぞとばかりに追随してきたクオンとシータルとアル、アメリー。

 だが、クラナとニータン……まあ、多分ニータンの一言がデカかった。

 沈黙のあと、拗ね顔。


「お土産買ってくるから」

「ファーラは行く」

「ファ、ファーラ?」

「ファーラはついて行く! 絶対! 行く!」

「ファーラばっかりずるい!」


 頑ななファーラに、クオンが噛みつく。

 ファーラってこんなに我儘言う子だったっけ?


「だって昨日は我慢したんだよ!」

「「うっ」」


 それを言われると!

 ……確かに昨日はファーラの存在がロリアナ嬢、ひいては『黒竜ブラクジリオス』にバレるのがよろしくないと思って町の方に行ってもらったけれど!


「ユーお兄ちゃんとエラーナお姉ちゃんが遠くに行くのやだ!」

「! …………。……う、うん、そ、そうか……」

「フ、フラン!? まさか連れて行く気!?」

「……まあ、あの……ファーラは、ほら……」


 ココ、と瞳を指差す。

 それにラナもハッとする。

 ファーラは、『聖なる輝き』を持つ者なのだ。

 護衛の俺が他国に行くのはちょっと、ね。

 それなら連れて行った方がいい。


「でも……」

「うーん」


 ラナの続く言葉は当然予想がつく。

 せっかく『黒竜ブラクジリオス』のロリアナ嬢に隠し通したのに、『青竜アルセジオス』に連れて行っては同じ事。

 むしろ、新たな『聖なる輝き』を持つ者の存在を他国に晒す事となる。

 もっと最悪だ。

 …………いや、でもないな?


「あ。うちの家族……」

「! あ、そうか……フランの実家なら……」


 うちの実家……うちの家族なら、ファーラを預けていても大丈夫だ。

 なにしろ『ベイリー家』は青竜に仕える一族。

『青竜アルセジオス』王家どころか、他国の王家相手でも多少モノが言える。

 というか、竜に仕える一族だからこそ『人間』の都合には屈しない。

 どちらかというと『聖なる輝き』を持つ者にこそ膝を折るべきだろう。

 ……まあ、俺はリファナ嬢に膝を折ったりしないがな。

 リファナ嬢に膝を折るくらいなら、俺はファーラを抱っこする。


「…………姉さんたち、意思疎通出来すぎでは……?」

「「え? なんの事?」」

「あ、自覚がない……」

「「?」」


 クラナが突然呆れた顔に。

 なぜだ?

 いや、しかし、あまりファーラだけを特別扱いするのはちょっとなぁ。


「よし、お給料を出しましょう!」

「は?」


 ラナさん?

 突然なにを言い出すの。


「昨日のパン屋のお手伝い分と合わせて、私とフランが『青竜アルセジオス』に帰っている間、家畜のお世話や小麦パン屋のお手伝いをしてくれた子に一日の日当として銅貨五十枚を出します!」

「「「!?」」」

「ど、銅貨五十枚!?」

「そ、そんなに?」


 ファーラ以外、全員の目の色が変わった!

 ……まあ、ファーラはお城で豪勢で苦痛に満ちた数日間を過ごしたから、お金では動かない、か?

 しかし一日につき銅貨五十とは……!

 クーロウさんたち、大工職人並みの日当では!?


「すぐに帰ってくるつもりだけど、『青竜アルセジオス』まで馬車で丸一日かかるわ。それに、一週間は泊まってくると思う。つまり、家畜のお世話、毎日のお掃除、お留守番、小麦パン屋さんの手伝い等々、日頃私とフランがやっている事をこなすだけで少なくとも銀貨五枚ぐらいになる可能性が高い、という事よね?」

「ぎっ……!」

「銀貨、五枚!」


 クオンは自分の服を作ってみたいと言っていた。

 羊毛や羊毛糸は意外と高いが、銀貨五枚は余裕で服を作れる金額だ。

 そしてシータルはチーズに使う気だろう。

 アルは……とりあえずお菓子買いたい、と顔に出ている。

 アメリーもおしゃれに気を使う年頃なのか、口から「かわいいリボン買う〜」とすでに買う予定のものが出てきてしまった。

 アメリーが欲しいものを口にすると、クオンも「あ、あたしも羊毛糸が欲しい……セットで売ってるやつがあったの。銀貨五枚で売ってて……銀貨五枚あったら買える!」と言い出す。

 そしてクラナも「銀貨五枚あれば新しい靴が買える……」と自分の足下を見た。

 んん、確かにクラナの靴は皮のブーツだ。

 これから寒くなると皮のブーツは足が冷えて大変だろう。

 あと、皮のブーツは雪が降ると濡れてしまうし。

 せめて動物性の革のブーツの方がいい。

 うん、買え。

 っていうか、クラナは働き過ぎなくらい働いてるので買えるのでは?


「ファーラは……」

「行くからね! ファーラはユーお兄ちゃんとエラーナお姉ちゃんについて行くからね!」

「…………。みんなはどうする?」


 と、聞いてみる。


「「「「「お留守番してるー」」」」」

「……えっと、ファーラをよろしくお願いします」


 満場一致……。

 金の力の偉大さよ。


「でもファーラは本当にいいの? またドレスとか着せられるわよ?」

「うっ! そ、それはやだけど……でも、ユーお兄ちゃんとエラーナお姉ちゃんを追い出した国に行くんでしょ? ファーラは『せいなるかがやき』があるから、エラーナお姉ちゃんのことまもってあげる!」

「っ!」


 口を両手で覆うラナ。

 その眼元は感動で潤んでいる。

 あ、うん、これは……かわいい……かわいいね……。

 ドヤ顔でなんて可愛い事を……っ!


「つ、連れて行く! 連れて行くわよ、フラン! 異論は認めないわ!」

「はい。どうぞどうぞ」


 そんながばちょ、からのぎゅーっとしておきながら……いやうん、そんな事言われたら……うん。

 それに——……実際、ファーラの存在は『切り札』になり得る。


「…………」


 なにより守らないとって余計気合いが入るな。

 あと、うち男ばっかで母さんが娘欲しがってたから多分猫可愛がりされるだろう。

 あはは、うちの親父の顔がどんなふうにでろでろになるのか見ものだなー。


「じゃあファーラはついてくるという事で……明日迎えにくるから、お泊まりの準備をしておくのよ。クラナ、クオン、手伝ってあげてね」

「はい」

「はぁい! 任せてエラーナお姉ちゃん!」

「えーっ、ファーラ、一人でできるよ!」

「アメリーも手伝ってあげるー」

「一人でできるってばぁ!」


 ここは楽園かな?


「次はクーロウさんとレグルスに報告ね……。本当はドゥルトーニル家の方にも連絡しておくべきだけど」

「今日定期視察に来るって言ってたし、町にいたりしてね」

「それだと楽ねぇ〜」


 なんて話をしながら、『エクシの町』へ向かう。

 まあ、結論から言えばカールレート兄さんは期待を裏切る男ではない。


「お? ユーフラーン!」

「いるし」

「さすがカールレートさんね。とてもタイミングがいいわ」

「?」


 たった今、到着しました、と言わんばかりの状況。

 いやー、兄さん持ってるねぇ〜。

 というわけで連行する。


「なになになになになんだなんだなんだなんだ!?」

「レグルスは商会にいるかしら?」

「いなかったらクーロウさんちにいるだろうな。職人学校にはいなかったし」

「説明しろぉ、お前ら!?」


 カールレート兄さんの首根っこを掴み、レグルスの商会まで引きずっていき、商会の受付にレグルスの所在を確認すると「クーロウさんちの倉庫に行っている」と言われてしまう。

 たまにクーロウさんの仕事で取引している、木材を運び込むのについて行ってお金の話とかするらしい。

 最近は職人学校で使う木材や鉄材もレグルスが取り扱っているので、間違いがないかよく確認するようになっているのだろう。

 仕事はきっちりやる商人だ。


「おーい、そろそろ俺を連れ歩く理由を教えてくれー」

「クーロウさんとレグルスに会ったらね。まとめて話した方が楽」

「俺の扱い雑過ぎないか」

「普通普通」


 なんだかんだ言いながらちゃんとついてきてくれる辺り、カールレート兄さんである。

 勝手知ったるクーロウ家。

 庭の横に立つ巨大倉庫に入ると、ゴリマッチョな職人たちが木材を取り囲んでガヤガヤしていた。

 既視感。

 ああ、初めてこの場所に来た時の事を思い出したのか——。

 あの時はみんなに睨みつけられたものだが……。


「あ、エラーナ嬢ちゃんじゃないですかー」

「カフェ開店来年ってマジすか?」

「メニューはどんなものがあるんですか!? おれ、絶対通います!」

「おお、ユーフランも一緒か〜。なあなあ、なんか倉庫の気温をあったかくする竜石道具とかないか? 寒くて作業が……」

「服を着て、手袋すれば?」

「フラン……」


 ……なぜあの日の事を思い出したのだろう?

 振り返った彼らは笑顔でラナに声をかけ、俺に縋るような目線でそんな事を聞いてくる。

 もう一人一人の名前も知ってるし、気軽に会話を交わす事も出来るようになったのに。


「確かにこんなに広い倉庫の中では寒いわよね。大型のストーブ……いえ、暖房があればいいのかしら?」

「だんぼ……?」

「クーラーのあったかいバージョンよ!」

「それはストーブなんじゃ……」

「ストーブでも足りないレベルだと、暖房なの!」


 わけが分からないよ。


「おお、オメーらいいところに来た。ん、カールレート様もいらっしゃってたのか」

「ああ、定期の視察だ。それより、ユーフランとエラーナ嬢がなにやら話があるとかで連れてこられたんだが……」

「アラ、先にこっちの話をしてもいいかしラ?」

「うん? なぁに? なにかあったの?」


 レグルスが設計図のようなものを持って近づいてくる。

 んん、石窯の設計図?


「パンノミパン屋の石窯を、小麦パン用に少し大きくする予定なんだけどネ〜」

「金が足りんとか言い出してな。仕方ないから今ある石窯をそのまま使うか、出せる分だけで大きくするかを話してたんだが……」

「ごねてるのよネェ……」

「パンノミを焼く窯って、かなり小さかったわよね? 足りないわよ、あれじゃあ。え? 出せないって言われたの? はぁ? やる気あるわけぇ?」


 あー、パンノミパン屋は昨日、小麦パン屋の従業員がレシピを教えに行っていた。

 その時に石窯が小さ過ぎると分かったのか。

 確かに、パンノミ自体さほど大きくない。

 なんならパンノミをそのまま売って、自宅に買って帰ったあと各家庭で焼いていたりするからだ。

 でも、小麦パンを焼くのなら石窯にある程度の大きさは必要だろう。


「パンノミパン屋としての意地がまだ残ってるみたいなのよネェ。ケド、契約上ちゃんと用意してもらわなきゃ困るって言ったら『この石窯で焼ける分だけでいい』とか言い出しちゃっテェ」

「挙句どーしてもっつーんなら銀貨一枚分なら『出してやる』とかわけ分かんねー逆ギレしてきやがってなぁ」

「なにそれ。本当にわけ分からないわね……」


 ラナも呆れ果てるパンノミパン屋の最後の抵抗。

 はあ、なんか面倒くさい事になって——……。


「ふふふふ……それなら格の違いを見せてあげますわ!」

「アラ? なんかスイッチ入っちゃったわネ?」


 奇遇だな、レグルス……俺もなんか面倒くさい気配を感じるよ。

 腰に手を当てて、なんとなく令嬢モードに突入している。

 ここからはしばらくドヤ顔。


「金貨五枚……いえ、十枚出すわ! お店を買収、買い取ってしまいましょう!」


 ひょおぉ!?


「アラァ……あっさりと最終手段に出るのネェ?」

「もちろん脅しですわよ?」

「悪質ネェ?」

「それが嫌ならある程度は譲歩してもらわないと困りますわ! こっちはすでにレシピをいくつか教えているんでしょう? レシピは買取。使用料をがっぽり取らないだけ、ありがたいと思ってもらいたいくらいですのよ!」

「まあそうよネェ……」

「だいたい、石窯の改修をしないのなら、こっちはそれでも構いませんわ! だってレシピを知りたいって言ってきたのは向こうだもの! けど、だからと言ってふっかけられた喧嘩なら真正面から買って、いえ、買い取って差し上げますわ! オーッホッホッホッホッホッ!」

「…………。クーロウさん、なんとか諦めさせましょウ。その方がパンノミパン屋のためヨ」

「だな」


 ……俺もその方がいいと思いました。




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